ドラマ出演を取りやめ…、『徹子の部屋』に対する黒柳徹子の真摯すぎる姿勢とは

芸能

公開日:2015/6/29

 浮き沈みが激しい芸能界。先日もスペシャル番組に、ひと昔前テレビに引っ張りだこだった芸能人らが登場し、人気が落ちる原因となった失敗談を語っていた。正直なところ、司会者に向かって懸命に話す姿はなんだか滑稽に映って、哀れに思えてしまった…。

 一方で、いつまでたっても人気が衰えない芸能人もいる。NHKのテレビ女優第一号としてデビューし、テレビ創生期からレギュラー番組を持ち続けているという黒柳徹子さんはその代表格。トレードマークであるたまねぎ頭の結い方がファッション誌で紹介されたり、トーク番組『アメトーーク!』で「徹子の部屋芸人」がテーマに取り上げられたり、御年80歳を過ぎてなお若者の間で人気が高い。

advertisement

 その人柄は、彼女の手によるエッセイから知ることができる。1981年に出版された自伝的物語『窓ぎわのトットちゃん』(講談社)では、あまりにも落ち着きがないため小学一年生で退学させられ、私立のトモエ学園に転校したというエピソードが語られる。本書は空前の大ベストセラーとなり“トットちゃんブーム”を巻き起こした。『窓ぎわのトットちゃん』の続編ともいえる『トットチャンネル』(新潮社)は、NHK放送劇団入団以降のテレビ創生期のドタバタを描く。さらに、『小さいときから考えてきたこと』『不思議の国のトットちゃん』(ともに新潮社)など、数々の著作が発表された。

 そして、今年4月に最新作『トットひとり』(新潮社)を出版。黒柳さんが司会を務めた『ザ・ベストテン』での裏話や、3度のお見合いの末結婚を断ったこと、演技を勉強するために38歳で旅立ったアメリカ留学などを、カッコつけることのない素直な文章で綴る。

 本書では、黒柳さんの仕事に対する真摯な姿勢が読み取れる。例えば、39年間同じという黒柳さんのたまねぎ頭。なぜずっと変わらないのか。それは、黒柳さんはトーク番組の聞き手は髪型を変えない方がいいと考えているから。『徹子の部屋』に出演する際に毎回変わることで、視聴者が黒柳さんの髪型に気をとられてトークに集中できなくなるのを避けたいそう。後ろから撮られるために首筋を見せてうなずいているのがわかるように、そして、洋服と着物のどちらでも合うように試行錯誤したとか。

 また、黒柳さんは、『徹子の部屋』の司会を引き受けるにあたり、思い切ってテレビドラマの出演をやめている。なぜならば、ドラマで悪い人の役を演じることになると、「悪い女が話を聞いている」ように見え、視聴者に悪い印象を与えかねないからと持論を展開する。『徹子の部屋』が始まる数年前にせっかく留学をしてまで演劇を学んだのに、番組のためとはいえこの潔さはスゴイ。

 そして、何より本書から黒柳さんの愛情の深さが感じられた。向田邦子さん、沢村貞子さん、渥美清さんなど親しい友人はもちろん、デビュー当時から今までに出会った人々に対する感謝の言葉であふれている。『徹子の部屋』にゲストに対しても同じ。出演した加藤清史郎君に対しては、たまねぎ頭からアメを取り出してみせたところ驚いてフリーズしまったため、事前にもう少し説明しておけばよかったと後悔したらしい。黒柳さんの優しげな素顔が垣間見える。

 まだまだ紹介したいエピソードがたくさんあるが、大御所とのさばることなく何事にも真剣に取り組む姿勢や、誰にでも愛情をもって接する様子は、視聴者にも業界人にも必要とされ、その結果長く活躍していることを納得させられる。

 ちなみに、表紙にある若き日の黒柳さんのセミヌードにもびっくりだが、裏表紙には、NHK番組収録の合間に疲れて頭が重くなり、マイクに鼻をのせて少しでも楽になろうとしているという、ショートカットにワンピース姿の黒柳さんが載っている。これがなんともかわいらしい。本人もお気に入りの一枚だそうだ。ぜひご清覧を。

文=林らいみ