ももクロ、Hey! Say! JUMP…超大物とコラボするダンサーが、仕事で成功する術を語る異色のビジネス書

ビジネス

公開日:2015/6/4

 30代以上だと、黄帝心仙人(こうていせんにん)という名前を聞いたことのない人が多いかもしれない。だがHey! Say! JUMP、ももいろクローバーZ、ユニクロ、ソフトバンク・孫正義会長、そしてグラミー賞歌手ミッシー・エリオット…。彼らはどうだろうか。これらの超一流の人とコラボしてきたのが、ダンスアーティスト・黄帝心仙人である。

 彼のダンスは、マニアックな「アニメーションダンス」「ロボットダンス」に分類される。しかし、その評価は国内に留まらず、海外でも大きく評価されている。その一つが、振り付け・出演したユニクロのCM「UNIQLOCK」。カンヌ国際広告祭グランプリほか、世界三大広告賞を制覇。さらに、前述のミッシー・エリオットのMV出演。YouTubeの再生回数は、3600万回を突破したという。

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 まさに傑出した才能。その彼がこのたび初の著書『究極軸 好きな「何か」を磨いて成功する9つの習慣』(講談社)を出版した。タイトルにあるように、この本に書かれているのは、踊り方でも自伝的成功談ではない。生き方、仕事への向き合い方が綴られている。つまりビジネス系の書籍だ。

 ダンスという右脳的な世界と、ビジネスの発想は真逆の世界に思えるが、黄帝心仙人のなかでは、そうではない。彼の今の成功は、戦略的かつロジカルに考えたからこそ得られたものという。

 彼は、この本の中で、特殊な才能がなくとも「好きなことを仕事にする」また、「自分の能力を最大限に発揮する」方法を語っている。

逆境を資産にする“考動”力

 そもそもダンサーとしての黄帝心仙人のスタートは逆境からであった。しかし、彼にはその逆境を強みにしてしまう、戦略的な行動があった。熟考した上で動くことを、彼は、“考動する”と呼んでいる。

 黄帝心仙人は10代のころ、本気でサッカー選手を目指していたが、運悪く足首を粉砕骨折することとなった。サッカーはもちろん諦めざるを得なかった。そして今も下半身を激しく動かすことができないという。

 転機は大学のダンスサークルに入ったとき。下半身を俊敏に動かすことができない代わりに、上半身を徹底的に動かしてみようと試みた。「今自分でできることを最大限極めようと」。その結果、胸を大きく突き出しへこませるという、誰にも真似できないような動きを体得し、オリジナルのスタイルを生み出した。

 ユニークなダンスは日本だけではなく、海外からも瞬く間に評価された。けれどあるトラブルから、黄帝心仙人は3000万円の借金を抱えてしまうことに。その姿を見てチームを組んでいた仲間は離れていったが、一念発起し、ソロパフォーマンスを中心に活動を再開。活動量を5倍にするという荒業で年収を5倍にし、3年で借金を完済した。

 その後、自分が育てた生徒たちとともに、ダンスチーム「タイムマシーン」を結成。ゼロから日本一、世界一を再び目指そうとしたときも、彼は“考動”して、それを実現させた。

 彼らが最初に目指した大会に出場する、当時日本一と評価されていたライバルチームは、全員のダンス技術が突出していた。そんな日本一のチームに対し、ダンス技術は未熟だけど、自分の考えに共感するメンバーたちとともに挑んで、どう優勝するか。熟慮の結果、ダンスの技術的なレベルではなく、「別の価値観」で勝負するために、今のような演劇的な「世界観」で見せることを選んだ。ここでも今、自分たちが持つ“資産”、これを最大限生かす方法を考えたのだ。

 大会では見事優勝。そして、今までにない価値観で作られたダンスは、前述の通り日本で、世界で、世代を超えて評価された。

先人に感謝する気持ちが結果につながる

 また彼が習慣としていることの一つに“感謝”がある。チームへの感謝はもちろん、アニメーションダンスというジャンルを切り開いた先人への感謝の気持ちも忘れない。

 自分が評価されるのは、自分の努力の結果だろう。けれど、それは様々な先人たちが、道を切り開いてきてくれた上にある。著書のなかで彼はこう語る。

先人たちに感謝して、自分の中で彼らの残したものをちゃんと消化したうえでなければ、仕事であれパフォーマンスであれ、アウトプットはただのコピーというか、安っぽいものになってしまう

 どのような仕事でも、結果を出すためにはインプットした情報を自分なりに“消化”する必要がある。自分の中で、過去に手に入れた情報と情報がつなぎ合わさり、イノベーションは起こる。先達の残してくれたものは、あなたの成功のほんのひとかけらかもしれない。けれど、その欠片を授けてくれた人がいなければ、今の成功はない。

 この先人への感謝の気持ちは、自分を傲慢にすることを防ぎ、また新たなものを生み出す原動力にもなる。そして、生き生きとした人生を送る手助けにもなると語る。

どの分野にも偉大な先人たちがいる。感謝を忘れずに彼らの思考や技術を研究することは、好きなことで生きていくための大きな助けになるだろう

 あなたは、自分が成功せず幸せになれない原因を、何かが「足りない」からとだけ思っていないだろうか。実は不利に見える自分にも資産はあり、それをどう生かすか。ビジネス本としては、異色の著者だろう。けれど異なるジャンルで活躍している人だからこそ、見えている世界もある。発想の転換の必然性を著者は教えてくれる。

文=武藤徉子