トットットッと首を振って歩くハト その動きに秘められた驚くべきメカニズム

科学

2015/5/30

 テラスや公園など、外で食事をするのが気持ち良い時期だ。しかし以前「ハトが怖いから、外で食事をするのは絶対にイヤ!」という人がいた。カラスのように攻撃してくることがほとんどない、平和の象徴ともいわれる(おそらく)温厚であるハトになぜそれほど恐れを抱くのかと聞くと、「あの首を“トットットッ”と振って歩くのが気持ち悪いから!」と言う。結局、その日は屋外ではなく屋内のテーブルに落ち着いたのだが、言われてみれば、“チョンチョンチョン”と両足飛びで移動するスズメなどと違って、ハトは首を振りながら片足ずつ“トットットッ”と歩く。筆者は特にそれを恐いと思ったことはなかった。

 しかしよくよく思い出してみると、一度だけうっすらハトに恐怖を感じたことがあった。それは新緑の季節、食事をしようとサンドイッチを買い、公園のベンチで頬張っていた時のことだ。周りにハトが数羽いたので何の気なしにパンをちぎり、ひょいとハトの前に投げたことからその恐怖は始まった。パンを投げると一気にそちらへ集まるハトが面白かったので、ちぎっては投げを繰り返していたのだが、それをどこで見ていたのか、ふと気づいたらハトの数が増え、投げたパンがなくなると数十羽のハトが“トットットッ”と私の方へ近寄ってくるようになっていた。

 試しに小石を投げてみた。すると一瞬そちらに気を取られるものの、食べ物の匂いがしないからか、ハトたちはすぐにこちらへ集まってくる。その数はさらに増え、公園の地面はハトでほとんど見えなくなっていた。すると突然、“バサバサッ”という音がして驚いてそちらを見ると、こちらを目がけて飛んでくるハトも出てきた。これは襲われると恐怖を感じ、さっさと食べ終えてその公園を後にしたのだが、数十羽のハトが一斉に“トットットッ”と首を振りながら近寄ってくる様は、まさにうねる灰色の波であった。

 それにしてもなぜハトは首を振って歩くのだろう? すると「鳥の歩行」を研究しているという、それまで思いもよらなかったようなジャンルの博士がいた! それが『ハトはなぜ首を振って歩くのか』(藤田祐樹/岩波書店)の著者である藤田祐樹氏だ。それにしても鳥の歩行というのは目からウロコだった。鳥=飛ぶものと思い込んでいたが、言われてみれば確かに鳥だって木や電線に止まったり、地面を歩いたりして餌を探している。結構歩いているのだ!(もちろんほとんど歩かずに飛んでばかりの鳥もいるが)

 本書ではなぜ生き物は動くのかという根源的な問題から始まり、歩くメカニズムなどを解説した後に、ハトがなぜ首を振って歩くのか、それ以外の鳥たちはどうなのか、をつまびらかにしている。ハトの首振りは1930年のイギリスでの研究が最も古いそうで、その際に撮影された映像から、ハトは歩きながら頭を静止させていたことがわかったという。どういうことか、ちょっと説明してみよう。歩き出そうとするハトがまず左足を出す。それと同時に首をグーンと伸ばす。左足が地面に付いて位置が決まり、右足を蹴り出すタイミングで伸ばしていた頭をピタッと静止させる。このときハトは左足1本でバランスを取っている。そして右足が前に移動するのと同時に体も前進するが、頭は決めた位置から動かさず、首を縮めることでキープする。そして右足が重心である左足よりも前に行くと首を伸ばしてバランスを取って……を繰り返して歩く。これがハトが首を振って歩くように見える動きの秘密なのだ。

 頭を静止させるのは景色を目で追うために必要な動きなのだそうだが、なぜそうしなければならないかの理由(エサの獲得や鳥独特の体の仕組みなど様々な要因がある)はぜひ本書で確かめて欲しい。彼らも首を振りたくて振ってるわけではないのだ。その理由を知ると、“トットットッ”と首を振って歩くハトが愛おしくなることだろう。あの日公園で集まったハトの皆さんも、エサ獲得のために必死で歩いていたんですよね。気まぐれな行動をして、ごめんなさい…。

文=成田全(ナリタタモツ)