中国の動画サイトにおける「日本のアニメのブラックリスト」の読み方

アニメ

公開日:2015/7/20

 中国オタク事情を連載している百元です。第13回は6月に中国政府から現地の動画サイトに対して出された「日本のアニメのブラックリスト」と、そこから見えてくる背景や取締りの方向性などを紹介させていただきます。

 このブラックリストは3月末に中国の動画サイトに対して行われた日本のアニメの取締りからの流れにあるもので、具体的には以下の38作品が挙げられていました。

残響のテロル
BLOOD-C
学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD
Ergo Proxy
寄生獣
スカルマン
Another
インフェルノコップ
アフロサムライ
東京喰種トーキョーグール√A
ソードアート・オンラインII
東京ESP
東京レイヴンズ
デビルメイクライ
Mnemosyne-ムネモシュネの娘たち-
新妹魔王の契約者
進撃の巨人
コープスパーティー
ストライク・ザ・ブラッド
デスノート
デッドマンワンダーランド
デート・ア・ライブII
PSYCHO-PASS サイコパス
デビルマンレディー
School Days
エルフを狩るモノたち
エルフェンリート
ハイスクールD×D
百花繚乱 SAMURAI GIRLS
だから僕は、Hができない。
GIRLSブラボー
かのこん
はぐれ勇者の鬼畜美学
桜通信
暗殺教室
黒執事 Book of Circus
CLAYMORE
ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド

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 しかし、これらの作品を見ていくと日本の感覚では不思議に見える部分も存在するかと思います。以下にそういった部分に関する、中国現地の受け止め方を幾つか紹介させていただきます。

・明らかに古い作品、時代の異なる作品が入っている理由
このブラックリストには『エルフを狩る者達』、『桜通信』、『デビルマンレディー』といった、一昔前の、中国でネットを介したアニメ視聴が拡散する前に中国に入った作品が混じっています。

 中国のオタク関係の方の話によれば、なぜこういった作品がリストに入っているかについては
「動画サイトにアップされるような作品、ネットによるファンサブで拡散されたような作品以前の人気作品がリストに入っているのは、VCD時代やDVD時代などの海賊版がまだ幅広く流通していた頃の取締りや規制におけるデータも使われている可能性が考えられる」
とのことでした。

 中国ではイロイロなアピールを行うために、こういった取締りのリストに関しては一定以上の数のタイトル(それもある程度根拠のある作品)を出さなければならないといった話も聞きますが、必ずしもデータを取って理由を付けてといったことが行われているとは限らないそうです。そしてその際には過去の事例や案件のデータを流用して体裁を整えたりもするとのことで、今回のリストにそのような流用が混じっている可能性は否定できないそうです。

 もちろん取締りのリストには新しい、人気の高い作品が「目玉」として入るわけですが、それ以外の部分に関してはイイカゲンになってしまっていることも珍しくないのだとか。その為、リストに関しては個々の作品が挙げられた理由を把握することに加えて、全体的な傾向を見て「空気を読む」ことを求められるそうです。

・複数シーズンにわたる作品の中の一つだけがリスト入りしている理由
リストの中にはあえて第2期や第3期を指定している作品がありますが、これに関しては「複数のシーズンにまたがって作られている作品」に対する中国特有の規制のロジックが影響していることも考えられるそうです。

 例えば『黒執事』は第3期にあたる『黒執事 Book of Circus』がリストに入っていますが、仮にこれをシリーズ共通のタイトルとなる『黒執事』とした場合、
「今後出る作品まで今の時点で規制するのか?」
という矛盾点についての指摘が中国では出てしまうそうです。また、1期、2期、3期などと書いた場合は第四期が出た場合はまた別の話にされてしまうのだとか。

 そんな訳で現在取締りの対象として明確になっている第3期だけを名指しでリストに入れ、
「それ以前に関しては自主規制を促す」
「その後については現時点では明確にしない」
といった態度を示しているという見方もできるのだとか。

 ちなみにこれまでの他のメディアも含めての規制の傾向からは、仮に第2期が名指しで規制の対象となった場合、第1期もアウトになることが多いとされていましたが、今回の取締りでは第2期がリストに挙げられている作品でも第1期が生き残ったり一時的に削除されたものがその後復活したりしているケースがあるということなので、規制に関してはやや緩めになっている、或いは交渉の余地が残されているような所も見受けられるという話です。

・中国でそれなりに知名度があり、リスト入りしている作品と同系統で問題になりそうな作品が入っていないのはなぜか?
そしてリストに入っている作品と同系統のジャンルで問題になりそうな作品が入っていないように見える件ですが、これに関しては
「解釈の幅を広くして穴を無くし、自粛させる範囲を広く、拡大できるようにしておく」
「余計な注目を集めないようにする」
といった、中国の取締りの手法による所も見て取れるという話です。

 これはある程度広い範囲で様々なジャンルの作品を入れていき、それに加えて特定のジャンルの作品を増やし過ぎると規制すべき作品に関して一般社会からの余計な注目を集める可能性が出てくるのでジャンルごとの作品の数を多くし過ぎないようにする……というもので、例えば『School Days』や『ハイスクールD×D』のような、中国で知名度が高く、分かり易く過激で、代表的な作品を押さえておくといった形になります。
ちなみにあまりにも有名な作品、例えば『ONE PIECE』や『名探偵コナン』のような作品になると、規制した場合の影響が大き過ぎるので逆に余程のことが無い限りリストには入らなくなる模様です。

 そういった背景もあることから、このリストに関しては名指しの作品は当然として、
「リストに載っているような作品と同レベルの表現がある作品に関しては自粛するのが望ましい」
「政府が明確に言っているわけではなく、強制でもないが、察しなければならない所はある」
といったものも読み取れるとのことです。

 ここまで紹介させていただいた見方が実際にどの程度合っているかは分かりませんが、中国の感覚でブラックリストを見た場合、様々なものが読み取れるのは間違いありませんし、そういった見方に沿って現地の動画サイト側の自主規制が行われている部分も見て取れます。

 このリストが出たことにより、3月から続いていた取締りに一区切りがついたのは確かですが、中国における日本のアニメの配信ビジネスの難しさが改めて浮き彫りになったのも間違いないかと思われます。

文=百元籠羊