『ガルガンティア』スタッフ女子会前編「OVA後編はここを見て!」

アニメ

更新日:2015/6/26

 いよいよ5月27日(水)にBlu-rayが発売されるOVA『翠星のガルガンティア ~めぐる航路、遥か~ 後編』。本作品は2013年に放送されたオリジナルロボットアニメ『翠星のガルガンティア』(以下『ガルガンティア』)の特別編で、前後編に分けて制作された。

 この作品、実は女性スタッフが多く参加しており、それぞれの分野で活躍している。そこで今回は、元プロダクションProduction I.Gで制作進行の岩田菜穂子さん、フリーとして参加した演出の傅沙織さん、原画の阪野日香莉さん、作監(作画監督)の今橋明日菜さんの4人に集まって頂き、『ガルガンティア』について、そして昨今注目の集まるアニメ制作という仕事について話を伺った。はたしてアニメ制作は、作中のエイミー達のように楽しく行なわれているのか!?

OVA版になって一気に女性スタッフが増えた『ガルガンティア』

――まず『ガルガンティア』での作業内容とアニメの作業遍歴を教えてください。

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岩田:Production I.Gに入ってから『ガルガンティア』でずっと制作進行を担当しました。内容としては、シナリオや絵コンテが出来上がって、アニメーターさんを揃えて、そこから仕上げ、撮影、動画まで、上手く回すという感じです。

:私は演出助手として村田和也監督を手伝いました。動画として4年、原画を1年していたのですが、今回は初めての演出だったので、勉強しながら監督の関わる作業に同席して。最終的には少し演出らしいこともしました。

――演出とはどういう作業でしょうか?

:監督の意図を組んで、こうしてほしいと総括すること、でしょうか。ドラマ撮影時は監督が直接「こうしてくれ」と演技指導をするようですが、それに近いですね。原画や色や3D、音など、出来上がったものをひと通りチェックして指示していました。

――なるほど。残るおふたりお願いします。

阪野:私は2年ほど動画をしてから1年ほど休み、今回『ガルガンティア』で初めて原画を担当しました。わからないことばかりだったので、色々と村田監督に教わりながら進めました。

今橋:私は『ガルガンティア』には最初は原画で入っていました。後半は原画作監として原画チェックの作業も手伝うようになりました。

――『ガルガンティア』は女性スタッフが多いと伺いました。

岩田:テレビ版では、ロボットアニメだし、「鳴子ハナハルさんのキャラクターだったらやりたい」という男性アニメーターさんが多かったです。それが今回のOVAでは、総作監の海島さんに紹介して頂いて女性スタッフが一気に増えました。

――何か違いは感じますか?

岩田:失礼かもしれませんが、塗りかたなどのおかげか女性キャラクターの肉圧というかムッチリした感じが現実に忠実な感じですね。テレビ版だと胸揺れなど女性のセクシーさを入れようとして監督に「『ガルガンティア』はそういう作品じゃないんで」と言われていたこともあったんですけど(笑)。OVA版ではそういうことはなく、自然な女性らしさが表現されたかと思います。あと、ちょっとした仕草は女性のほうが断然上手いです。たとえばOVA後編終盤で、今橋さんが担当されたレドとエイミーが抱き合っているシーンとかよかったですよね。

今橋:あそこは監督の修正のおかげですね。私もイメージして考えながら描いているんですけど、監督は「この時のエイミーの動きは無意識の動きとして、スッと手が回るにするようにしてほしいです」と言われて。「監督は無意識の女の子の動きがわかってるんだな」と思いました(笑)

――制作進行においては男女の差はありますか?

岩田:セル画でやっていた時は、大量に運ぶので重くて、男性が多かったそうです。それがデジタル化が進んだので、女性もやりやすくなったというのはありますね。

――女性スタッフが多かったおかげか、『ガルガンティア』は女性ファンも獲得しました。

:テレビ版を放送してから女性ファンは増えましたよね。監督は「レドとチェインバーのバディものというのはデカイんじゃないか」と分析していましたけど。

岩田:テレビ版5話で、レドが客引き追いかけられながら「チェインバ~」って言うところとか、『ドラえもん』のノリですよね(笑)。最近Production I.Gは『黒子のバスケ』や『ハイキュー!!』などが人気なので、それらを描きたいと言ってくださる女性アニメーターさんは多いです。そんななか、阪野さんは『ガルガンティア』を指名して入ってくださったので、珍しいですけど。

阪野:日常シーンが多くて、私は好きだと思っていました。戦闘シーンよりそっちに目が行っちゃって。

――アニメ業界の男女比はどれくらいの割合なんでしょうか?

今橋:最初に入った会社はほぼ女性でした(笑)

岩田:さっきProduction I.Gの人に聞いたところによると、去年入ったアニメーターはほとんど女性で男性がひとりだけ。今年も男性ふたりで、あと10人くらい女性だそうです。

:私の同期も7人くらいいましたが、全員女性でした。

「神は細部に宿る」を実践するこだわりぶり

――それぞれ担当シーンで、ここを観てほしいという部分を教えてください。

阪野:私はベローズが受話器を取るところです。どれくらいのスピードで取ったらいいのかわからなくて、師匠みたいな人から黒電話を貸してもらって感覚を掴んでいました。ちなみに、その黒電話は実家から持ってきたそうです(笑)

今橋:私はやはり先ほど話に出た、最後の抱き合うシーンですね。あとは自分が担当した部分以外ですけど、オープニングのエイミー達が飛んで行くシーンもすごい綺麗で好きです。

:私もほかの人ですが「すごいなー」と思ったのはイルカと遊ぶシーンですね。動きを描くのに、実際にイルカと触れて遊ぶのも難しいと思いますし。

岩田:あそこは森川さんという『七つの海のティコ』もされたかたにお願いしたんですよ。あそこは二原を阪野さんがしました。

阪野:あそこは資料を観ながら描きましたね。人間はともかく、動物を描く時は必ず関節の動きとか骨格とかを動画や本で確認します。

岩田:制作進行からすると、動画枚数が多いところや仕草が難しい部分が多いので『ガルガンティア』は中々大変でした。メルティが服屋を駆け抜けるところや、3人娘が交互に入れ替わりながら走るところとか、調整が大変だったのでよく覚えています。

あと傅さん担当の、OVAのオープニングで荷物運んでいる人とかもよかったです。その人達の待機中の姿勢も指摘されましたよね。「この職業の人達はただ突っ立っているだけではなく、流れ作業でやるから次の作業のためにいつでも構えていてください」みたいな。

――細かな部分までこだわられているのがわかりました。絵ではないですが、特に後編の戦闘が砲撃されるシーンで、大砲の音が遅れて聞こえてくるのもこだわりを感じました。

:あそこは、砲撃をしてくる船舶との距離があるから音がないんですよ。音響さんから「ここは音を入れたほうがいいんじゃないですか」と提案もありましたけど、監督の意向でなくなりました。そもそも艦隊戦の部分は船舶の配置や、カットごとの進み具合、駄目になる主砲の位置なども全部設定されていて。かなり練りこんでありました。

岩田:そういった部分は、監督と『プラネテス』のころから付き合いのある設定考証の小倉さんが細かく詰めていました。

 今回はここまで。次回は『ガルガンティア』から少し離れ、彼女達にアニメ制作について語ってもらいます。

取材・文=はるのおと