【組体操のピラミッド】最上段、土台…、配置にこめられた教育的意図とは? その指導書に書かれていること

スポーツ

更新日:2015/5/26

 イマドキの運動会は春開催が多い…といったら、驚く人がいるかもしれない。今の親世代は秋開催が普通だったが、近年の運動会は5、6月に開催する学校が増えている。保護者を対象としたあるアンケートでは、春開催と秋開催でほぼ2分するという結果も。春開催で熱中症が避けられる、秋に行事が多いための時期分散などが主な理由とされるが、中学受験を控えた子どものため、といった現代ならではの配慮もあるとかないとか。

 さて、運動会の花形といえば、なんといっても「組体操」である。この組体操の危険性について、ネットでも頻繁に話題にのぼっているのをご存知だろうか。

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https://twitter.com/taku7216/status/601736432265244672

https://twitter.com/hanakahamaru/status/601185998060396545

https://twitter.com/RyoUchida_RIRIS/status/600042370575437824

 組体操では、これまでにいくつかの大きな事故が起きている。死亡事故まである。世間の風を受け、運動会で組体操を取りやめる学校も出てきているが、全体的には巨大化・ショー化が進んでいるという声もある。

 そもそも、危険と背中合わせで敢行する組体操の目的とは何なのだろうか。また、指導現場ではきちんとした安全配慮がなされているのだろうか。組体操の指導スキルを掲載した『子どもも観客も感動する! 「組体操」絶対成功の指導BOOK』(関西体育授業研究会/明治図書出版)によると、組体操の目的は大きく3つある。

(1)学習の成果を発揮する
日頃の体育の授業で培った力強さ、柔軟性、バランス、巧みさを発揮する

(2)人間関係を構築する
お互いに信頼し、真剣に取り組む集団づくりのなかで、良好な人間関係を築く

(3)達成感を味わう
「隊形や技の方向、完成のタイミングを工夫する」「静と動のメリハリをつける」など豊かな表現力で声援や拍手を受け、達成感を味わう

 幼児教育は、子ども一人ひとりに対して「味わう」「感じる」といった方向づけを重視する「方向目標」が教育のねらいとして設定されるが、小学校教育以降は「できるようにする」という到達度が重視される「到達目標」となる。子どもが「昨日の自分より一歩成長した」ではなく、たとえば「逆上がりができるようになる」といった具体的な到達水準が設けられ、評価されるのだ。組体操反対派が「教育観の倒錯だ」と声を上げる、学校側の「組体操(運動会)をなんとしてでも成功させなければならない」という底知れぬ情熱は、「方向目標」と「到達目標」の違いを理解していないと汲み取れないかもしれない。

 人間関係や達成感へのこだわりは、近年の子どもたちを取り巻くイジメなどの問題や学力・自己肯定感の低下なども背景にあるのでは、と推測される。

 本書では組体操のさまざまな技が数多く紹介されているが、このなかで最も大掛かりな技は「55人ピラミッド」である。ピラミッドは負荷のかかり方や目立ち方、役割がポジションごとに違う。たとえば、最上段はみんなから信頼され、素早く、怖がらない子ども。一番下の土台は、見えないところで人を支えることの大切さを学ばせたい、目立ちたがりやの子ども。各段の前面には、普段あまり目立たない努力家。顔が見えない後面には、我慢強い子どもを。教師は教育的な意図を持って子どもそれぞれを配置し、責任感とやりがいを与えるようだ。

 安全面のポイントも掲載されている。技それぞれで、補助につく場所、人数、集中力を高める声かけの仕方、など。いわば、組体操で目指したい「感動づくり」がピラミッドの最上段だとすれば、土台に安全・配慮があることが十分に示されている。

 組体操で得られるものは確かに大きいが、事故は絶対に起こしてはならない。教師の教育観と指導力にかかる期待と負担は大きい。

文=ルートつつみ