アラフォー世代の心を打つ!「俺の暮らしはどうなるんだ…」小説 【第2回「暮らしの小説大賞」受賞作が決定!】

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2015/6/10

〈暮らし〉と〈小説〉をつなぐ新しい架け橋、「暮らしの小説大賞」

 2013年6月にスタートした「暮らしの小説大賞」。<暮らし>と<小説>をつなぐ新しい試みとして株式会社産業編集センターが立ち上げたこの文学賞、作品テーマが私たちの暮らしを支えている「衣・食・住」であればジャンルや小説の執筆経験の有無は問わず、だれでもチャレンジできるうえ、大賞を受賞すれば作品が単行本化される、つまり作家デビューできるというのが大きな魅力。そして何よりユニークなのは、大賞を決める選考委員にフードスタイリストの飯島奈美さんやブックディレクターの幅允孝さんといった“暮らしのスペシャリスト”も迎えていること。さらに今回より作家の石田千さんも参加。今までになく自由で開放的な賞にしたい、小説を普段読まない人でも心から楽しめる作品を見つけたい…そんな編集部の熱い思いが感じられる。第1回大賞を受賞した『ジャパン・ディグニティ』の著者、髙森美由紀さんの第2作がこの夏、産業編集センターから刊行される予定。「暮らしの小説大賞」が見出す新たなる才能がどのように開花するのか楽しみだ。

第2回「暮らしの小説大賞」は丸山浮草さんの『ゴージャスなナポリタン』に決定!

 応募総数148作品から、見事大賞に選ばれたのは、丸山浮草さんの『ゴージャスなナポリタン』。80年代ポップ文学を彷彿させる文章スタイルで、今を生きるアラフォー世代の姿を風変りに描いたこの作品。「登場人物たちのキャラクターの好ましさ」「クセになる読後感」「暮らしの小説大賞の可能性と幅を広げるに足る作品」という理由で選ばれたのだが、実は選考会では文体とモチーフ、それぞれに対する評価が分かれたそう。
主人公「ともふささん」をはじめ、登場人物たちの暮らしぶりは、決して理想的とは呼べない日常。それが自由度100%の「語り手」によって縦横無尽に語られていく。この饒舌な「語り」に読者が戸惑うのでは、と懸念したのだ。だが、“頼りなくて情けない自分”“そんな自分の毎日”“これからの自分の人生”への登場人物たちの向き合い方の“妙なリアルさ”が、この「語り手」の「語り」によって確立されているのは明白との判断で受賞作に決定したという。

――懐かしさのなかに新しさが光る『ゴージャスなナポリタン』。冴えない、なのに憎めない40男のほろ苦い物語にいつの間にかどっぷりはまり、読後には無性にナポリタンが食べたくなるという。その不思議な魅力とは――

不惑のはずが惑ってばかり…。繭に包まれた「オタク生活」が突然崩壊した「ともふささん」に明るい未来はあるのか!? 迷える40代に送る切ないエール

 題名から予感させるように、食材や調理、そして飲み会も含めての食事と、「食」にまつわるシーンが多々出てくる。そしてその食べ物と登場人物のその時の感情が、まさにぴったりはまっている。細かすぎるほどの情景描写とあわさって、目の前にありありと登場人物の姿が浮かんでくるのだ。けれどそれは、ポップな文体によるところも大きいのだろうが、なんだか2次元世界のように軽やかで、まるでマンガを読んでいるよう。小説なのにマンガみたいな、不思議なリアル感が漂う作品だ。

 主人公は40歳を超えてなお独身、親と未だ同居中のひとりっ子「ともふささん」。日本海を臨むとある町の、しがないデザイン会社の企画部で文案を担当している。仕事はなかなかできるのだが、私生活はマンガから哲学書まで多種多様、雑多な本の山脈に埋もれた部屋の、湿った万年床の上でうだうだ過ごす自堕落なオタク生活を満喫中。貧乏から脱却しようという気概はなく、恋人はいるのに(!)結婚生活にも挑めず、問題を先送りする日々を送っていたが、変化は突然やってきた。大企業からのヘッドハンティング話、恋人の妊娠、父親の事故…。

 生意気な部下と腐れ縁の大男、生者と死者、焼きそばとナポリタン…主人公を取り巻く人、そして物がさまざまに入り乱れ、繰り広げられる「惑い」の毎日。不惑はとうに越しているのに、いったいどうしてこんなことに…。

主人公の悩みはつきないし、状況は決していいわけではないけれど、それでもなんだか読んだ後、まだまだがんばれるよ、大丈夫だよと後ろからそっと肩を叩かれたような、ほんわり温かな気持ちになった。

 この不思議な読後感は確かにくせになる。普段あまり小説に縁がない人にも読みやすく、情けない主人公の姿に苦笑しつつ同情しているうちに自分が元気になっている。ちょっとくたびれてきたアラフォー世代におすすめの1冊だ。

受賞者・丸山浮草さんに10の質問!

Q1 「暮らしの小説大賞」に応募した理由は?
もともと小説を書くのが趣味でした。実はこの作品は何度も書き直しています。第1章を一つの小説として書き終えた後、続編として第3章を書き上げ、今度は合体させたりと、トンチンカンなことばかりしていました。そして最終的に現在の形になったのですが、あまりに試行錯誤を繰り返した結果、この作品をどんなジャンルの小説として、どこに応募すればいいのか迷っていたとき、「暮らしの小説大賞」のことを知り、「地方のライターの暮らし」を描いたこの作品にぴったりでは、と思って応募しました。

Q2 20歳の頃に初めて書き上げた小説の内容は?
デートの最中に爆弾テロに巻き込まれた主人公が、破壊された都市を横断して、彼女の遺体をアパートまで送り届けようとする話でした。

Q3 その後、今回の応募にいたるまで小説の執筆活動はしてましたか?
就職後も趣味として小説は書き続けました。1994年には「僕らの世代のリアルってなんだ?」をテーマに大学生の日常を描いた作品で、ある文学賞の最終候補になったことがあります。仕事が忙しいなどの理由で2~3年書かずにいても、いろいろ落ち着くたびに「今度何書こうかなあ」と考えている感じでした。書いたり、書かなかったりという時期の繰り返しです。

Q4 執筆にあてる時間はどれくらいでしょう?
平日の夜が多いです。10~11時頃から、だいたい2時間くらい。仕事後、寝るまでの、頭のクールダウンみたいな感じでしょうか。

Q5登場人物ともふささんの食事のシーンや、ナポリタンなど料理がとても 印象的に描かれていると思いました。ご自身ではどう思われますか?
「料理がおいしそうに撮れている映画はハズレがない」と、なんとなく思っていて、この小説も食事のシーンは「自分がそれを食べている感じ」をイメージして、味や食感を伝えようと心がけました。実際、執筆するのは夜中が多かったので小腹がすいている状態も多く、そういう点も表現に関係しているかもしれません。

Q6 好きな作家と作品は?
J.Dサリンジャー『エズミに捧ぐ――愛と汚辱のうちに』、レイモンド・チャンドラーの長編小説、金井美恵子『タマや』、村上龍、村上春樹、高橋源一郎の諸作品。

Q7 人生で一番影響を受けたことは?
高校で映画研究同好会に入ったことです。ここに入ってなかったら、創作系の仕事も趣味もやっていなかった気がします。

Q8 最近ハマっていること、毎日の習慣は?
FF14です。仕事とプライベートの気持ちの切り替えに役立てています。

Q9 好きな読書スタイルは?
本は子どもの頃から寝ころがって読んでいます。ラクなのがいちばんですね。

Q10 「小説家」としての今後の目標は?
まずは次の作品を完成させることだと思います。その上で、少し不思議で、けっこう馬鹿で、ちょっとは生きる役に立つ、そんな小説を書いていけたらいいなと思います。

 

<受賞者プロフィール>

丸山浮草●1966年生まれ。新潟県在住。新潟大学法学部卒業後、地元デザイン会社企画課長を経て、フリーランスのコピーライターに。コメントはこちら

 

「第3回暮らしの小説大賞」では、はこんな作品を求めています!

――自由でユニークな「暮らしの小説大賞」に、書き手として興味を覚えた人も多いことだろう。そこで、この賞を主宰する産業編集センターの出版部編集チームに、次回はどんな作品を求めているのか伺った。――

「第1回受賞作『ジャパン・ディグニティ』は青森の津軽塗職人の父娘の姿を描いた力作でした。父と娘の少々ギクシャクした、でも優しさの漂う関係が作品の底辺部分を築きつつ、青森という風土、漆と言う文化、塗師という歴史が、時に厳しく時にまろやかに描かれていました。第2回受賞作『ゴージャスなナポリタン』は、80年代ポップ文学を思わせる文体と、40歳を過ぎていまだ実家住まいと言う、閉塞感にまみれた男性の暮らしぶりと人物設定が、妙な魅力を作り出している作品でした。テーマや作風など、一つとしてイメージが重なる部分のない2作品は、「暮らしの小説大賞」の持つ大いなる可能性を示しています。ジャンル、雰囲気、スケール、その他諸々、いずれにおいても前2作の枠にとらわれない、自由で力強い作品をお待ちしています!」(編集部より)

 オリジナリティあふれる、新鮮な魅力にあふれた作品が次回も登場することだろう。いまからワクワクしてしまう。

文=yuyakana

 

選考委員

飯島奈美(いいじまなみ)

フードスタイリスト。東京生まれ。CMなど広告を中心に活動。映画「かもめ食堂」、「海街ダイアリー」、連続テレビ小説「ごちそうさん」、「深夜食堂1・2・3」など映画やドラマのフードスタイリングも手がける。著書に『LIFE なんでもない日、おめでとう!のごはん。(1巻、2巻、3巻)』(ともに東京糸井重里事務所)、『飯島風』(マガジンハウス)、『深夜食堂のレシピ帖』(小学館)など。

「ありそうでなかった「暮らしの小説」。選考委員に選んでいただいて、嬉しく思います。暮らしものをとても楽しみにしています。「何でもない日」の見過ごしてしまいそうな思いや言葉が大切に感じられるような物語を期待しています。」

 

石田 千(いしだせん)

作家、エッセイスト。1968年福島県生まれ、東京都育ち。國學院大學文学部卒業。2001年「大踏切書店のこと」により第一回古本小説大賞を受賞。おもな著書に、『あめりかむら』『きなりの雲』『夜明けのラジオ』『きつねの遠足』『もじ笑う』、最新刊に『唄めぐり』(新潮社)がある。

「壮大な長編にも、愛らしい掌編にも、そこに暮らすひとが書かれています。おなじ 電車に乗りあわせても、ひとりとしておなじ生活はありません。百人百様である暮らしは、書き手の個性をいかせる題材です。受賞作となる一冊を、創作の出発点としてくださる書き手との出会いを期待しています。全力で拝読いたします。」

 

幅 允孝(はばよしたか)

1976年愛知県生まれ。有限会社BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。本屋と異業種を結びつけたり、病院や企業ライブラリーの制作をしている。代表的な場所として、国立新美術館「SOUVENIR FROM TOKYO」や「Brooklyn Parlor」、伊勢丹新宿店「ビューティアポセカリー」、「CIBONE」、「la kagu」など。著書に『本なんて読まなくたっていいのだけれど、』(晶文社)ほか。

「くらしと小説。日々の瑣末で大変なあれこれと、小説という所謂フィクションが、どう結びつくものか?僕もよくわかりません。だけれども、読んで得た情報や、相対化させることのできた感情が、日常のどこかに作用して、初めて本は本たり得るとも思うのです。」