日本最大級の新刊書店から日本一狭い古本屋に転身 店主が綴る「本屋になりたい」人のための本

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/19

本屋になりたい。

それは、本をよく読む人であれば、一度は必ず思い描く夢だろう。その言葉がそのままタイトルになった『本屋になりたい この島の本を売る』(宇田智子/ちくまプリマー新書)の著者は、沖縄の公設市場の向かいで、6畳の広さの古本屋「市場の古本屋ウララ」を1人で営む女性。そこで本を買い取り、並べて、売る日々の中で、著者が本と人のあいだに立ち、考えてきたことを綴った一冊だ。

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なおこの本は、「本好きが高じて古本屋になっちゃいました!」「好きなことを仕事に!」というライトなノリでは決してない。著者は1500坪の広さのある東京の新刊書店に7年ほど勤め、沖縄の支店に異動したのち、古書店を開業している。日本最大級の新刊書店から、日本最小級の古本屋へ――。そんな経歴の著者は、本を売る楽しさも知っているが、その大変さも身をもって知っているのだ。

本屋を営む大変さを知っているからこそ、本書では本屋の仕事に必要な実践的な知識も惜しげも無く披露される。たとえば古本屋については「何度も仕入れて何冊も売る定番書を作ること」「あるだけで箔がつくような本を置くこと」というアドバイスも書かれている。さらには今の古本屋で沖縄本をメインに据えていることについて、「立地が品揃えを決めてくれた」というかなりリアルな話も書かれている。

一方で「小さな本屋ってやっぱり楽しそう!」と思える話ももちろん多い。自分が店にいないときは隣の漬物屋さんが代わりに会計をしてくれて、漬物屋さんがいないときは逆に自分が会計をしているという話。週に一度は店に訪れ、「こんにちは。ハルキある?」と村上春樹の本を買い求める80代のおばあさんがいるという話。たまたま店の前を通った人が思わず足を止めて、「人の暮らしに本が入り込む瞬間」を見るときのワクワク感についての話……。そんな楽しい話をしながらも、古本屋の自由さが大変さと表裏の関係にあることを指摘するのも著者は忘れない。

また著者は、出版社や書店から敵と見なされることも多い図書館についても、「絶版になった本を所蔵してくれている、とても頼りになる存在です」とその存在を肯定的に捉えている。また古本屋を始めてから、大事にしていた蔵書も「買う人がいるなら売ってもいい」と思うようになった……とも書いている。

このような著者の本との向き合い方から感じられるのは、「それぞれが自分の利益だけを考えるのではなく、古書店同士も新刊書店も図書館も仲間になって本にまつわる業界を元気にしていこう」「本好きだけで向き合うのではなく、新たに人が本と出会う機会を増やしていこう」という前向きな姿勢だ。

書き手として本の周辺で仕事をしている筆者も、この業界の先行きの厳しさは身をもって感じていたので、この本の提示する視点は新鮮であり、勇気をもらえるものでもあった。もちろん「本屋になりたい」という夢を持つ人が読んでも、店を営む苦労まで認識した上で、「それでもなりたい!」と思えるような一冊だろう。

最後に、そんな著者の本と向き合う視野の広さ、おおらかさが伝わる文章を引用しよう。この文章は、「自分で持ちきれない本を、他の店に持ってもらっている気持ち」と古書店同士のつながりについて書いた後に続くものだ。

ときどき、店のあまりの狭さに、
「ほかに支店があるのですか?」
と聞かれます。「あります」と言ってみてもうそではないかもしれません。
あります、世界中に。

文=古澤誠一郎