大ヒットマンガが生まれる背景には、必ず彼らがいる ―命がけで仕事をする“マンガ編集者”たち

マンガ

更新日:2015/6/18

 老若男女問わず、国民の誰もが知っているような大ヒットマンガが誕生したとき、注目を集めるのは、いつだってその作者――マンガ家だ。どういったきっかけで物語が生まれたのか、どんな環境で描いているのか、普段の生活は…。世間の関心は、そういった部分にばかり寄せられる。けれど、そこで忘れてならないのが、「マンガ編集者」という存在だ。大ヒットマンガが生まれる背景には、必ず彼らの存在がある。

 でも、マンガ編集者っていったいなにをしているの? これが正直な反応ではないだろうか。マンガ家は作品を描く。では、マンガ編集者は…。そんな疑問を紐解くのが、『漫画編集者』(木村俊介/フィルムアート社)。

advertisement

 本書は、インタビュアーとして活躍する木村氏が、5名のマンガ編集者にロングインタビューを実施し、その内容をまとめた一冊だ。登場するのは、猪飼幹太氏、三浦敏宏氏、山内菜緒子氏、熊剛氏、江上英樹氏の5名。彼らの普段の仕事内容はもちろんのこと、マンガ家との関係性や編集者になったきっかけ、マンガに対する想いなどが、事細かに記録されている。それぞれの編集者の歴史を紐解いていくと、いくら文字数があっても足りないので、ここでは読み手の純粋な疑問を解消できそうな箇所をいくつか抜粋してみようと思う。

 まず、「そもそもマンガ編集者ってなにをしているの?」という疑問。これには、江上氏がこう答えている。

マンガ編集者のやることは…おもしろいマンガを作るために、作家がやること以外すべて(中略)結局、こっちには、期限までにおもしろいものを仕上げる、ということ以外の条件はないんです

 実にシンプルな回答だ。マンガ家が描き、編集者はそれ以外の仕事をする。変態をテーマにしたマンガが決まれば、変態が集まるパーティーへ取材に赴く。え、そんなことも!?と感じるが、それすらも「仕事だ」と割りきって考えるようになった、と江上氏は語る。それもすべてはマンガ家を光らせるため。編集者は作家を支えて、彼らの根底にある可能性を引っ張り上げるのだ。

 また、「大ヒットマンガはどうやって生み出されているのか?」。この疑問の解決の糸口となりそうなのが、実写映画化もされた『黒執事』を担当している熊氏の発言だ。

 内容、ジャンル、タイミング、表紙、キャッチコピー…。売れるために必要と考えてきた作戦を、今回は、はじめてすべての面で実現できてしまった。これで売れなかったら、おれは根本的に見ている場所がちがっているのだろうから

 熊氏はこの言葉を、『黒執事』第1巻の発売前日に、作者・枢氏に伝えたという。まさに命がけの仕事ぶりだ。雑誌のカラーを踏まえ、タイトル案を練り直し、衝撃的なストーリー構成を考えに考え抜いた。それも、作者と二人三脚で。その結果、当初は全4話の短期連載を予定していた『黒執事』は、いまや掲載誌を代表するほどの人気作に上り詰めた。これは熊氏のサポートあっての結果だろう。そう言い切っても、枢氏は怒らないはずだ。

 そのように作られるマンガ。猪飼氏は、“マンガそのものへの想い”を、こう語っている。

 マンガって、食べ物とか服とか灯油とかとちがって、この世に存在しなくても生きていけるもの(中略)でも、10代のぼくが生きのびるためにはマンガが必要だった

 マンガは生きていくうえで必要不可欠なものではないけれども、でもどこかの誰かにとっての「絶対に必要なもの」「大好きで大好きで仕方ないもの」「大切でずっと忘れられないもの」になりうるんだ

 確かに、マンガは「絶対に必要なもの」ではない。けれど、読み手に驚きや感動、救いを与えてくれることも事実だ。だからこそ、それを知っている彼ら、マンガ編集者は、命がけで世の中に作品を生み出そうとするのだろう。

 本書の最後で、木村氏は、“マンガという答えを出すのがマンガ家だとしたら、その参考やきっかけとなる問いをいろんな意味で見つけて提案するのがマンガ編集者の仕事の中心にあるように感じた”と言っている。だとするならば、やはりマンガというものは、作者と編集者が手を組み、相互補完をしなければ生み落とせないものなのだろう。そう思うと、単行本一冊の重みが、まるでちがってくるような気がする。

文=前田レゴ