結局「電子書籍ブーム」とは何だったのか?「でんしょのはなし」から考える

文芸・カルチャー

2015/7/4

「かぶってるなー(汗)

本書を読んだ後の正直な第一印象はこれだ。筆者は2011年のいわゆる電子書籍元年から、この分野を追いかけていて、本書で取り上げられているサービスや運営者に話を聞いてきた(※)。そこには『でんしょのはなし』(鈴木みそ/マイクロマガジン社)で登場するものも含まれている。

●Jコミ(現「絶版マンガ図書館」)(赤松健氏)
●講談社 Dモーニング
●アマゾンジャパン Kindle/KDP(友田雄介氏)
●コルク(佐渡島庸平氏)
●ピースオブケイク cakes/note(加藤貞顕氏)
●マンガボックス(樹林伸氏)

もちろん『でんしょのはなし』の著者・鈴木みそ先生にも話を聞いている。

だが、鈴木みそ氏がマンガ家であること、マンガで取材内容が紹介されることの分かり易さは随一だ。深い話では僕も負けていないつもりだが、この分かり易さには絶対に敵わないなと素直に思う。学生に「電子書籍について勉強したい」と聞かれれば、まずこの本を勧めることになるだろう。1時間くらいで、電子書籍の何が凄くて、「何が凄くないのか」が分かる内容になっている。

そう、「何が凄くないのか」が明らかにされて、そこで当事者たる「マンガ家」鈴木みそが悩みながら質問をぶつけていくのが、このマンガの醍醐味なのだ。電子書籍、特にアマゾンのKDPは作家個人が出版社を介さずに作品を売っていくことを可能にした。従来の印税に比べると高い料率も注目を集めた。だが…。

大手出版社の人気作を含め、大量に投入されるようになった電子書籍から、自らの作品をどうやって知ってもらうか、という壁にいま作家たちはぶつかっている。作家のエージェント事業を展開するコルクの佐渡島氏が言うように、電子という巨大な在庫の山の中では多様化ではなく、むしろ寡占化が進んでいるのだ。

冒頭のロフトプラスワンのイベントには小沢高広氏が登場しているマンガ家ユニット「うめ」のTweetがその状況を端的に表している。

 

「電子は紙を駆逐しない」「凡庸な作家は電子書籍でも救われない」本書終盤は、そんな環境の中、作家がどうやって自分の存在感を出し、ファンと繋がって収益を確保していくか、というテーマが語られている。

鈴木みそ氏は、そんな中「自分」を打ち出していくことを主張するが、「作品」を軸足にブランドを構築していくというアプローチもあるだろう。ひとことに電子と言っても「雑誌」的に新作、新エピソードを知ってもらう媒体なのか、所有感を前提とした「単行本」というパッケージかで、取り組み方も全く異なってくる。立ち位置によってはアマゾンは敵にもなれば味方にもなるのだ。

読者にとってはすっかり当たり前の存在になった電子書籍だが、作家や作家を支える人々にとってはまだまだ試行錯誤が続くことになる。本書『でんしょのはなし』も第1部として締めくくられている。鈴木みそ氏も、以下で紹介しているように積極的にイベントなどで発言をしていくようだ。何かとマンガとの縁が深い京都で行われるものが来月8月に予定されている。

電子書籍のみならず、「作家がどう生き残っていけばよいのか」といった切実なテーマに関心のある読者はチェック頂きたいと思う。

文=まつもとあつし

※過去の連載はこちら
まつもとあつしの電子書籍最前線
まつもとあつしのそれゆけ!電子書籍
まつもとあつしの「電子書籍」行ってみた 聞いてみた!

 

京都版 トキワ荘事業イベント「デジタルコミックセミナー電子コミック時代の漫画家生存戦略」鈴木みそ@京都国際マンガミュージアム

1 日時
平成27年8月1日(土)午後1時30分~(午後3時30分終了予定)

2 場所
京都国際マンガミュージアム
京都府京都市中京区烏丸通御池上ル(元龍池小学校)1階ホール

3 内容
午後1時   開場
1時30分~ 電子コミック最新事情
1時40分~ 講演「電子コミック時代の漫画家生存戦略」
2時40分~ 質疑応答&クロストーク
3時30分  終了

4 対象
関西在住のプロマンガ家,マンガ家志望者,学生,マンガ関連教員など

5 料金
無料(ただし,マンガミュージアム入場料[大人800円、中高生300円、小学生100円]は別途必要)

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