美術はアニソン!? クセになると話題! Eテレ『びじゅチューン! DVD BOOK』が秀逸

文芸・カルチャー

2015/6/5

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『びじゅチューン! DVD BOOK
(井上涼+NHK びじゅチューン!制作班/小学館)

 かつて、反逆の芸術家・岡本太郎は言った――芸術は爆発だ! 今、映像作家・井上涼は美術をアニソンにして歌う。


お局の モナ・リザさん ほほえみ
BUT 目はシャーク
見てるほら 見てるよ
給湯室の魔物 彼女がルール
【お局のモナ・リザさん】…モナ・リザ

 


来月はパーティーだ! でもドレスが入らない!
そんな時は鳥獣戯画ジム!
ストイックな モノクロトレーニング!
【鳥獣戯画ジム】…鳥獣人物戯画

 

 井上氏が美術作品をモチーフに、作詞・作曲・うた・アニメーションのすべてを担当したのが『びじゅチューン!』(NHK Eテレ)だ。2013年の夏に、テレビからゆるーりと流れ始め、「なんだこれ? きもち悪いけどクセになる」とネットで話題になり、レギュラー放送へと昇格し、人気に火が着いた。日曜の夕方に、その歌声を耳にした人もいるだろう。

びじゅチューン! DVD BOOK』(井上涼+NHK びじゅチューン!制作班/小学館)は、それらのアニメを収録したDVDと、作品解説や制作裏話などをまとめた本がセットになった、ファン待望の一冊だ。本のデザインもまた秀逸でコレクションしたくなるほど。発売前の予約段階で3刷されたというのだから、その人気は推して知るべし恐るべし! まさに爆発だッ!!

 美術作品をいじってアニメにしてしまうなんて、インテリアーティストの高尚なお遊びだよね、なんて思う人もいるかもしれない。だが、井上氏は、この仕事をするまで、美術作品を見るのが苦手だったという。美術作品に「よく理解できないけど敬わなければいけないムード」を感じるのと同時に、作品の時代背景や歴史などをひっくるめて「鑑賞」しなくてはならないと、息苦しく感じていた。

 そこに「歌とアニメで美術作品を紹介してください」という仕事のオファーが舞い込んだ。「どうすれば、私のように美術に距離を感じている人にも興味や親しみを持ってもらえるだろうか?」と考えぬいて出した結論が、“美術作品を見て思ったことをそのまま形にする”ということだった。

 すると!! 菱川師宣の「見返り美人図」は、「見返り過ぎて(ぐるぐる回って)もうドリルみたい」。「ヴィーナス 誕生」のヴィーナスは、「実は裸で登校したいと思ってる、どこか謎めいたクラス委員長」。「鳥獣人物戯画」は、「モノクロでストイックな感じのするトレーニングジム」――といった具合に、現代人にもなじみのある、滑稽な光景が見えて来た。そう、美術への扉が開いたのだ!

 これまでハードルが高くて遠かった美術作品をグッと身近に感じ、作者のことも好きになる。そうなると、美術関連の書籍を読んでも苦にならないどころか、作者や美術作品が生まれた背景を知りたくなる。その心理は恋愛と同じだ。作者への興味が作品への理解につながり、「お遊び要素が多分に含まれていながら、作品へのリスペクトに満ちた」歌詞やストーリーへと結実していく。

 数ある作品の中で、筆者が特に好きなのは、ムンクの「叫び」をモデルにした「ムンクの叫びラーメン」だ。「美味しそうな色合いだな」という直感から始まり、「空のクニャクニャした感じはラーメン?」→「モヤモヤした現代人は、会社帰りのラーメンに救い(小さな幸せ)を求めるよね」→「叫んでる人って、ラーメン屋のオヤジだ!」と世界観やストーリーが生まれた。歌詞には「フィヨルドは板のり」というフレーズがあるが、叫ぶ人の背景にある「歪んだ青黒い部分」が、ムンク の母国・ノルウェーの峡湾“オスロ・フィヨルド”を示していることを教えてくれる。筆者は、この歌を聞くまで知らなかった(恥)。これが井上氏の作品へのリスペクトだ。歌のラストは「モヤモヤも溶け出して 帰り道 鼻歌」と、優しい気持ちで終わるところもイイ。

 アニメでは、主人公のOLが通過する駅の改札に、ムンク作品「森へ II」のカップルがいたり、『びじゅチューン!』の他のアニメに登場した、お局モナ・リザさんと部下、風神&雷神カップルがラーメン屋の客としてゲスト出演していたりして、井上ワールドの広がりが感じられる。
 言葉ではどれだけ書いても伝えきれないのが哀しいけれど、兎にも角にも、一度見たら虜になってしまう『びじゅチューン!』。

 井上氏は言う――「美術への入口はみんなが思っているよりずっと自由でおおらか」だと。

 番組を見て感じた不思議な魅力の正体を知りたくなったら、ぜひ本書を手にとって欲しい。元ネタ美術作品の解説や、井上氏のアイデアスケッチ、ワンポイント解説などを読むと、より『びじゅチューン!』の歌やアニメの奥深さ、そして「こんな解釈してもいいんだ」という楽しさが分かるはず。
きっと、次に美術作品を見た時には、今まで感じたことのないような感想が出てくるに違いない。例えば――フェルメールの「天文学者」って宇宙儀回しながら、宇宙人と交信してたんじゃない? ビビッと感じて、ジュジュと周波数チューンして…題して「天文学者にびじゅチューン!」なんて。

文=水陶マコト

びじゅチューン! DVD BOOK』(小学館)

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