日本酒ブームは出版界にも? 呑む前に読む? 呑みながら読む? 日本酒本セレクト

暮らし

公開日:2015/5/30

 日本酒ブームが訪れている。かつては「湿っぽい」とか「昭和」とか「おじさんっぽい」とか言われ続けてきた日本酒だけど、そんなイメージはもう払拭してほしい。現代の日本酒は、イタリアンに合わせるスパークリングからスウィーツと一緒に楽しむ低アルコールのロゼまで多種多様で、“飲む人を選ばない”お酒へと生まれ変わっているのだ。

 この日本酒ブームの本流を作っているのは、全国に散らばる酒蔵の造り手たちだと言える。「現代の日本酒は、造り手で選ぶのが断然おもしろい」と話すのは、20年に渡って日本酒を飲み続け、利き酒の資格も持つ“日本酒”ジャーナリストの山同敦子さん。著書『めざせ! 日本酒の達人――新時代の味と出会う』(筑摩書房)の中で、新しい造り手たちが思い思いにクリエイトしたお酒は、まさに造り手のキャラクターそのものだと指摘している。

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パリコレ経験者の蔵元が造るナチュラルな日本酒

 少し前までは後継者不足に悩まされていた酒蔵。ところが現在は、30代~40代前半という若手の造り手が増えている。日本酒造りに新たな可能性を見いだして心血を注いでいるという。

 以前は、地元の米を使い、気候風土を生かして地域の味わいを出していたが、今は酒蔵の空調設備が整い、どこでも名産地の米が手に入る。そのため、手法を凝らした自由な酒が造れるようになった。その酒を飲むのは、日本酒ファンにとどまらず、初めて日本酒を飲む人や、海外の人たちだ。

 本書では、55人の造り手のキャラクターを紹介している。たとえば、萬乗醸造15代目蔵元の久野九平治さんは、パリコレの舞台にモデルとして立った経験をもつ異色蔵元。著者の山同さんから「186cmの長身、大きな身振り手振りでスケールのデカい男」とキャラづけされた久野さんは、「日本酒の日」に銀座でイベントをしかけたり、パリに出かけてシェフに酒を味見させたりと、グローバルな酒の普及に積極的。久野さんが造った「醸し人九平次」はナチュラルなタッチで、今や国内外の人気銘柄だ。

 その他にも、日本酒の歴史や楽しみ方を“会話形式”で分かりやすく紹介している。中には「“とりあえず辛口で!”という人ほど甘口好き」という気になる項目も。「達人ばりのウンチク」は、今すぐにでも酒場で活用できそうだ。

書店員オススメの本を読んで、日本酒ブームに乗る

 こうした日本酒ブームに乗って、日本酒を扱う本も増えている。東京・渋谷の書店を回ったところ、ワインやウイスキーに負けず、日本酒コーナーが充実。書店員に聞くと、「去年(2014年)の春頃から増えています。2013年末の『和食』ユネスコ無形文化遺産登録が影響しているかもしれません」とのこと。中でも売れているのは、『日本酒。』(プレジデント社)という本だと教えてくれた。

 雑誌『dancyu』に掲載された日本酒関連の記事をまとめた本とあって、造り手の“思想”に迫ったり、食のシーンごとに飲み方を提案したりと、さまざまな観点から日本酒をクローズアップしている。きれいな日本酒のラベルや料理の写真も多く、読みやすい。

 酒を「ふっくら、癒しの菩薩系」「ガツン系~いぶし銀男子」など、人になぞらえたイメージで紹介しているのがおもしろい。また、「ホロ酔いでも簡単にできるおつまみ」や「日本酒ファン垂涎の居酒屋の看板料理」のレシピも載っているから、気の合う仲間が揃う「家飲み会」の前に参考にしてもよさそうだ。

日本酒本にも変わりダネを発見

 日本酒本のなかには、独特の趣向を凝らした個性派もあった。渋谷のド真ん中にある書店の女性店員が教えてくれたのは、最近は女性客が買っていくことも多いという『白熱日本酒教室』(杉村啓:著、アザミユウコ:イラスト/星海社新書)。日本酒学で教鞭を執ったこともある著者が、授業形式で日本酒の魅力を紹介。マンガと文章を組み合わせ、楽しく日本酒のイロハを教えてくれる。

 ちなみに、本書でイラストを担当しているアザミユウコさんは、日本酒をテーマにした同人誌を制作する「酩酊女子制作委員会」というサークルに所属しているとか。彼女を含む複数のイラストレーターと作家が参加した『酩酊女子~日本酒酩酊ガールズ~』(酩酊女子制作委員会/ワニブックス)は、“ほろ酔い女子”のイラストと物語を組み合わせた19のストーリーを掲載。ひとり酒のお供にもなってくれそうな“ライトノベル的”日本酒本、あわせてチェックしたい。

 最近は、日本酒にこだわる店はもちろん、日本酒関連のイベントも増えているらしい。やっぱり飲んでみないとわからない! ということで、まずは飲み比べに出かけてみるのも一興。そんな時は、“和らぎ水(チェイサー)”の用意をお忘れなく。他のお酒に比べてアルコール度数の高い日本酒を飲むときのキホンです!

文=麻布たぬ