“音楽のこと”しか考えてないんです 『音楽という<真実>』新垣隆さんインタビュー【後編】

音楽

更新日:2015/7/5

 18年間に及ぶゴーストライター生活について書かれた『音楽という<真実>』。インタビュー前編では、一連の騒動と佐村河内守氏との関係などについて伺ったが、後編では「新垣隆」という音楽家が生まれる歴史やプライベートなこと、そして今後の活動などについて語って頂いた。

音楽という<真実>』新垣隆さんインタビュー【前編】はこちら

新垣隆●作曲家、ピアニスト。1970年東京都生まれ。桐朋学園大学音楽学部在学中から現代音楽やCM曲などの作曲家として、またピアニストとして活躍。2014年2月、当時人気作曲家であった佐村河内守氏のゴーストライターだったことを公表、一躍注目を浴びる。その後は音楽作品として『N/Y』(吉田隆一氏とのデュオ)、『ロンド』(礒絵里子氏とのデュオ)などをリリース、テレビやラジオなどにも出演している。

恋愛は音楽にも影響してます!

 本書では音楽好きな幼少期から「音楽家・新垣隆」となっていく過程も描かれている。衝撃を受けたというショパンの『幻想即興曲』、伝記を読んで「ベートーヴェンになりたい!」と思ったこと、ピアノと作曲を学ぶ青春時代、音楽大学への進学、そして恋愛についても赤裸々に書かれている。さらに巻末には本書に登場する音楽関係者の人物インデックスまで収録。ゴーストライター騒動の部分に比べ、音楽のことについて語られている章は「みちがえるように表情が明るい」と新垣さんは笑う。

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新垣「自分が聞いてきた曲、影響を受けたもの、影響を受けてきた人たちをなるべく多く出したかったんですね。そういうところを読んでくださるとうれしいな、と思ってるんですけど。自分で言うのもなんですけど、ラインナップがすごくて。カーペンターズの次に河合その子が出てきて、川島素晴君という現代音楽の作曲家が並んで、というところがあったりします。わたくしは、すべての音楽は音楽であるとも言えるけれども、しかし垣根はやっぱりあって、いろんなジャンルがあると思っています。でもそうしたジャンルが同時にあるというところが音楽の不思議なところで、そこが面白いんじゃないかなと思っているんですけど。そして恋愛についてですが…本書ではいきなりそのコーナーが出てくるんですけど、わりとあの“いきなり出てくる流れ”は自分では気に入っておりまして。話自体は全然たいしたことないんですけど、自分もそれなりにそういう経験はしているという…。過去の作曲家に比べれば…いや比べなくても、もうホントにわたくしは大人しい限りなんですけど(笑)。もちろん恋愛は音楽にも影響してますね! 非常に大きいですよ。今後の恋愛ですか? わたくしは仕事体質といいますか、作曲して演奏してという体になっていて、それで1日が過ぎてしまうものですから、なかなかいい話は出てこないですねぇ」

家には○○○がない!?

 今後は本来の活動である作曲や演奏の仕事を中心にやっていきたいと言う新垣さん。しかしテレビ出演は「とてもありがたいと思っています」と語り、「依頼を断らない」理由についてもこう話す。

新垣「わたくしはテレビによって助けられた面も非常に大きいんです。 演奏などで全国へ行った時に“テレビ見てますよ”と声をかけてくれる方が多いものですから、そういった方たちのためにも、テレビに出るという形でお応えするというのも大事なのではないかな、という気持ちがあります。そもそもこんな形で出てきちゃったものですからね(笑)。でもそういう中で、自分でもできることがあればと思っているので、なるべく依頼を断らないようにしているんです」

 2014年大晦日に放送された、ダウンタウンの『絶対に笑ってはいけない大脱獄24時!』では、マツコ・デラックスと博多大吉と一緒に出演、クワガタに鼻を挟まれ、巨大風船をセーターの中で破裂させたりなど大活躍(?)した新垣さん。「もう、言われるがままにやってました。その収録があった2日後、吉田隆一さんとのアルバム『N/Y』を収録したんですよ。多少鼻に傷が残ってる中での録音だったんです(笑)」

 しかし作曲の仕事は音の世界に没頭しなければならず、それには数日から、長いと年単位というまとまった時間が必要ということもあって、今後テレビの仕事はセーブしていくことを考えているそうだ。

新垣「作曲や演奏の依頼が色々とありまして、本来の活動が増えてきている状況なので、テレビなどの仕事はある程度コントロールしていかないと、音楽活動に支障を来すことになってしまいますから、そこのところは少し…仕事を選んだりできたらいいな、と(笑)。できれば音楽に関する番組に出られるといいな、と思っています」

 しかしこれだけテレビに出演している新垣さん、実は…。「自宅にはテレビがないんですよ。受信機はあるんですけど、2011年に電波が届かなくなって、そのまま映らなくなってしまって…なのでテレビは見れないんです。出演したものは録画してもらったものを見たり、見なかったり。基本的に自分の出た番組は、見たくないですね(笑)」

その自宅は楽譜と音楽CDなどに埋め尽くされており、ひどい状態だそうだ。「でもその部屋もテレビ番組の中継で公開されちゃったんですよ。本当は片付けたいんですけど、片付けるテクニックもなくて、という恥ずかしいことだらけで…」

ゴーストライター騒動は「常に立ち戻らなければならない」こと

 本を出版することで区切りをつけ、これまでの活動を越えて行きたいと語る新垣さん。騒動に関して、言葉による整理はできたが、それをしたからといって今後必ずしも作品を生み出していくことができるという“保証”にはならないので「いずれにせよ大変です」と思いを新たにしているという。

新垣「1回こういう形にして次のステップに行かないといけない、このままグダグダしていてはいけない、という気持ちです。と思う反面、やはりこの騒動のことはいつまでも、常に考えていかないといけないものであると思っておりまして、本を出して終わり、ということにはならないと思います。常にここに立ち戻らないといけないのかな、と思うとちょっとしんどいんですけど、それは必要かなと思っています。だから書いたことで必ずしもスッキリした、ということはないんです。わたくしには考えるべきことがある、それについて答えは出ないまでも、その視点を常に持ってないといけないと思ってるんですね。そのための非常に大事な機会をこのような形で頂いた、というのは恵まれていると思います。ただこうして自分自身を振り返ってみると、結局あまり変わっていないなと感じました。とにかくわたくしは、音楽のことしか考えてないんですね(笑)」

取材・文=成田全(ナリタタモツ)