又吉だけじゃない! もう1つの芥川賞・羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』 20年に1度の傑作 直木賞・東山彰良『流』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/19

2015年7月16日(木)、第153回芥川賞と直木賞の発表が行われた。文学ファンだけでなく、広く世間から注目が集まっていた又吉直樹の『火花』が見事芥川賞を受賞。同作は受賞の発表を受けたことで、遂に発売部数100万部を突破した。しかし又吉の『火花』だけでなく、羽田圭介(はだ けいすけ)『スクラップ・アンド・ビルド』も芥川賞を、また東山彰良(ひがしやま あきら)『』が直木賞を受賞している。

芥川賞の受賞会見で、「もう4回目の候補で、1年前に候補になったばかりなので、いろんな事に慣れすぎてて、受かっても落ちても感情は変わらないかと思ってたんですけど、受賞したのは初めてだったので、こんなに高揚感があるのかと。予想外な高揚感に驚いています」と述べた羽田圭介。同氏の作品はこれまでに、『走ル』『ミート・ザ・ビート』『メタモルフォシス』で芥川賞候補作となっている。『走ル』では、自転車(ビアンキ)で北を目指す青春小説を、『ミート・ザ・ビート』では、軽自動車を手に入れた予備校生の変わりゆく生活を描いた群像小説を、『メタモルフォシス』では、マゾヒズムの快楽に耽溺(たんでき)せずにはいられない男を描いた。

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遂に芥川賞受賞作を果たした『スクラップ・アンド・ビルド』は、新卒で入社した会社を自己都合で退職し、資格試験の勉強をしながら就職活動をしている28歳の健斗が主人公。就職活動をする一方で、母親とともに同居している87歳の祖父の介護をしているが、要介護ながらまだまだ健康体の祖父に対して健斗と母はストレスを感じている。そこで、健斗はわざと過剰に世話を焼くことで祖父を弱らせようと考える。彼女とも交際しながら、介護と就職活動の日々を送る無職青年の目を通して、”死への希望”と”生への執着”を同時に持つ祖父の姿がおかしみとともに描かれている。

介護問題を扱う同作ではあるが、羽田は受賞会見で「介護問題とか高齢化社会をどうこうという感じではないです」と述べる。「ちょっと不満を感じる相手とか憎しみを覚える相手、自分より優遇されている対象を責めるということを、顔が見える相手、その人に接近して素性とかをちゃんと理解して、自分がどんなことを考えてどんなことを言えるかを、相手の顔を知る」と、若者に対する『スクラップ・アンド・ビルド』のメッセージを一言で伝えた。なお同作は、8月上旬刊行予定。羽田の今後の抱負は「やることって小説を書くことしかない」とのことなので、これからの作品にも期待したい。

 さて一方、直木賞を受賞した東山彰良は、『路傍』で大藪春彦賞受賞、『ブラックライダー』で日本推理作家協会賞の候補作となっている。羽田圭介同様、優れた作家経歴の東山だが、実は劇場版アニメの脚本を手掛けたことがある。

 東山が脚本を担当したのは、『劇場版 NARUTO -ナルト- ブラッド・プリズン』。男女、年齢関係なく愛されている、岸本斉史の忍者漫画『NARUTO -ナルト-』の映画版アニメだ。主人公・ナルトが罪人収監所に収容されるところから物語が始まるあたりが、ミステリーを得意とする東山らしい作品。今回の直木賞で東山を知った方は、大人でも充分楽しめる同映画を観ることをお勧めする。

 また、直木賞受賞作『流』は、大陸から台湾、そして日本へと渡り、友情と初恋、流浪と決断などを圧倒的なスケールで描く壮大なエンターテインメント小説となっている。「台湾に生まれて日本に育った私には、アイデンティティーの問題が常にある。小さい頃から日本と台湾を行ったり来たりしていて、どちらでも”お客さん”だった」と、受賞会見で語った東山の魂を、同作で感じてほしい。

芥川賞『スクラップ・アンド・ビルド』
著:羽田圭介
初出:『文學界』2015年3月号
2015年8月上旬、文藝春秋より刊行予定
価格:1,200円(+税)

直木賞■『
著:東山彰良
価格:1,728円(税込)
発売日:2015年5月13日
出版社:講談社

芥川賞■『火花
著:又吉直樹
価格:1,296円(税込)
発売:2015年3月11日
出版社:文藝春秋

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