『ゲイ短編小説集』『美少年尽くし』で知られる平凡社ライブラリーから、今度は『古典BL小説集』が出たぞ!

BL

公開日:2015/6/17

 『ゲイ短編小説集』に『レズビアン短編小説集』、『美少年尽くし―江戸男色談義』……。難解な哲学書のイメージも強い平凡社ライブラリーから、同性愛を題材にした本がちょくちょく出ていることは気になっていたのだが、この5月にもスゴい本が出ていた。

古典BL小説集』(ラシルド、森茉莉:著、笠間千浪:編/平凡社)。

「こんどはBLだ!」と叫ばんばかりの同性愛推し。一体何なんだこの平凡社ライブラリーの気合いは……と思いつつ、同書を読んでみることにした。

 なお本書に収録されているのは、「女性作家が書く男性同士のホモエロティックな物語」という7作品。各作品の発表時期は1897~1963年と古く、いわゆる“やおい”カルチャーが本格的に花開く前のものだ。なお、もとが長編の4作品については、あらすじを書きつつ原文を抜き出して翻訳する抄訳形式となっている。

 で、実際に読んでみたら、最初に収録されたラシルド『自然を逸する者たち』にまず度肝を抜かれた。話は兄弟同士のBLという設定なのだが……。弟・ポールの行動を描いた文章を一部引用してみよう。

 痩身で嫋やかな姿を見せるこの若い男は、鏡に映し出した全身を眺めている。猫のように上半身を屈曲させ腰を突き出し、ゆっくりとした動きで、腕を意識的に伸ばして、自分の分身と対面するのであった。

 “であった”と力強い断定口調で語られても困る行動だ。さらにポールは真珠を斧で叩き潰し、「本物の真珠を偽物と区別するのはただ一つ、本物の真珠ならそれを壊すのに三回叩く必要があるってこと。何てこと!」と叫んだりもする。作者のラシルドは“デカダンの女王”とも呼ばれたフランスの作家だそうだが、確かにデカダンス(虚無的・退廃的)な空気がムンムンだ。

 一方、彼の兄は兄で、そんな弟を愛するあまり狂い始め、弟の恋人に猛烈に嫉妬。「美しい真珠が壊れるさまを、私も見てみようか」などと言って、弟を殺そうとまでするのだ!

 自然を逸する愛!燃え盛る炎!嫉妬の炎!!!!……とBLに興味がないはずの筆者も読んでいて熱くなってしまったが、本書に収録の作品の大半は“強烈な嫉妬”が描かれていることにも後から気づいた。これもBLの特徴の一つなのだろうか……。

 また、ロマンチックな描写が多い作品も収録されている。メアリー・ルノーの『馭者』はその一つだ。

 舞台は第二次大戦中のイギリス。2人の青年は果樹園の脇で草の上に寝そべり、「あなただけのエデンの園を見つけていたんですね」「でもやってくるのは蛇だけなんだよ」なんてしゃらくさい会話をしているので、読んでてニヤニヤが止まらない。

 そして2人の行動自体はとーってもプラトニックなのだが、「二人は光沢のある林檎を齧った。陽によく当たった側を齧ると、皮の下に鮮やかな深紅色が見え、歯ざわりのいい白い果肉を縁取った」なんて無意味にエロを連想させる描写も出てくる。こうなるとニヤニヤを超えて「エロい!逆にエロい!」机をバンバン叩いて喜びたくなってくるのだ。

 しかもこれが男女カップルの話だったら「イチャイチャしやがって!」とムカついていた気もするが、男同士だと不思議とそうは感じず、男女の恋愛より純粋でロマンチックにすら見えてくる。このへんは異性愛小説にはないBLの特徴なんだろうし、読んでいて自分のジェンダー意識の偏りやコンプレックスが掘り起こされている感じもする。BL、面白いかも……!

 なお日本人の作品では、森茉莉の『恋人たちの森』が唯一の収録。彼女は森鴎外の娘として有名だが、一部では“元祖BL”と言われたり、この作品も“昭和腐女子のバイブル”などとも言われているそうだ。知らなかった……。

 こちらも作品から一部を抜き出してみよう。

 素早く車の前後を見定めた若者の眼はひどく美しくて、夢みるようだが、中に冷たい、光がある。その眼は嫩(わか)い、研ぎ澄ましたような美貌の、幾らか反り気味の小ぢんまりした鼻の、鼻梁の蔭に嵌めこまれていて、鋭い面を持った工芸品に象眼した宝石のようである。従順で冷淡で、だが充分に抜け目のない、捷(はしこ)い眼である。

 本書に収録のBLは、このように男の外見を甘美かつ丹念に描く場面が多いのだが、「そういえば男の顔をこんなにまじまじと観察したことないな……」と素直に感心してしまった。

 そして本書の最後を飾る『もうひとつのイヴ物語』(マリオン・ジマー・ブラッドリー、ジョン・ジェイ・ウェルズ)は設定がスゴかった。

 まず物語の2行目に「この小柄な異星人の発音はいつも抑揚がなく」と出てきて「え?え?SFなの!?」と驚く。そして宇宙船の隊長が「今現在は、そうだ。十六人(メン)いる――良い仲間たちだ」「俺達はみんな男(メイル)だ」なんて言ったりすることで、状況が飲み込めてくる。

 どうやら太陽系の惑星は消滅したらしく、残された人間は16人。しかも全員が男らしいのだ。「16人いる!」(男だけ)という人類の危機。子孫を残すために、さあどうするか!? アッー!

……という物語の続きは実際に本書を読んで堪能しほしいが、この本は筆者のようにBL未体験の人にもオススメだ。開いてはいけないトビラを次々と開いてくれるはずなので、心して挑んでほしい。

文=古澤誠一郎