ブッダを英訳すると「Awakened One」!? イケメン僧侶・大來尚順×コラムニスト・辛酸なめ子の『英語でブッダ』トークショー

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/20

「深淵な仏教用語ばかりかと思いきや、お酒=“wisdom water(智慧の水)”というユニークな解釈もありますね。これは一休さんのトンチみたい」

「仏教用語ではお酒を〈般若湯(はんにゃとう)〉といいますが、これはサンスクリット語の〈パンニャ〉=智慧から来ています。それをストレートに英語にしたのですが、“これは智慧の水だから飲んでもいい”と言い訳しながら、なんとかしてお酒を飲みたいという昔の僧侶たちの想いが表れていますね」

「ビールを〈泡般若〉、ウイスキーを〈洋般若〉というなんて、まさに智慧を使っていますね」

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「日本においては、僧侶だから飲酒してはいけないということはなく、仏教では何事も〈中道〉が重んじるので、飲みすぎがダメなんです。がまんしすぎてストレスを溜め、その結果むちゃくちゃなことをするよりは、お酒を少したしなみ、それで気持ちを落ち着かせるほうがいいですよね」

「大來さんもですが、お坊さんはそんなむちゃくちゃなことをしなさそうですけど」

「むちゃくちゃをする裏には、苦しみがあります。私がいま翻訳・通訳のサラリーマンとして会社勤めしているのも、実際の社会に出て、みなさんがどんな苦しみを抱えているのか、何をストレスに感じているのか、それを自分も体験したいという思いからです。会社という組織に入ると、人間関係など悩ましいことがほんと多い。私自身、汚いものを目にして病みました。言葉にできないほどすさまじい嫌悪感や敵対心を抱いたこともあるんですよ(笑)。そういう苦しみも知らずに、“心を落ち着かせなさい”と説教することはなかなかむずかしいと思います。みなさんのこの苦しみをどのように聞いて、支えてあげるにはどうすればいいのか。その手立てが仏さまの教えであり、こうして英語にすることで仏教をわかりやすく説明し、生活の糧としてもらうきっかけを作るのも、私なりの伝道なんです」

「私の苦しみをひとつ、お話していいですか? 天然石が好きで、4000~5000円ぐらいのアクセサリーだとつい買っちゃうんですよ。やめようと思ってもやめられない……。この欲望、何とかならないですか?」

大「〈求不得苦(ぐふとくく)〉、英語でいうと”Suffering of Not Getting What We Want”の苦しみですね。〈少欲知足(しょうよくちそく)〉という語があります。欲を少なくして、もう十分恵まれていると気づくのは幸せなことです。その幸せを外ではなく、自分の内側に求めるのが仏の教え。もうたくさん石をお持ちなんですよね?」

「でもすぐに新しいデザインが出ちゃうんです……」

「電化製品でも何でも、最新のものを買ったのにまた新しいものが出る。キリがないですよね。でもだいたいのことはいま目の前にあるモノで足ります。すでにお持ちの石をかわいがり、大事に使ってあげましょう。じゃないと、かわいそうですよ。〈悉有仏性(しつうぶっしょう)〉といって、どんなものにも仏になる可能性があります。いまお手持ちの石ひとつひとつが、辛酸さんに大事なことを教えてくれると考えるのはいかがでしょう」

「そうします。ほかにも買っちゃうのが、英語の参考書。途中で挫折した本が自宅に山積みとなっています。私は英会話学校に通っていたこともあるのですが、読む、書くはできても話せない。単語帳を作ったりもしたんですけど、覚えられなくて」

「英語を勉強する! じゃなくて、好きなものを英語でも極めよう、ぐらいの気持ちでいるといいですよ。私にとってはそれが仏教や哲学でしたが、辛酸さんだと何ですか?」

「スピリチュアルです」

「その関連の本などを英語で読んで、頻繁に目にするようにしておくといいですよ。自分の生活に持ち込み、好きな表現を見つけていく。スピリチュアルの世界独特の言い回しもあるでしょうが、一度身につけばだんだんと応用できます。ブッダを意味するときに使われる“awake”も、宗教的な目覚めもあれば、朝起きる目覚めもある……というふうに」

「誰かについて勉強したほうがいいですか? 駅前の電柱に貼ってある“英会話レッスンします”を見て外国人男性に申し込んだことがあるんですが、怖くてレッスンのときはクレジットカードやキャッシュカードなどのカード類を家に置いていきました。会ってみたらいい人でしたけど」

「危ないですよ~、やめてください。conversation partnerとなるお友だちを作るのが一番ですね。日本語を学びたい外国人と、英語を学びたい日本人とが仲よく会話をする。パートナーの日本語力がご自身の英語力より若干低いと、英語で会話することが増えるので上達につながりますよ」

* * * *

英語でブッダ』には、仏教用語のみならず般若心経の英訳、そして〈日本の仏教〉について外国人が疑問に思うことへの回答が日英両文で収録されている。今回のトークショーでも「キリスト教徒から“本人は仏教徒が多いが、お墓参りに行くぐらいでは宗教といえいないのでは?”といわれ、返答に困った」という質問が寄せられたが、それに対する大來さんの言葉でこのレポートを締めくくりたい。

「キリスト教圏である西洋の方と日本人とでは、宗教観がまったく違います。キリスト教では神と人間が二極化していますが、仏教では、私たちはいずれ仏になるので、ひとつなのです。だから仏教が実生活に浸透し、空気みたいになっていて、コレは宗教行為で、コレは日常だという線引きができません。私はよく“My religion is Buddhist way of life”とお話します。仏教とは生き方である、という考えですね。私たちは仏の教えとともに生きていて、それが自己内省として生活のすべてに反映されているのですよ」

【プロフィール】
大來尚順(おおぎ・しょうじゅん)
1982年、山口県生まれ。浄土真宗本願寺派僧侶、大見山超勝寺衆徒。通訳および翻訳家。 龍谷大学卒業後、渡米。カリフォルニア州バークレーにあるGraduate Theological Union(米国仏教大学院)に進学し修士課程を修了。その後、ハーバード大学神学部研究員を経て帰国。帰国後は、山口県の自坊(超勝寺)と東京を行き来しながら、通訳・翻訳、日英の執筆、講演などの活動を通して、国内外への仏教伝道活動を展開している。

辛酸なめ子(しんさん・なめこ)
東京都生まれ、埼玉育ち。漫画家、コラムニスト。巫女的な感性であらゆる事象を取材しまくる驚異のフィールドワーカーとして知られる。著書は『辛酸なめ子の現代社会学』『次元上昇日記』(幻冬舎)、『女子校育ち』(筑摩書房)、『辛酸なめ子のつぶやきデトックス』(宝島社)、『アイドル処世術』(コア新書)、『絶対霊度』(学研)など多数。

辛酸なめ子×中ザワヒデアキ 二人展「n次元」開催!
日時:2015年6月6日~6月21日 16:00~23:00 ※休廊日=水曜日
場所:TETOKA http://tetoka.jp/

取材・文=三浦ゆえ