処刑、駆け落ち、ストーカーまで…世界のプリンセスたちの生きざまとは?

社会

公開日:2015/6/25

 ディズニーアニメの実写映画化した『シンデレラ』が5週連続で映画興行収入ランキング1位を記録。リピーターも続出し、今年一番の大ヒットとなっている。「シンデレラの実写版って今さら…」と思いつつ、私も映画館へ行った。もちろんあらすじはよくわかっている。でも、不遇な生活を強いられるシンデレラの元に魔法使いが現れてから一転、王子様に見初められて幸せになるストーリーに、やっぱりほわ~っと幸せな気分に浸ってしまった。そして、「いつか私も白馬の王子様が…!」と願わずにはいられなかった…。

「プリンセス症候群」という言葉をご存じだろうか? (私のように)おとぎ話のプリンセスに憧れて、現実を直視することなく待っていれば王子様が迎えにきてくれるという他力本願な人生観に浸ることをいう。そりゃあ、仕事に追われる日々からある日突然脱出させてくれる人(しかもイケメン)がいたらどんなによかろうと思うのだが。

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 これに警鐘を鳴らすのが、『悪いお姫様の物語  おとぎ話のように甘くない24人の悪女の真実』(リンダ・ロドリゲス マクロビー:著、緒川久美子:訳 /原書房)。本書には、紀元前から現代まで世界に実在した姫、王女、女王らが登場する。男に代わって権力を握ったプリンセス、自ら戦争に繰り出したプリンセス、政治的駆け引きに巻き込まれたプリンセス、精神的に狂ってしまったプリンセス、性愛に溺れたプリンセス…と、昼ドラも真っ青の血なまぐさい実話を紹介。ホンモノのプリンセスを知って現実を認識せよ!というわけだ。

 例えば、フランス王妃、マリー・アントワネットの悲劇的な人生は有名だ。2006年にも『マリー・アントワネット』でその人生が映画化され、キルスティン・ダンストが美しくて派手好きでオシャレなマリーを演じた。豪華絢爛なドレスに、色とりどりのお菓子が並べられ、まさに女の子が夢見るふわふわの世界。しかし、ご存じの通りその浪費癖が民衆の反感を招き、一転してフランス革命で断頭台の露と消えるのだ。

 また、ヘンリー8世の2番目の王妃でエリザベス1世の生母、アン・ブーリンは、元は王妃の侍女だった。ヘンリー8世と愛人関係となり王妃を追い出して王と結婚するも、実の兄を含む5人の男との姦通罪で告発され、1536年にロンドン塔で首を切り落とされる。ちなみにこちらも、2008年に公開された映画『ブーリン家の姉妹』でナタリー・ポートマンがアンを演じている。

 権力に近いところに身を置けば、その高い地位のために周囲にちやほやされ、裕福な生活が送れる。しかし、政争に巻き込まれていつ命を落とすとも限らない危険と隣り合わせだ。

 処刑されるとまではいなくても、世間はもちろん一族からも見放され、身を落としたプリンセスもいる。1858年にポーランドの伯爵の娘として生まれたカタジナ・ラジヴィウは、ベルリンに住む28歳の亡命ポーランド貴族のプリンスと結婚。紛れもないプリンセスの称号を得る。しかし、賢いカタジナは女の身では関われない政治の世界に情熱を燃やして、政治の代わりにジャーナリズムに傾倒。イギリス生まれの南アフリカの政治家にストーカーまがいの行為を働いたかどで懲役刑となり、出所後はニューヨークの安アパートで落ちぶれプリンセスとして晩年を過ごしたそうだ。

 1873年にデトロイトで生まれたクララ・ウォードは、ミシガン州初の億万長者を父親に持つ。ロンドンの花嫁学校に留学中、10万ドルの借金を抱えていたベルギー外相の息子に求婚されてプリンセスになった。しかし、アメリカ生まれの女性はヨーロッパの上流階級の社交界で受け入れられず、ハンガリー生まれのバイオリン弾きと駆け落ちを決行。その後、キャバレーなどで裸体に近い格好でポーズをとって大金を稼ぎ、ヨーロッパ中を旅して巡る。さらに、結婚と離婚を繰り返して世間に後ろ指をさされながらも自由奔放な人生を送った。

 貴族であるがゆえの不自由さにさいなまれ、それに抗った人生。プリンセスから身を落としたカタジナもクララも、マスコミは放ってはおいてはくれなかったようだ。虚実ないまぜでその一挙手一投足が注目を浴び、おもしろおかしく騒がれたらしい。プリンセスとはなんと理不尽な身分だろうか。

 マリー・アントワネットは、離宮プチ・トリアノンで羊飼いの娘に扮して田舎暮らしのまねごとをしたとか。のんびりとしたフツーの生活に憧れたらしい。確かにこんなジェットコースターのような人生はまっぴら。しがない庶民でよかった…。今日も死の危険はない仕事をなんとか片付けたら、白馬には乗らないが歌って踊れる王子様をテレビで眺めて、平和な夜を過ごすとしよう。

文=林らいみ