『ガルガンティア』スタッフ女子会後編「アニメ制作はやっぱり……」

アニメ

更新日:2015/6/26

 OVA『翠星のガルガンティア ~めぐる航路、遥か~』に参加した女性スタッフへのインタビュー企画。『翠星のガルガンティア』(以下『ガルガンティア』)について伺った前回に引き続き、後編となる今回は制作進行の岩田菜穂子さん、演出の傅沙織さん、原画の阪野日香莉さん、作監(作画監督)の今橋明日菜さんにアニメ制作自体について語ってもらった。もちろん話題はアニメ業界を扱って話題となったあの作品にも及び――。

『SHIROBAKO』のここが“あるある”!

――一般的に、アニメ制作はハードというイメージがありますが実際はいかがでしょう?

阪野:作業時間は本当に自分次第なので、クオリティを追い求めて「もうちょっと……」とやっていると、段々と夜型になっていきますね(笑)

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今橋:OVA作業の後半くらいになると、私が終電で帰って、朝来たら阪野さんがいて昼に帰ってるみたいな感じでした(笑)

岩田:Production I.Gは私が入ってすぐのころは床で寝ている人もいましたけど、女性が多くなってきて、最近は泊まりこみも減ってきました。制作進行は朝方の人や夜型の人、さらに多くの作業で色々な人と関わって調整するので、どうしても自分の時間は取りづらいし、特に作業の最後のほうは大変ですけど。それでも今はデスクや上司が、ひとりに負担がかからないように配慮してくれているおかげか、去年の新人の子はひとりも辞めていません。

――つかぬことを伺いますが、アニメ業界を舞台にした『SHIROBAKO』というアニメが放送されていましたが、観られていたでしょうか?

岩田、傅、阪野:観ました!

今橋:私は怖くて観ていません(笑)。周囲から話を聞いているだけで胸が締め付けられる感じが……。

:アニメでまで納品日数とか聞きたくない(笑)

――先ほどの話を聞くと、宮森(『SHIROBAKO』主人公の制作進行)のあの忙しい感じも、ファンタジーではないのがわかりました。

岩田:まず制作進行が2年でデスクに上がるってそうそうないですよ(笑)。あんな状況になったらもうテンパっちゃう。動画2年で原画になった絵麻ちゃんもですけど、色んなポジションにスポットに当てようとするとああなるのはわかるんですけど……。

――その絵麻ちゃんが、作監から原画を厳しく直されるシーンもありましたがいかがだったでしょう?

今橋:そんなシーンがあるんだ。

岩田:原画1年目の子が、あと1週間で動物の原画を10カットやらなきゃいけないので、「早く上げなきゃ」と思って飛ばして描いたら、原画作監さんから「これで直らないようなら、この人には頼まないで」って言われて。「原画1年目なのに、作監さんに嫌われたら私はどうすればいいんだ」となるシーンがあるんですよ。

阪野:あれは観ていて胃がキリキリしました(笑)

――ストレスの解消描写もありました。みなさんは何かしていますか?

今橋:OVAの作業の最後のほうは、みんなとご飯に行ってお酒を飲みながら喋るのが一番ストレス解消になったかな。

:「ここまで頑張れば、みんなでご飯に行ける!」みたいに目標設定にもなりますし。

岩田:確かに、お酒を飲むのが一番ストレス解消になるかな。だから『SHIROBAKO』でお酒を飲むシーンが多かったのはすごくよくわかりました(笑)

(アニメ業界ではよくある?)本当にあった怖い話

――ほかに観ていて「あるある」と思ったシーンはありますか?

:「ダビングが終わった、やったー」ってシーンで「(絵の作業は)これからです」ってのは笑いましたね。ちょうど『ガルガンティア』OVAのダビング後だったので。

岩田:あとメガネを掛けた新人の女の子(佐藤沙羅)が車に乗って道に迷うシーンがまさに私ですね。大きな会社に行く時は大通りにあるのでわかりやすいんですけど、個人でやってらっしゃる方の家が本当にわからなくて。カーナビに載っていない、原っぱしかないような場所もあったり。

:家で作業している人の所に行く場合、「今どこにいますか」って連絡も必要になって大変そう。

岩田:前に、連絡が取れなくなったアニメーターさんに家まで行くと、玄関に色々な会社からの張り紙があって「○月○日にこのカットを回収しないと落ちます」と書いてあって。「あれ、これもう過ぎているよな」とか(笑)

――本当にそういうことがあるんですね。

岩田:その時は同居しているかたから「家に帰ってきていないんです」って聞いて。それから彼が帰ってきたところを捕まえて、結局、椅子にほぼ縛った状態で、コンビニに行くときも一緒に着いて行って……こういう借金の取り立てみたいなこともしたのは、アニメ業界ならではだと思います。

――お話を聞いていると、アニメ制作作業は楽しそうではありながら大変そうな印象も受けます。もし5年くらい前の、社会人になる前まで戻れたら同じ道を目指しますか?

今橋:目指したでしょうね。ただ、今考えるともう少し早く村田監督達と知り合っていたかったと思います。監督は情熱とロマンの持ち主なので、何か聞くと、質問以外のことまで熱心に教えてくれて、やる気が出るんですよ。

阪野:私もやはり目指していたと思います。元々絵というか、作画やアニメーターさんが好きなので、今も間近で見られて幸せですし(笑)

:私はアニメ業界に来たいという人には「止めといたほうがいいよ」って言っちゃうんですけど(笑)、自分が過去に戻ったら目指しはしたと思います。

――最後の質問です。アニメ業界を目指す、または入ってくる女性も多いという話も前回ありましたが、先輩として彼女達にアドバイスをください。

今橋:同期や知り合いが多いといいかもしれません。お互いに色んなことを教えることができるし、一緒に頑張ろうって思えますし。

阪野:「健康が大事」というのを強く推したいですね(笑)。机に突っ伏して寝ずに、少ない時間でも必ず横になって寝ましょう。

:好奇心が一番大事だと思います。どんなことでも、ちょっとした動作にでも興味を持って、観察力を磨いていけたらいいんじゃないかと。

岩田:制作進行だと人付き合いが多いので、積極的に色んな人に興味を持って、自分からグイグイと関わっていくようにしているといいと思います。

――ありがとうございました!

 業界で働いてその大変さをわかったうえで、それでも「過去に戻ったとしても、もう一度アニメ制作を志す」という4人。やはり「アニメが好き」という人間にとっては、アニメ制作は抗えない魅力がある仕事のようだ。

 そんな彼女達が携わったOVA『翠星のガルガンティア ~めぐる航路、遥か~ 後編』は5月27日(水)に発売予定。まずはそちらで前回と今回のインタビューから伺えた“プロの仕事”を感じてみよう。

取材・文=はるのおと