ツンデレな掃除機…「萌える」かどうかで家電を選ぶ時代がやってくる?

生活

2015/7/9

 家電を「愛でる」動きが広がっている。さかのぼれば、2002年に登場したiRobot社のロボット掃除機・ルンバは、その「いたらなさ」が多くのユーザーに愛された。「【緊急】ルンバが家出!」「【捜索感謝】娘3歳がソファの下で空腹で倒れていたルンバを救出しました!」。ルンバの持ち主の反応はまさに飼い主。壁に何度もぶつかって進む方向を決めたり、ケーブルに足をとられて悲しい音をあげたり、時に部屋を飛び出して脱走したり…。そんなルンバの「ドジッ子」ぶりに魅力を感じるようになり、家事をこなすだけの家電ではもうアナタはものたりなくなっている。

 ソニーコンピュータサイエンス研究所の大和田茂氏は、著書『萌え家電 家電が家族になる日』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中で、現在、私たちが家電に対して、スペックではなく、より人間的なものを求める傾向がさらに強まっていることを指摘している。

 たとえば、ルンバのフォロワー商品としてシャープから2012年に発売された、ロボット掃除機「COCOROBO(以下、ココロボ)」は、見た目はルンバとさほど変わらないが、最大の特徴に、音声認識・対話機能がある。「きれいにして」と言葉で命令すると動き出すだけでなく、壁にぶつかった時は「イテテ」といい、ゴミが溜まりすぎると、「苦しい」という。さらに、2014年には、「プレミアムなココロボ 妹バージョン」も登場。販売期間1カ月のみの限定バージョンが持つ基本的な機能は、実は通常バージョンのココロボとまったく同様だが、キャラクターの絵がプリントされ、音声が萌え系の声優さんに変えられた。「掃除うまいね」と褒めれば、「…べ、べつに、あなたにほめてほしくて掃除したんじゃないんだからね」と恥ずかしがり、「かわいい声だね」といえば、「あ、ありがとう。この家に来られて、幸せだよ」とデレる。単なる妹萌えの人たちに向けた特殊なサービスなのかと思いきや、別のシリーズとして「やれやれ、困った甘えん坊ですね、まったく」「この程度のことができなくてどうします?」などという台詞のアニメ『黒執事』バージョン(数量限定発売)や「そう心配する理由が卿にはあるのか」などと、ユーザーを「卿」と呼ぶ仕様になっているSF小説『銀河英雄伝説』バージョン(非売品)もあるというのだから驚きだ。

 ココロボのサポートセンターには、「故障したのでうちの子を診てほしいのだが、手放したくないので『往診』してもらえないか」と電話がきたり、内部の修理が終わったので、サービスとして表面パネルを新品に変えてしまったら「小さな傷のひとつひとつがこの子との思い出なのになんてことをするんだ」と苦情がきたりと、さまざまな反応が届いているという。開発者の阪本実雄氏は、すべての家電が行きつく最終形はロボットであると考えている。重要なのは、1)しゃべること、2)ネットワークにつながること、3)人格を表現できるAIを持つこと。家庭用の冷蔵庫であれば、1)「今日はアツくなるよ、もうビール冷えてないよ」としゃべり、2)ネットワークにつながっているので外出先からでもビールが冷蔵庫にあるかがわかり、3)主人はビールが好きだと知っている人格がなくてはならない。「飽き」がある人間に愛され続ける家電を開発するためには多くの工夫が必要となるのだ。

 このような、家電に「人間的なもの」を求める流れは今後も続くに違いない。神戸大学大学院システム情報学研究科・中村研究室の祖田心平氏は、MMDAgent「初音ミクに家電を操作してもらった」を発表。画面内のキャラクターに話し掛けることで、カーテン、エアコン、テレビ、扇風機などの操作ができるシステムを開発した。大和田氏が所属するソニーコンピュータサイエンス研究所も大和ハウスと共同で、2006年「萌家電」プロジェクトを開始。実生活で風呂の湯はりの量を減らして節水すると、コントロールパネル内のお風呂の擬人化キャラクターの好感度が向上したり、エアコンと扇風機を同時に使うと、冷房効率が上がるため、エアコンと扇風機2つの擬人化キャラ同士が仲良くなったりするという仕組みを生み出している

 家電が、今以上に生活に欠かせない「家族のひとり」となる時代はもうすぐそこまで近づいている。「萌え」であふれる日常生活…夢は広がるばかりだ。

文=アサトーミナミ