コミュニケーションはゲームだ! 元「コミュ障」のニッポン放送・吉田尚記アナが明かすコミュニケーションの極意とは?

人間関係

更新日:2016/1/13

 「コミュ障」──つまり「コミュニケーション障害」とは、さまざまな理由により他者と十分なコミュニケーションを取ることができなくなる障害だ。社会が人との関わりあいで成り立っていることを考えれば、これは非常にやっかいな症状といえる。「コミュ障」に悩む人は多く、当然ながら克服したいという気持ちも強いだろう。しかしどうすればいい? そんな人にぜひオススメしたい本がある。それが『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(吉田尚記:著、ヤスダスズヒト:イラスト/太田出版)だ。

 著者である吉田尚記さんは「よっぴー」などの愛称でも知られる、ニッポン放送の人気アナウンサー。それを聞いて「どうせ人と話すのが上手い人のハウツー本でしょ」と考える向きもあるだろう。しかしいわゆるハウツー本と本書が異なるのは、吉田さん自身が重度の「コミュ障」であり、20年をかけてそれを克服していった過程が書かれている、いわば「体験記」であるというところなのだ。

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 そもそもなぜ「コミュ障」の人間がアナウンサーになろうと考えたのかと思ったら、答えは単純だった。大学の就職課に募集要項が貼ってあったからだそうだ。当然、アナウンサーになってからは苦労の連続で、これからアナウンサーとしてどうやっていくかと試行錯誤の繰り返し。そうしているうちに、コミュニケーションに関するさまざまなテクニックを身に付けていったのだ。「コミュ障」の先輩の体験談──これなら同じ症状に悩む人たちの道しるべとなれるかもしれない。しかもその克服法は、かなり独特で面白いものだった。

 非常にユニークだと感じたのは、吉田さんがコミュニケーションをゲームと考えていること。しかも対戦相手を話し相手ではなく「気まずさ」とし、その場にいるすべての話し相手と協力して、参加者全員が気持ちよくなることが勝利だというのだ。誰かひとりでも気まずさを感じてしまったら、全員が負け。つまりゲーム参加者にかかる責任は重く、本当にそんな大役が「コミュ障」に務まるのか? それが可能であることを吉田さんは、本書を通じて自らの経験を語ることで証明していく。

 まずコミュニケーションにとって「自己顕示欲」は不要だと吉田さんは説いている。「コミュ障」の人は「他人に嫌われたくない」思いが強くて人と会うのが怖くなるのだという。吉田さんも「人からつまらないと言われたくない」と思っていたそうだが、その気持ちが「人から面白いと思われたい」という自己顕示欲であることに気がついた。それは「自分に興味を持ってもらいたい」と同義であり、数々の失敗を繰り返すうち「自分に興味を持ってもらえなくてあたりまえ」と思えるようになったのだと語っている。他人から「つまらない」と思われるのが怖くなくなったことが、人気アナウンサーへの最初の一歩だったのだ。

 コミュニケーションの技術論に関しては、興味のある方は読んでいただくとして、吉田さんはとにかく「相手のことを第一に考える」ということを繰り返し述べている。自分の役割は、相手に気持ちよくしゃべってもらうことなのだと。「コミュ障」の人でも相手に興味を持って話を聞けば、きっといろいろ尋ねたいことも出てくるはず。そして質問を投げることで、話はまた転がっていく…。まずは自分を後回しにして相手を立ててみること。これはきっと、誰にだって踏み出せる大いなる一歩となるはずだ。

 最後になるが、本書は「ニコニコ生放送」という、リアルタイム動画配信サービスで放送された内容を編集したものだ。配信中に流れてくる視聴者のコメントも掲載され、放送のライブ感が伝わってくる。非常に読みやすく、内容も深くて面白かったことを伝えておきたい。

文=木谷誠(Office Ti+)