「映画でもアートでもなんでも、目指すべきポイントはたったひとつなんだ」映画監督・園子温の初個展開催

映画

公開日:2015/7/6

  • 園子温の初個展

 「ラブ&ピース」が大ヒット公開中、「リアル鬼ごっこ」が2015年7月11日(土)より公開、さらに「映画 みんな!エスパーだよ!」が2015年9月公開と、ここ数年で最も映画を撮り続ける監督・園子温。同氏のアーティストとしての初個展が、2015年6月26日(金)より開催され、話題を呼んでいる。

園子温コメント
映画でもアートでもなんでも、目指すべきポイントはたったひとつなんだ。そこにたどり着きたいだけなんだ。何千年も生きられない限り人間は、現実には愛と平和の調和を見ることは出来ないだろう。表現は”それを垣間見るための”、けれど”砂鉄と磁石が別れるような”、そんな矛盾と完璧さにたどり着くためのものなんだ。

 国際的な映画祭の常連映画監督として国内外で有名な園だが、そのキャリアは詩人として始まっており、その実力は“ジーパンを履いた(萩原)朔太郎”と称されたほどだ。その後は絵本の出版や、1990年代初頭の東京の路上をゲリラでハックし続けた伝説的パフォーマンス集団・東京ガガガの主催。さらには、水道橋博士とのお笑いデュオなど、ジャンルの壁を越えて活躍を続けてきた。

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 個展は、肩書きにこだわらない“芸術家・園子温”としての側面に焦点を当てて行われている。東京ガガガのアーカイブ、新作ハプニングアート「ハチ公プロジェクト」。そして、17年ぶりの自主制作映画として制作を終えて、来年の公開を待つ新作「ひそひそ星」のインスタレーションバージョンの3作を展示。

 中でも、多忙なスケジュールを縫って取り組んだ「ひそひそ星」への園の思い入れは、「劇場公開したくないくらいだ」というほどに強い。

「ひそひそ星」
園が1990年に書き下ろし、2015年に制作されたSF作品。タイトル通り「声高に話せないところ」を描いた本作では、セリフの数は最低限に絞られて、舞台が宇宙にも関わらず、どこでも会話は全てヒソヒソと交わされている。それ故に、蛇口をひねる音や蛍光灯の描写など極めて日常的なシーンが丁寧に描かれる、静かでディープな映画。また、主人公が降り立つ星々は、福島の居住が制限されている被災地で撮影され、多くの登場人物も避難中の人々によって演じられた。

  • 園子温の初個展

東京ガガガと「ハチ公プロジェクト」
1993年、大人しくなりつつあった日本社会に逆ギレするかのように「東京ガガガ」を結成した園子温。隔週繁華街のストリートジャックを繰り返すようになる。「毎回逮捕されていた」というほどの熱量を持った2年にもわたる活動は、当時ヨーロッパで始まった新たなデモ「リクレイムザストリート(路上を取り戻せ)」や、60年代を席巻したネオダダやフルクサスなどの前衛芸術運動とリンクするような、極めて実験的な運動だった。

  • 園子温の初個展

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「ハチ公プロジェクト」のはじまりも、「東京ガガガ」に由来する。園はガガガを始めたきっかけを、「当時渋谷のハチ公前スクランブル交差点を見たときに、“ここをかどわかしてやろう”と思った」と回想。人々を無意識のうちに集合させる”待ち合わせ場所”のアイコンとして、ハチ公は園の重要なモチーフだった。本物のハチ公から象られた複製によって、待ち合わせ場所の増殖を目論む本プロジェクトの最初の設置場所は、「ひそひそ星」と「東京ガガガ」を繋ぐ場所、福島の居住が制限された区域となっている。

 園子温による歩みはまるで、バブル崩壊後の失われた20年や大震災に見舞われた日本社会、そして報道の自由度の下落と反比例するように高まった炎上/監視社会をこれでもかと映し出した、実に透明度の高いまさに社会の鏡のようなものだ。しかし、そんなディストピアへの描写に留まらず園は、どんな状況でもユーモアを持って生きる人々をこれまで何人も描き出し、笑いを前提に表現活動を行っている。

園子温展」
会期:2015年6月26(金)~ 7月26(日) ※水曜休
時間:15:00~20:00
会場:Garter @キタコレビル
住所:東京都杉並区高円寺北3-4-13
入場料:500円
⇒詳しくは「Artist Run Space」ホームページへ

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