「格差」がなくなったら文化も芸術も育たない ―デヴィ夫人が自著で叫ぶ

芸能

公開日:2015/5/20

 御年75歳なのだそうだ。インドネシア建国の父と呼ばれたスカルノ大統領の元妻として知られる「デヴィ夫人」である。大統領が見初めた若き日の美貌は有名だが、今もとても気品のある美しい女性。昨年の大晦日、人気バラエティ番組『絶対に笑ってはいけない』で、鼻の穴に豆を詰めて吹き飛ばすという、おもちゃのボーリングを倒すゲームに興じている姿を見たときは、仰け反るほど驚いた。

 冒険バラエティ番組『世界の果てまでイッテQ!』では、もっと凄い体当たりロケを次々とこなしている。その奮闘ぶりは、ネットでも「すごい」「尊敬する」「限界も常識も覆す」と反響を呼んでいる。

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応援せずにはいられないド根性タレント「デヴィ夫人」

 ボルダリングやポールダンスなどの全身の筋肉やバランス感覚を養わなければできないハードなスポーツから、イルカと泳ぐショー、空中ブランコ、バンジージャンプ、スカイダイビングなど、スポーツ好きすらハードルが高い“演目”にも挑戦しているデヴィ夫人。

 TVで規格外の活躍著しい夫人が、またしても豪快な自著を出版した。タイトルは、『言い過ぎて、ごめんあそばせ』(デヴィ・スカルノ/KADOKAWA 角川書店)。2000年の『デヴィの「ちょっと一言よろしいかしら?」』(冬青社)、『デヴィの「ここまで言ってよろしいかしら」』(あうん)から、さらにパワーアップ。思ったことをはっきり言う夫人の語り口は、爽快でスカッとするだけでなく、元気がもらえて、背筋も伸びる。

 夫人のモットーは、「何にでも挑戦する」。イルカのショーでは背中を何度も打ちつけられ、青あざだらけになりながらもリフトを成功させ、バンジージャンプでは高所恐怖症にもかかわらず、番組のため催眠術にかかったフリをして飛んでみせたという。

 同書には、色んな業界の裏話、暴露話が綴られている。夫人は気を遣うべき芸能事務所もスポンサーもいないのでと明かすが、痛快な指摘はエンタメ業界にとどまらない。政治や文化に至るまで奥深くメスが入れられているのだ。ちなみに、若さの秘訣は「怒る力」なのだとか(!?)。

 若々しい夫人も、日本の将来を憂える古老。日本を出て世界を渡り歩いたからこそ見える母国・日本のおかしな点には、未来のため抗議せずにはいられないのだろう。時に物議を醸すこともあれど、「その時話題になっているニュースに反応しても、基本の部分に信念がないからすぐに関心が別のものに移ってしまうのでしょう。政治家もマスコミも国民も皆そうです」と夫人は警笛を鳴らす。

不屈の精神で戦い、ライフワークとして守るべきものを守り続ける

 私の辞書に「泣き寝入り」という文字はないという夫人。これまで、スカルノ大統領の第三夫人という日本にはない制度と文化が下敷きの肩書きに、誤解や曲解で数え切れない程のバッシングを受けたという。1カ月に60もの雑誌や新聞に叩かれたことも。さすがの夫人もこの時は、反論することもできず、さらには家族の不幸にも見舞われたという…。そうした理不尽な状況は同書でも詳らかに綴られ、きっちりやり返している。

 夫人はまた、ライフワークとして芸術家の支援と動物愛護の活動を続けている。ヨーロッパでも、古くから富豪が芸術家を支援し育ててきたが、日本では「格差」を悪いもののように捉えることがおかしいと言う。夫人は、「格差」がなくなったら文化も芸術も育たない。本当のお金持ちが、損得勘定なく才能ある人を支援する。それがステイタスでプライドなのだからと説く。 

 動物愛護についても、自ら十数匹の犬と暮らし、現在も数十万頭もの元ペットたちが殺処分されている事態に声をあげ、盲導犬制度の廃止を訴えている。他にも、夫人は様々な慈善活動を続けている。

 弱きを助け強きをくじく夫人。75歳になっても美しいのは、切り開いてきた人生と生命力が内側からぎらぎらと輝いているからなのだろう。誇り高く美しい稀代のヒロイン。でも飲んで転んで腫れ上がった顔をブログで載せたりと可愛らしい(?)面ものぞかせる。愛すべき尊敬すべき夫人の「言い過ぎ」は、もっと多くの日本人が心して耳を傾けるといい。時々ずっこけながら、芯からしゃんとなるから。

文=松山ようこ