クレヨンしんちゃん・野原ひろし―普通過ぎるキャラクターが発する普通過ぎる名言が刺さる理由

マンガ・アニメ

2015/5/23

 「特別」であることに憧れ、自分は「平凡」ではないと願う時期は、きっと誰しもあったはず。この人を見るたび思い知らされるのは、普通であることの素晴らしさ、平凡で当たり前のことを当たり前にやることの難しさだ。野原しんのすけの父、野原ひろしである。

 グータラしていて足が猛烈に臭い、平凡なサラリーマン(住宅ローン32年)。イケメンでもなければ、スーパーマンでもなく、モテそうにもない。にもかかわらず、ここ数年、野原ひろしはちょっとしたブームになっている。ひろしに焦点をあてた映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』は14年も前の作品だが、名作として繰り返し語られ、最近では『クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』がヒット。ネット上では、ひろしの名言が多数出回り、その中には実際に作中で言われていない正確でないものも多数あるくらいだ。

 『野原ひろしの名言「クレヨンしんちゃん」に学ぶ幸せの作り方』(双葉社)の著者、大山くまお氏は、「誰かが“ひろしがこんなことを言っていたらいいな”と思った言葉が書かれているようです」と言う。この本の続編である『野原ひろしの超名言「クレヨンしんちゃん」に学ぶ家族愛』(双葉社)も併せて読むと、その人気の秘密が見えてくるように思う。ひろしは、世間で当たり前なこととされている「何よりも子どもを大事にし、妻を愛し、彼らの意志を尊重する」を、ブレることなく守り続けている。「ロボとーちゃん」などの家族愛をテーマにした映画作品の中だけではなく、漫画、TVアニメ、映画、作中通してずっとだ。

 『野原ひろしの名言』のほうは、家族だけでなく、サラリーマン、男の生き様、人生、など様々なジャンルにおける、ひろしの名言が収録されたもの。『野原ひろしの超名言』は、家族愛のジャンルに絞って名言が紹介されている。

(願いごとを聞かれて)
しいて言えば、家族の健康と幸せかな。
TVアニメ「冬の星座を見るゾ」より

仕事は頼めても、親父は頼めないからな。
映画「クレヨンしんちゃん バカうまっ!B級グルメサバイバル!!」より

(「野原さんたちだって、お子さんいないほうがいいって思うこともあるでしょ?」と言われて)
ねぇよ!
TVアニメ「ミッチーヨシリンの育児だゾ」より

 著者の大山くまお氏は「ひろしは“普通”を維持するために、日々努力を怠っていません」と分析し、『ロボとーちゃん』の高橋渉監督は「(ひろしが弱く見えるのは)家族も、家のローンも、仕事も、みんな支えているわけじゃないですか。全部担いでいるから、腰もプルプルしてくるんです(笑)」とインタビューで答えている(エキレビ!2014.5.5『 ツンツンした映画を作りたい「映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」高橋渉監督1』より )。また、『ロボとーちゃん』の脚本家・中島かずき氏も、「自分の弱さもひっくるめたところで、開き直って言葉にしてしまうひろしの魅力に多くの人が共感する」(ウレぴあ総研 2014.4.19「【クレヨンしんちゃん】脚本家、中島かずきに聞いた父「野原ひろし」がいま、男として熱い理由」より )と似たような考察をしている。

 ひろしの名言の数々を並べてみると、それ自体は目新しくもなく、当たり前に知ってるよ、という内容。とはいえ、ひろしの発言を体現できているオトナは、果たして世の中にどれだけいるだろうか……。

 野原ひろしは、日本一普通で、日本一真似するのが難しい、カッコ悪い日本のお父さんである。

取材・文=朝井麻由美