それは伝説の味! 缶詰における“究極の逸品”とは ―「やきとりたれ味」「シーチキンファンシー」…

暮らし

公開日:2015/6/10

 開ければそのまま酒の肴になるグルメなシリーズが人気となったり、「タイカレー」というこれまでになかったジャンルの商品が話題になるなど、缶詰が話題になることが多い。そして缶詰を開ける際に缶切りを使うことがめっきり少なくなったし、最近はそこからさらに進化してさらに軽く開けやすくなっていたり、缶からプラスチック製の容器に変わったものもあるなど、技術革新も目覚ましい。缶詰は安くて長持ち、何もおかずがないときに開ける手軽なもの、そして災害時の非常食といった利便性だけではなく、これまで以上に「味」をも追求する時代に入った、と言えるのではなかろうか。

 そんな缶詰をこよなく愛する、公益社団法人「日本缶詰びん詰レトルト食品協会」公認の“缶詰博士”こと黒川勇人氏の最新刊が『缶詰博士が選ぶ!「レジェンド缶詰」究極の逸品36』(黒川勇人/講談社)だ。なんと究極である、そしてレジェンドなのである!

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 黒川氏は本書の「はじめに」で、レジェンドには「伝説」と「語りぐさ」という意味があることを提示し、「“半ば伝説化した”、もしくは“語りぐさ”の対象を、人物ではなく缶詰としたのが、本書なのである」としている。ロングセラー缶詰から最新の注目缶まで、この先もその存在が語り継がれるであろう36缶すべてに「◯◯でレジェンド」という黒川氏によるキャッチコピーがつけられ、数々のエピソードやオリジナルレシピが紹介されているという、「この人、本当に缶詰が大好きなんだなぁ」という缶詰愛が行間から溢れ出してくる(缶詰は絶対に漏れたらダメなのだが)一冊だ。

 まず登場するのは缶詰界の定番中の定番、ホテイフーズの「やきとりたれ味」だ。缶を開けてそのままだとゼラチン質のプルプルとした美味さ、温めるとゼラチン質が溶けて熱々とろとろになるという、たぶん誰もが一度は食べたことのある缶詰だ。1970年に発売されたロングセラー商品であるやきとり缶を「奇想天外でレジェンド」と名付ける黒川氏による解説を読むと、実はその誕生には日本の高度成長期の時代背景と缶詰の歴史を凝縮した意外なエピソードがぎっちり詰まっており、甘じょっぱいはずのやきとり缶がなぜか涙で塩辛くなりそうだった。

 続いての缶詰は、はごろもフーズの「シーチキンファンシー」。本書でも言及されているが、1980年代は女優の十朱幸代がCMを担当していて、新鮮さを表現する「生きてる!」というフレーズや、ラーメンなどにシーチキンを投入するという目新しいレシピの提案、そして現在も使われている水滴がぴちょんと弾けて「はごろもフーズ」と歌うスーパースローの映像(昔はこの声も十朱が担当していた)などが一緒になって脳内に刷り込まれている人も多いだろう。「シーチキン」という画期的なネーミングも含め「名実ともにレジェンド」な存在なのだ!

 この他にも「ちょうしたのかばやき・さんま」「ノザキのコンビーフ」「あけぼののさけ」といった定番から、スーパーで見かけるがたぶんほとんどの人が食べたことがないであろう明治屋の「ウインナーソーセージ」、銀座のバーで人気のおつまみという京都・竹中罐詰の「オイルサーディン」などが登場する。

 本書には工場見学というおまけコーナーもあるのだが、かなりの工程を手作業で行っていることに驚いた。原材料は肉や魚、野菜や果物ではあるものの、缶という工業製品的な見た目から「機械化された近代的な工場でじゃんじゃん作られるもの」という勝手なイメージは完全に覆されるだろう。厳選された新鮮な素材を一気に缶に閉じ込めるためのたゆまぬ努力と進歩があることがわかると、そんなに手間暇かけて作られているのなら、いつもは手に取らない缶詰を試してみようと思わされた。そしてとにかく…お腹が空きました!

文=成田全(ナリタタモツ)