14歳未満なら人を殺しても無罪に! 子どもには読ませたくない危険な犯罪小説とは

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/20

腹を痛めて産んでも、子どもは生を受けたその瞬間からひとりの確固たる人間である。しかし、悲しいかな、言うことを聞かない子どもをまるでおもちゃの人形のように扱い、虐待やネグレクトに走る親は後をたたない。そして、そういう風に育てられた子どもたちは、心に深い傷を負いながら生きていくことになる。ヒキタクニオ著『触法少女』(徳間書店)の主人公は幼い頃、虐待を受けた女の子。こんなにもリアリティある物語が今まであったろうか。母親に捨てられた少女の過去がこの小説全体に暗い影を落としている。

タイトルになっている「触法少女(少年)」とは、14歳未満で刑罰法令に触れる行為をした者のこと。犯罪の低年齢化が後をたたない一方で、刑法第41条には、14歳に満たない者の犯罪は刑事責任が問われないとの記述があり、報道でも実名では報じられず、「少年A」「少女A」のようにしか扱われない。もしも、この法律を知った子どもたちが計画的に罪を犯したとしたら…? 背筋が凍り付くような気がしてこないだろうか。

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主人公は、幼い頃、母親・瑠美子から、ロープでつながれたり、痣になるまでつねられたりするなどの虐待を受け、挙げ句の果てに捨てられたという過去を持つ深津九子・13歳。施設で暮らす彼女は、明晰な頭脳と類まれなる美貌を武器に担任教師・三塚を手なずけ、クラスの男子・西野を下僕化し、同級生の井村里実からは崇め奉られていた。九子は周りの人を利用しつつ、幼児虐待容疑で逮捕された後に行方不明となった母親の消息を懸命に探る。母に裏切られた娘の悲しい物語がここにあるのだ。

まるでこの本は、犯罪を犯した者の手記のように進んでいく。周囲の人間を自分の目的を果たす駒としか考えていない九子の姿は、何とおどろおどろしいことだろう。母親に虐待され、挙げ句の果てに捨てられた九子は、教師や生徒の愚かさや脆さを容赦せずに、したたかに利用していく。そんな九子も同じく虐待を受けて施設にやってきた華蓮には心を許せるようだが、華蓮の相槌や所作はどこか不気味に目にうつる。
「瑠美子って、九子にまるで必要ないものだね」
「そうかな……」
「殺しちゃえば?」

子どもが犯す犯罪、というと、どことなく衝動的なものばかりをイメージしてしまうが、それは大人による偏見なのだろう。この物語の恐ろしさは「淡々と進んでいく」ところにある。九子が「母殺し」を計画する場面はあまりにも冷酷で生々しい。里実を利用してパソコンを借りたり、母親を殺す方法を模索したり、西野を利用して殺人のための実験を行なったり…。人を人と思わない九子の姿がなんとも悲しい。西野を猫可愛がりする母親の様子や里実のためならどんな過ちさえ犯す母親の姿を見るにつけ、さらに、九子は、自分よりも男を選んだ母親に憎しみを募らせていく。

この本は単なる九子による犯罪の手記では終わらない。九子の知らないところで、物語は進み、最後に大どんでん返しが起こる。ああ、どうか、こんな悲しい事件が起きないでほしい。物語だけにとどまってほしい。こんなにもゾクゾクさせられる小説は久しぶりだ。読者の心を振るわせる完全犯罪ミステリーを読まない手はない。子どもには何だか読ませたくないほど、あまりにもリアルなストーリーだが。

文=アサトーミナミ

触法少女』(ヒキタクニオ/徳間書店)