ゆとり世代が昇進したら指示待ち上司が誕生? ――『若手社員が育たない。』豊田義博さんインタビュー【前編】

ビジネス

2015/7/13

 年長者による「最近の若者は…」「自分が若い頃は…」という言葉はいつの時代も繰り返されてきた。しかし近年「これだからゆとりは…」が使われているという。現在27歳から11歳が受けた「ゆとり教育」、そこに原因を求めるのは正鵠を射たものなのだろうか? 他に何か別の大きな問題があるのではないか?

 そこで『若手社員が育たない。――「ゆとり世代」以降の人材育成論』(筑摩書房)の著者で、20代の就業実態を中心に研究している豊田義博さんにお話を伺うことにした。

 この「若手社員が育たない」という問題、現状を放置すれば社会の根幹を揺るがし、日本企業が急速に競争力を落としかねない大問題であった。

 

第三の“困った若手社員”の登場と“ゆとり世代”

 2010年に出版した『就活エリートの迷走』(豊田義博/筑摩書房)で、明確にやりたいことがあって高いコミュニケーション能力があり、エントリーシートや面接対策も完ぺき、いくつもの企業から内定を取るなど就職活動を真面目に行い、意中の企業に入社しながら社会人としてのスタートに失敗、戦力外の烙印を押される人たちがなぜ生まれたのかを分析し、採用手法と採用市場を変革する必要性を説いた豊田さん。

「そこそこ出来る若手社会人、いい会社に入った人たちが、なんとなく会社とのフィッティングがうまくいっていないという話があって、その要因のひとつが就職活動にあるだろうと捉えたんですが、実はもっといろんな要因があって迷走してしまうのではないかと考えていたんです」


豊田義博さん
豊田義博さん

 これまで社会的に問題となった“困った若手社員”には、10年以上前から存在が指摘されている、挨拶が出来ない、指示待ち、すぐ辞める、自分には無理と仕事を拒否するといった「後ろ向き型」、そして『就活エリートの迷走』に登場する、志望職種や自身が描くキャリアビジョン、成長シナリオにこだわりすぎて迷走する「キャリア迷走型」があった。しかし豊田さんは「近年その迷走のあり方が変わり、次のモードにシフトしてきている」と指摘する。それが3つめのパターンの、上昇志向が弱く、リスクを回避し、保守的で、自己の人生を充実したものにするため自分の時間を大切にする「自己充実型」だ。

「そういう人たちが出てくるのとほぼ同時に、彼らに『ゆとり世代』とラベルを貼るような言説が出てきて、悪いのはすべてゆとり教育のせい、という状態になってしまった。そして若手自身もそう認識して成長の機会を放棄してしまい、上司や組織側はあきらめてしまっている部分がある。その思考停止状態をなんとかしなくてはいけないな、と。一方で、ゆとり世代にどう対処するかといった本はたくさん出ていて、そこにはだいたい『マネージャーが変われ』と書いてあるんですが、部下の面倒を見ながら自分も業績を上げないといけない“プレイングマネージャー化”している現状ではとても無理なんです。そんなふうに組織そのものがいろんなダメージを受けていて、被害者は若手であるけれども、ミドル層もある種の被害者であって、これはもう少し発想を変えないと、この事態は収まらないなと思ったんです」

会社が人材を育てることに期待出来ない社会

『若手社員が育たない。』は全6章で構成されていて、第1章は今どきの若手社員の特徴について分析している。例えば若手は「指示待ち」だと言われるが、第3の困った若手社員は「何をしたらいいかも薄々わかっていながら、そしてそれをする能力もありながら、取り組まない」という失敗するリスクを回避しているだけなのだという。これは30代後半から上の世代にはなかなか理解出来ない感覚だろう。

 続く第2章では、仕事の特性が変化したこと、そして仕事環境の変質といった状況が若手を育ちにくくしていることについての考察がある。これまで日本企業は高度成長期に形成された、新卒を一括採用して新人研修や職場で実務を経験させ、知識や技能を身につけさせるOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)などを通じて若手を育成してきた。それを本書では「個社完結型『採用・育成』システム」と呼んでいるが、このシステムの寿命は尽きかかっており、今の時代に即した「社会協働型『育成・活用』システム」への移行が急務だという。

「これは業種によっても温度差があるのですが、時代遅れになっていることを自覚していない企業がたくさんあるんですよ。ある時までは、大企業が世の中を変えていくだろうと信じていたし、そうあって欲しいとも思っていた。でも正直、もう期待は出来ないかもしれない。それは別に企業が悪いのではなくて、日本のシステムがこれまであまりに企業に頼りすぎていたんですね。そして会社が新人を一人前にするというのも当たり前に期待されていたことだけれども、それも出来ない社会になってきているんです」

多くの人が「変化」を自覚していない

 会社が新人を一人前に出来ない原因――それは近年、会社で行われる仕事が業務の高度化や専門化への対応、コスト削減や効率重視といった理由から以前よりも細分化されており、最初から細分化した仕事の中で働き始めた若手は、自分が今何の仕事をしているのか全体がわからず、手応えもなく、仕事を通じての基礎力が高まらない、視野狭窄の状態に置かれていることがあるという。一方、上司や管理職はそんな状況と若手にあきらめていて、育てるよりもプレイングマネージャーとして自分の業績を上げる方を優先させるという負のスパイラルに陥っている。また20年ほど前から普及し始めたパソコンによって、連絡がメールになるなど仕事のやり方や情報がブラックボックス化し、上司や先輩の行動を見ることや真似る機会が減った「静かな職場」が増え、若手が基本・基礎の習得をすることが難しくなってしまったことなども影響しているという。

「そういう中でも、若手をその気にさせて仕事をさせているマネージャーもいるんです。その人たちは、自分と若手はメンタリティも置かれている状況も違うという、時代が変化していることをちゃんと自覚した上で、どうやったら彼らが頑張れるのかという思考回路が普通に働いているんです。でも多くの人がこの変化を自覚していなくて、自分が若手だった時と変わっているとは思いながらも、じわじわとした変化の中にいたので、劇的に変わったことに気づいていないんです。自覚していないから『なんで最近の若手はもっと積極的に来ないんだ。自分が若い頃は…』となって、今の若手は物足りない、ダメだ、使えない、ということになってしまうんです」

 しかし若手と上司の齟齬を埋めていかないと、この先人材が育たなくなり、5年後、10年後に基幹人材や幹部候補が不足し、会社や社会が動かなくなってしまうことになりかねない。

「一般的に20代の半ばぐらいまでに、仕事や色々なことを進めていく上での“進め方の型”みたいなものが出来上がっていく時期があって、その間にリスクを回避することや指示待ちしてしまうといったことをリセットしてあげないと、それが彼らの型になってしまう危険があるんです。変化を求めず、成功体験がないまま年齡を重ねてしまうと、指示待ちが基本になって、『仕事ってそういうもの』ということになってしまいかねない。そして『ワーク・ライフ・バランス』みたいな、ある意味でそういう人たちに使い勝手のいい言葉があって、あくせくしないで生きるのがいい、と思っているところもある。確かに死ぬほど働けとか、若いうちは残業もいとわず仕事するという考えは時代遅れなので改めなくてはいけないと思うのですが、そこで何もせず、悪い癖がついたままだと、成長する意志のない、ワーク・ライフ・バランス以前みたいな人がどんどん量産されていく可能性はありますね」

 ワーク・ライフ・バランスは「ワーク」という安定がなければいずれバランスが崩れ、「ライフ」がどんどん悪化していく。さらに将来的には日本の人口が減っていくという問題もある。

「でも若手は、仕事が体系的になっていないからスキルが身につかないのが原因で、自分のせいじゃないと思っているところがある。そういう言い訳がたくさん出来る状況が、そこここに転がっているんですよね。ただ企業もある程度の人数の管理職や幹部がいないと回らない部分があるので、将来的には彼らが年齡を重ねて、昇格や昇進することがあるかもしれない。そうすると“指示待ち型上司”というものが生まれてしまう可能性がありますね。もしかしたら、もう生まれているのかもしれない」

 現状を分析している第1章と第2章は、読んでいると少々暗澹たる気持ちになることだろう。でもそこをなんとか我慢して読み進めてほしい。この出口のなさそうな問題のひとつの解決方法は、本書の後半にある。

【後編】若手社員が社外勉強会に流れてしまうワケに続く


とよだよしひろ リクルートワークス研究所主幹研究員。1983年東京大学理学部卒業後、リクルート入社。『就職ジャーナル』『リクルートブック』『Works』の編集長などを経て現職。キャリア論、世代論、学習理論、組織行動学などについての調査研究を行っている。著書に『就活エリートの迷走』『「上司」不要論。』、共著に『新卒無業。』など。

取材・文=成田全(ナリタタモツ)