声優・羽多野渉さん本番でマジ泣きの理由とは?『天地明察』オーディオドラマで登場!

文芸・カルチャー

2015/7/17

 声優・羽多野渉さん本番でマジ泣きの理由とは!『天地明察』オーディオドラマで登場!

 江戸時代、天門学者の生き様を描いたベストセラー小説『天地明察』。この度、装いも新たにオーディオドラマが誕生! 主人公・渋川春海を演じるのは、人気声優の羽多野渉さん。そして多くの声優の方々に混じり、著者・冲方丁さんも初の声優に挑戦しているそうだ。映画・マンガの先行作品とはまたひと味違った出来になっているという。この度のリリースを前に、オーディオドラマならではの魅力を、羽多野さんと冲方さんが語ってくれた。

想像力が何倍にも刺激される17時間

 オーディオドラマは、ナレーション・BGMで作品イメージを膨らませつつも、ほぼ原作に忠実なつくりをしている。そのため全部で17時間という聞き応えのあるボリュームになったという。そのできあがりについて感想をうかがった。

冲方 昔の小説は、講談で“聞く”スタイルが一般的だったんですよ。字を読める人も少なかったので、琵琶法師の時代から脈々と受け継がれていました。「地」の文と、セリフに分けるのはそのためです。だから書物を読むことが広がったのは、ここ100年くらい。そういう意味では、このオーディオドラマは「本来の物語」の形に戻ったと言えますね。

羽多野 僕もできあがりを聞いて驚きました。収録しているときは、自分の出演パートのみしか聞けていませんでした。それが、ナレーションが入り音楽が入り、そして役者の演技が入り……。音声だけなのに、登場人物がどんな表情で話しているのか、はっきり浮かんでくるんです。映像が立体的に浮かんで来るのは、まったく新しい経験でした。

冲方 想像力が何倍にも刺激されますよね。小説も読者に想像してもらうしかありません。けれど、声優さんの演技が入ると、繊細さがやっぱり違います。登場人物たちの生命力がいっきに湧いてくるんです。

収録時に本当に涙がでるほど熱演!

 映画、マンガと様々なメディア化をされた同作だが、オーディオドラマは、それらとは別格の完成度だという。

冲方 全部で17時間というと、長く感じるかもしれません。けれど、普通に小説を上下巻読むとなると、もう少し時間がかかるのではないでしょうか。それに演技力に引き込まれて、長さはまったく気になりません。どこから聞いても楽しめると思います。

羽多野 そう言ってもらえると嬉しいですね。今回は3日間で渋川春海のパートを収録したのですが、これだけひとりの役に没頭させてもらえたのは、貴重な経験です。僕らもよく朗読のお仕事をしますが、その場合はひとりですべてのパートを演じることがほとんどなんです。今回は渋川春海、というひとりに注力できました。主に落ち込んでいるシーンばかりですが(笑)、それをいろんなバリエーションで演じさせていただきました。

冲方 この物語では、20代から40代にかけての渋川を描いていますが、まあよくへこむんですよ(笑)。羽多野さんは、それを見事に演じてくれました。また、渋川の人生の激しい起伏を知ると「人間ここまでへこんでも大丈夫なんだ」と思ってもらえると思います。

羽多野 渋川の人生は最高潮になったかと思うと急降下する。あまりに感情の起伏が激しくて、収録中、マイクが割れるほどの声を出してしまったり、本当に涙が出ることもありました。そのシーンの収録後、気持ちの切り替えが必要で休憩をもらったこともありました。

冲方 小説家も物書きとして作品に“潜る”わけですけど、役者さんはちがう形で潜りますよね。小説では、主人公だけに感情移入するのではなく、読者の方に対立する人物が敵視されないように気を配ります。このライバルがいるから成長できたんだ、と思ってもらえるようにしたいんです。今回羽多野さんには、本来小説では想像してもらうしかない、春海らしい愛嬌や素直さなど、ニュアンスをみごとに演じていただけたと思います。

羽多野 台本を読んだマネージャーに、「渋川は羽多野しか頭に浮かばなかった」と言われました。女房の尻に敷かれたり、方々に謝りっぱなし、刀の扱いが下手だったり…。実際、スタジオでも僕の立場はそのまんま春海のようでした。共演者が事務所の先輩、三木眞一郎さんや土田大さんなど錚々たる方々で。先輩方を前に、額を畳みにこすりつけて謝っている羽多野の姿が目に浮かぶと思います(笑)。

冲方さんは「光臨じゃなくて、ただの落下」?

 今回の作品で、冲方さんは、春海の義兄・安井算知役を演じたとのこと。初挑戦の声優はいかがだったろうか。

冲方 声優なんてご大層なことはしていません! もう収録の日は朝から気が重くってね。算知のセリフは3つくらいかと思ったら11ありました。いつもは、ガラスの向こう側で収録を聞いている立場でしたけど、役者さんは改めてすごいと再認識しました。

羽多野 読者さんたちからした作者光臨ですよ!

冲方 光臨じゃなくて、ただの落下です(笑)。 自分で書いたセリフなのに「読み方合っていますよね?」と自信をなくしたり、自分の演技を聞き返すなんて絶対にムリだと思いました。今回は、やってみなえれば分からない大変さが改めてわかり、良い経験になったと思います。

 物語では、渋川春海は多くのライバルにもまれながら成長を遂げていく。お2人にとって、“ライバル的存在”とは何を指すのだろう?

羽多野 同年代の声の芝居をしている仲間とは、普段からとても仲良くやっています。けれど、仕事のときは「バシッ」と実力を見せ合います。ライバル視してはいませんが、力を認め合っている存在ですね。

冲方 物書きには、同年代のライバルなどいないのですが…、ある意味書店にある本すべてが商売敵ですね(笑)。書店は物書きにとって明暗がすべて出る場所。デビュー時は、辛すぎて書店に行けませんでした。でも、今ではこの『天地明察』がある意味、超えなければならない存在です。「また『天地明察』のような物語を書いてください」「春海のような人物をまた読みたい」とよく声を掛けられます。この本を執筆しはじめた頃は、営業さんに「何の本ですか?」と聞かれて、「日本人がカレンダーを作る話です」なんていうやりとりをして。みんなそんなに売れないと思っていました。でもそれが何の因果か、僕はこの作品を通して様々な人へバトンを渡す役割を任されたのかなと思っています。

人生に彩りを与えるほどインパクトある名作

 冲方さんにとって人生を大きく変える存在となった、この小説。多くの人の心をつかんで離さない理由を羽多野さんはこう説明する。

羽多野 最初は時代劇と聞いて不安がありました。僕は活字に小さな恐怖心をいだいているので。でも読み始めるとすぐに引き込まれました。春海は、作中でいくつもの大失敗をします。その姿に、自分のデビュー直後、オーディションで結果が出せず、月1〜2本しか仕事がない時期を思い出したり、物語のいくつものシーンで自分と春海がかさなって、勇気をもらったりシンクロする瞬間がいくつもありました。最終的には演技で本当に泣いてしまうほど入り込んでいました(笑)。そして、この作品を読み・演じたことで、人生に彩りを与えてくれたと思っています。小説を読んだことのない人もぜひ聞いてみてほしいです。もちろん小説ファンの人も満足する内容になっていると思います。

 人生に「彩り」を与えられるほどの感動が待ち受けているという、この作品。想像力を刺激されるというオーディオドラマで、その世界観にぜひ浸って欲しい。

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取材・文=武藤徉子