悪いのは男か女か…性の不平等を真正面から描く問題作『先生の白い嘘 』

マンガ

公開日:2015/7/7

 女は、物心ついた時から、男女は決して平等ではないことを、無意識のうちに自覚して生きているように思う。体力的にかなわないのはもちろんのこと、大人になると、結婚・出産・仕事など、人生のあらゆる節目において、平等なんかでは決してないことを痛感させられる。しかし、男だってうまくやっている男ばかりではないだろうし、女もあえてこの状況にあらがわず、将来自活しないで男に選ばれて生きていく道を、虎視眈々と狙っている者もいる。

 鳥飼茜の『先生の白い嘘』(講談社、現在3巻まで発売中)は、男と女の間に横たわる性の不平等を徹底的に描いた問題作だ。

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 この漫画の主人公は、一見男に縁のなさそうな、黒髪をひとつに束ね、眼鏡をかけた24歳の地味な高校教師「美鈴」である。優劣をつけ合う生徒たちを、教師の高みから観察しながら、平穏な毎日を送っている女性だ。しかし、そんな日々は友人・美奈子の婚約者である「早藤(はやふじ)」の登場により揺らぎ始める。実は美鈴は、4年前、美奈子とすでに交際していた早藤にレイプされ、今も関係を強要されているのだ。最初に襲われて以来、彼の求めに逆らえず「女が女というせいで」受けた暴力に、ひどく傷つき、混乱している。

 また、美鈴の生徒である「新妻」という少年も、物語の鍵をにぎる重要人物である。

 地味で大人しい彼は、バイト先の人妻に強引に性行為を強要され、逆らえず、EDになった。美鈴はそんな新妻に「先生はセックスはいつだって男のせいって思ってますか。力じゃない暴力もあると思います…」と心の内を明かされる。しかし彼女は、「男ならば、力ではね返すことはできたはず」と考え「女から正しさや自由まで奪ってしまえる不条理な力を持っている男性を、私は絶対許さない」と告げてしまう。

 美鈴は自分がレイプされたことを、「女だから仕方がない。自分は弱くて搾取される側の人間だから」と考えているように思う。また、合コンで早藤と出会い、トイレで無理やり犯された玲菜も、その後は自分から彼に尽くしていた。そうでないと、きっと女である自分が、ひどく惨めに思えてくるからだろう。早藤は、そんな女性心理を見抜き、見事に利用していた。鬼畜である。

 この漫画は他にも、腹に一物をかかえた、様々な男女が登場する。心に闇を抱える優等生の美少女、青年誌のグラビアに大胆な水着姿で登場し「自分の体が自分を苦しめるなんて考え 狂ってる」と言い放ち、校内を騒がせる女子生徒。自由に割り切ったセックスを楽しむ男子生徒。美鈴を女として見下し続ける、虚言癖がある早藤の婚約者・美奈子……。

 読んでいて、後味が良い漫画ではない。気楽な気持ちで読んでよい話だとも思えない。だが、女と男の欲望に、誰もが戸惑い、傷ついている様子に目が離せなくなる。性の不平等は、社会生活で決して気軽に話せる話題ではないし、直視しようにもどこか曖昧な部分が伴うため、真正面から向き合うことが今まで難しかったからかもしれない。

 全く正反対の悩みを持つ、女である美鈴と男である新妻が、お互いの心の痛みを理解し、救われる日は来るのだろうか。男女両方の視点で描かれており、ハッとさせられる部分もたくさんあるが、ジャッジを下すのは非常に難しい問題であることも同時に痛感させられる。それでも、それぞれの登場人物が、どんな答えを導き出すのか、男女は本当にわかりあえないのか、気になって仕方がない作品である。

文=さゆ