ダーリンハニー吉川 vs 鉄道ライター杉山 「妄想テツ」と「時刻表テツ」が語る『戦前・戦中時刻表』の濃~い中身

生活

2015/6/10

 大食漢が「カレーは飲み物」というように、鉄道ファンは「時刻表は読み物」というらしい。日本の時刻表は明治5年の鉄道開業時から存在して現在に至る。最新刊を「現代小説」とするなら、古い時刻表は「古典文学」だ。しかし、本物の古典文学に比べると、古い時刻表の入手は困難だ。なにしろ市場が小さすぎる。いや意外と大きいのか? どっちなんた?
 
 たくさんは売れないだろうけれど、欲しい人は確実にいる。そんな趣味の達人に向けて、KADOKAWAは完全受注生産商品販売サイト「ketsujitsu」を立ち上げた。そこに『復刻版 戦中戦後時刻表』BOX復刻プロジェクトがある。鉄道ファンにとっては価値があるはず。でも、この本のおもしろさはなんだろう。

 時刻表好きの鉄道ファンは、古い時刻表をどう読むか。当サイトでおなじみの鉄道ファン、ダーリンハニー吉川さんと、鉄道ライターの杉山さんに語ってもらった。吉川さんは時刻表を読みつつ空想の旅に出る「妄想テツ」、杉山さんは時刻表から列車ダイヤを再現して遊ぶほどの「時刻表テツ」とのことだ。

--まずはご覧ください。昭和18年3月号、昭和19年4月号、昭和19年10月号、昭和20年9月号、昭和21年2月号、昭和22年12月号の5冊と、付録として満州支那汽車時間表(昭和17年7月号)、朝鮮鉄道時間表(昭和19年秋季号)、鉄道研究家三宅俊彦さんの解説書のセットです。

吉川:僕はこのセット、最初に出た頃(1999年)にジュンク堂とかで見たんですよ。でも高くて買えないなあと思って。また販売するんですね……うわっ、やっぱり高いっ(笑)。

杉山:古い時刻表って、興味ありますか。

吉川:ありますあります。

杉山:ありますよねぇ(笑)

吉川:でも、こんなにたくさん……どうしましょう。

杉山:まずは、拝見させていただきましょうか。

吉川:そうですね。

真剣な眼差しでページをめくる二人。「はぁ、すごいな」「たまりませんね……」「裏表紙の広告の内容がキツいな……国民国民戦闘配置」「怖いなあ。この時代」などと声が漏れてくる。「読売園ってなんだろう」「沖縄と樺太に鉄道が……」お互いに会話しつつ、別の時刻表を見て自分の世界に没入していく。

吉川:これ、対談になりませんね(笑)。

杉山:友達の家に行って、黙ってマンガを読むような感じで(笑)。

そんな時間をしばらく過ごしていただいたところで……。

 

当時と今の地図を比べたい

--このなかで、いちばん興味のあったところはどれでしたか。

吉川 正洋(よしかわ まさひろ)太田プロダクションに所属するお笑いコンビのボケ担当。「タモリ電車倶楽部」の会員(No.009)でもあるほどの鉄道ファンであり、バラエティ番組の鉄道関連の企画の出演、コラムの執筆の活動も精力的。「笑神様は突然に・・・」(NTV)に鉄道BIG4として出演。他にも、「ダレトク」(KTV)、「◯ごと」(静岡だいいち)、「鉄道ひとり旅」(CS)等に出演中。

杉山:まず、地図がおもしろいですね。さっき吉川さんが、「沖縄と樺太に線路がある」っておっしゃった。

吉川:巻頭地図に線路が敷き詰められていますよね。とくに北海道と北九州は多い。そして沖縄県営鉄道。もちろん索引地図だから、時刻表が掲載されている。

杉山:那覇-嘉手納、那覇-糸満の路線がありました。省線ではないせいか、列車の時刻はかなり省略されているようですけど。

吉川:この線路、剥がされちゃうんですよね。戦争で破壊されて。知っていましたけど、長い路線で、ちゃんと走っていたんだなあって実感しますね。樺太もそうです。駅もたくさんあって。ここも日本だった。こんなに駅があったんだ。

杉山:日本最北端の駅というわけですね。

吉川:今の最北端は稚内駅なんですけど、当時の索引地図には稚内の先にも駅がある。稚内にも行ったことがあるんですけど、最北端のパチンコ屋とか、なんでも最北端って書いてある。でも、最北端の駅のさらに先に駅があったなんて。

杉山:その稚内桟橋から樺太の大泊港まで船があるんです。でも時刻表欄は「省略」って書いてあった。もしかしたら、軍事機密だったのかも。

吉川:あとは省線ですか。国鉄では無くて省線。そしてこの果てしない連絡。釜山とか北京とか。満州、朝鮮……。

杉山:戦後は樺太、朝鮮、満州、沖縄の路線図と時刻表が消えてしまった。鉄道ファンとしてわがままを言うと、日本が負けなければ今も乗れたのに……。

吉川:デリケートな話ですね(笑)。ボクはただ単純にビックリしました。現在の時刻表に見慣れていますから。わ、ここはなんだろうって。

杉山:自分が住んでいたところの今昔を比べるという楽しみもありますね。

吉川:そうですね。ボクは東京出身だから、東京の路線図の違いが興味深いです。駅名の違いがおもしろいな。京王線が京王新宿駅まで来ている。たぶんこれ、京王帝都電鉄の本社があったほうですね。今の伊勢丹あたり。こっちまで走っていたんだあ、と。あと、出身地の近くに二子読売園という駅があって、今の二子玉川駅ですよ。二子玉川園という遊園地は覚えていますけど、読売園って言う名前だったんだなあ。

杉山:出身地のあたりの地図を辿る楽しみですね。

吉川:並木橋がまだあるんですよ。渋谷の次、代官山の前。ガードのところ。あれすら今は無いですよね。

杉山:地下化されちゃいましたからね。

吉川:祐天寺の次が第一師範。今の学芸大学ですね。第一師範、都立高校、自由が丘……。

杉山:当時は都立高校なんですね。都立大学ではなくて。

吉川:新丸子の次が工業都市ですよ。武蔵小杉ではなくて。いまなにかと話題の武蔵小杉が、工業都市です。

杉山:東急って、田園都市だけではなくて、工業都市もあったんだ。

吉川:横浜方向へ進んで、東白楽の次が新太田町かな。反町、神奈川、横浜……。思い出のある路線の駅名違いを探したら楽しいですよね。

 

時代を映した時刻表の広告

杉山 淳一(すぎやま じゅんいち)1967年生まれ。国立信州大学経済学部卒。同工学部大学院博士前期課程修了。IT系出版社で広告営業を7年間担当した後、ゲーム・ITライターとして独立。鉄道会社経営ゲーム『A列車で行こうシリーズ』攻略本をきっかけに鉄道分野へ。

杉山:列車の時刻表がメインですけど、広告も興味深いですよ。いま有名な会社が昔の名前で出ていたり。

吉川:なんだこりゃ! 「細胞を強めれば肺肋膜病弱体は治る」。ページをめくると、あっ、病院。

杉山:病院の広告が始まる前のコラムですねきっと。

吉川:健康コラムってことですね。おもしろいなあ。

杉山:いま見ていらっしゃるのはいつの時刻表ですか。

吉川:昭和18年です。

杉山:戦時中ですね。

吉川:まだでも、ちょっと余裕がありそうな時代ですね。広告も多い。時刻表と言ったら旅館系の広告が多いですよね。クーポン旅館が興味深いです。「東亜旅行社指定の信用あるクーポン旅館でありまして、クーポン券所持者はお茶代不要、均一料金でご待遇申し上げます」お茶代が要らないって……

杉山:クーポンがないと有料ですね。それにしても、この時代にクーポンって言う言葉は使ってよかったんだ。

吉川:クーポン旅館……ハイカラなイメージですよね。クーポンなんて最近と変わらないシステムだし。

杉山:まだ旅行には行けた時代ってことですね。

吉川:近鉄の広告に、今は廃止された法隆寺線が出ていたり、阪神電車や長野電鉄があったり。私鉄がけっこう出てますね。

杉山:東武電車と上信電鉄が同じ大きさで並んでるってすごいですね。

吉川:わーっ、定山渓鉄道、すごーい。旅は樺太、海苔は山本(笑)。おもしろいなあ、こういうの。マンガっぽい広告もありますね。佐渡汽船。参拝の広告もある。タカラヅカ!

杉山:なんかいい時代のような気がしてきました(笑)。

吉川:広告も18年19年あたりはおもしろいというか。万年筆とかありますし。これ「良い夢」ですか。

杉山:良い夢、良い水、良い空気……ニッカウヰスキー、マッサンですよ。

吉川:トリブラってなんだろう……酔い止め?

杉山:酔い止めの広告で1面を使っちゃう。

吉川:すごいですね。こちらは「臓器ホルモン増強剤。若さと元気」

杉山:あっ、これ……

吉川:「強力わかもと」だ(笑)。この頃はまだ余裕がありますよね。でも、そのなかで多少は怖い広告がちょいちょい入ってますね。「長期戦下の海上旅行、ニュース自慢に漏らすな機密」とか。

杉山:旅行に行ってもいいけど、見たものをしゃべっちゃダメよと。

吉川:チクリと刺してきますね。昭和19年。まだ大丈夫かな。あ、でも厳しい。「大和一致、輸送報国」「国民すべて戦闘配置」「この一年旅行はやめ、増産に防空に勤めよ」これ辛いなあ。時刻表も1年で薄くなってるし。列車が減ったんですね。

杉山:戦時中の広告は衝撃的です。時刻ページに「鉄道防空必携」なんてカコミ記事があります。標語みたいですね。「空襲時においては乗車船の制限が行われる場合もあるから必要やむを得ない用事の外(ほか)は旅行をやめるようにしたい」

吉川:「お国のために」的な文字が増えてきますね。絵もなくなっちゃいました。寂しい時代になりました。ウキウキ感がないですね。

吉川:こっちは……昭和21年、戦後かあ。これが戦後初ですか。お金を大切に。郵便貯金。春遠からじ……なんて広告がありますね。

杉山:どこかに、復員列車優先、なんてありましたよ。

吉川:うーん、そうか。戦後すぐの時刻表は広告がぜんぜんないなあ。うわっ、大東急だ!

杉山:まだ解体されてない!

吉川:これはすごい。

杉山:吉川さん、ご出身はどちらですか。

吉川:ぼくは世田谷の用賀とか桜新町とか。東急沿線です。

杉山:ボクも東急で、池上線の洗足池とか旗の台あたりです。

吉川:ああ、緑の電車が走っていた頃ですね。

杉山:そうです。デハ3450とか。あれが電車好きのきっかけです。

吉川:ぼくはもうちょっと年下なので、緑というと5000系、あとは6000系とか。

杉山:あ、ウルサイヤツ(笑)

吉川:うるさいやつ(笑)

杉山:いま弘南鉄道にいるヤツ(笑)

吉川:あとは8500系とかですね。

杉山:ステンレス時代ですね。

吉川:新玉川線と同い年なんですよね。1977年。

杉山:ああ、そうなんですね。

吉川:大東急……(かなり感動している様子)。