本当に有能な教師は全体の2割程度? 「できる教師」「ダメ教師」6つのパターン

社会

公開日:2015/5/17

 教師の不祥事が取り沙汰されるたび、「またか」という残念な気持ちになる。それほどまでに、問題教師の数が増えてきたのだろうか。“教師のカウンセラー”として千人単位の教師に接してきた著者による『教師の資質 できる教師とダメ教師は何が違うのか?』(諸富祥彦/朝日新聞出版)は、「9割の先生はとても誠実で熱心な、信頼できる先生だ」と言い切る。

 組織論でよく「2-6-2の法則」(別名「働きアリの法則」)がいわれる。どのような組織であってもしぜんと3つのグループにわかれるというもので、優秀な上位グループが2割、平均的な中位グループが6割、そしてパッとしない下位グループが2割の内訳に落ち着くという。本書によると、これに近いものが教育現場にも当てはまる。つまり、力量の高い優秀な「できる教師」が2割、得手不得手はあるものの総合的に見れば一般的な力量の教師が7割、力量の低い「ダメ教師」が1割。割合が若干「2-6-2の法則」とは違うが、公立・私立を問わず、著者の実感ではどの学校でもこうなるという。

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 教師の力量やタイプは、学級の様子からわかる。よい学級には、
(1)ルールが守られていて秩序が保たれている
(2)「教師と子ども」「子ども同士」のふれ合い(=リレーション)がある
という2つの特徴がある。学級は次の6つのパターンに分類できる。

(※類型の基本は早稲田大学の河村茂雄氏が開発したQ-Uテストによる大規模な調査結果を踏まえ、著者の体験や類推を加味したもの)

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【パターンA】(1)◎ (2)◎
この学級の教師は、いわゆる「スーパー教師」。教師全体の2〜3%程度。ほかの学級と比べて明らかな違いが見られる。学級の雰囲気は落ち着き、子どもたちの成績が一挙に伸びる。

【パターンB】(1)◯ (2)◯
有能な教師。17〜18%程度の割合で存在。集団場面と個別対応の場面でモードチェンジができる。具体的には、一人ひとりの子どもに役割を与えて自己存在感を持たせ、個別に接するときは側にいるだけでほっとする雰囲気に包む。

【パターンC】(1)◯ (2)×
ビシッとしたところがあり、ルールはルールとして守らせるのが得意。30%程度の割合で存在する。ルールに厳しい結果、生徒を抑えこみがちで、学級の活気や子どもの個性が欠ける傾向。30年ほど前は主流だったが、近年激減しているタイプ。現在は、「子どもになめられてはいけない」とついつい指導が厳しくなる20代、そして頭がかたくなる50代の教師に多い。

【パターンD】(1)× (2)◯
子どもがすこしザワついたり、隣の子どもをからかったりしていても授業を止めてまで指導をせず流し、自分をニックネームで呼ばせるなどの「なれ合い型学級」に多い教師。40%程度の割合で存在し、近年急増しているタイプ。生徒に厳しい指導をしづらくなってきた世相を反映したタイプともいえる。うまくいっている間はよいが、学級が荒れ始めると進行が早い。

【パターンE】(1)× (2)×
ルールや秩序が作られにくく、リレーションも生まれにくい学級の教師。10%程度存在。仕事をさっさと切り上げるため、退勤時間が早い。このタイプの教師が学校に1人いるだけで、ほかの教師も同調して退勤しやすい。過労気味の学校現場で必要悪的存在ともいえる。

【パターンF】(1)×× (2)××
問題教師。【パターンE】の中で1〜2%存在。力量がないというより指導自体できず、さらには常識が欠如している場合もあり、教師としての資質そのものが疑われる。たとえば、「生徒に暴言を吐く」「異性の生徒につきまとう」「教材に動物の死骸を使う」などの例が挙げられる。公立学校の教師である場合は公務員のため辞めさせることができない。そのため、本書では学級担任はもとより、授業をしたり、部活の顧問をしたりといった「生徒に直に触れるポジション」につけるべきではないとしている。
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 パターンFを除き、A〜Eの教師が連携していけるのが理想の教師集団だという。よくあるのは、【パターンC】【パターンD】を否定する論調だが、教師集団のカラーが偏ると、多様な個性を持った生徒たちに対応できなくなる。周囲にはあまり評判がよくない教師が、意外に自分やわが子と相性がよかった、という経験を持つ保護者もいるはずだ。

 ちなみに、20年にも及び全国の教師を見てきた著者は、教師の資質を次のように紹介している。

(1)使命感と情熱がある
(2)情緒が安定している
(3)打たれ強く、心の回復力が高く、ポジティブなエネルギーを発している
(4)人間関係をうまく構築できる
(5)気が弱い子どもでも安心して通える学級づくりができる
(6)「教師と子ども」「子ども同士」のふれ合い関係を作ることができる
(7)口が固い、話しやすい、全力で守ってくれる(イジメなどの問題に対応できる)
(8)助けを求めやすい関係を作ることができる
(9)子どものよさや持ち味に目を向けることができる
(10)ほかの教師と協力してチーム支援ができる
(11)「事なかれ主義」で済まさず、保護者と連絡を取って解決に当たる
(12)確かな授業構成力がある
(13)子どもの将来を見据えてかかわっている
(14)友人や趣味などを通じて学校外の世界とつながっている
(15)地球規模の問題や社会問題という「答えなき問い」について考えている
(16)メンタルヘルスを保つセルフケアができている
(17)問題を一人で抱え込まない
(18)ほかの教師と支え合える関係づくりができている

そして、最も重要な教師の資質として挙げるのが

(19)子どもに何度裏切られても「決して切らない」「見捨てない」姿勢でかかわり続ける

である。

 今は教師受難の時代といわれる。仕事量、指示を聞かない子ども、細々したことにまでクレームをつける保護者が増え、世間からのまなざしも厳しい。教師集団を元気にしたり底上げをしたりするために、保護者ができることもあるはずだ。それは、教師の資質に欠けるところがあっても、「できる教師」「ダメ教師」という主観的で安易なレッテル貼りを控え、歩み寄れる余地を模索することかもしれない。本書は、現代を「子どもと親が結託して教師をコントロールできてしまう時代」としているが、いい意味で協力関係を築いていきたいものだ。

文=ルートつつみ