今最もリア充なのは70代? 止まらない超高齢社会はいったいどうなる!?

社会

2015/7/24

 現在、65歳以上の人口が総人口の約25%である日本は、超高齢社会を驀進中だ。しかし先月、日本老年学会が発表した調査によると、現在の高齢者は10~20年前に比べて心身ともに5~10歳は若返っているとのこと(6月15日朝日新聞)。健康状態に個人差があることは否めないが、知能検査の結果、70歳代の回答者たちは10年前の60歳代と同等の成績だったというから驚きだ。65歳=高齢者という国の定義は徐々に現実と乖離し、矛盾を生じ始めているのかもしれない。

 高齢者についての興味深い研究をもうひとつご紹介しよう。目白大学の教授らによる共同研究『高齢者のライフスタイルに関する研究(3)–世帯状況×性別からみた高齢者の幸福感との関連–』(2014年日本心理学会第78回大会にて発表)によると、〈夫婦で暮らす高齢女性は、幸福感および経済的ゆとり意識が強く、精神的健康度も高い〉という結果が導きだされた。こちらは首都圏在住の65〜75歳の高齢者597名(平均年齢69.12歳)にWeb上で質問紙調査を行い、世帯状況と性別の組み合わせによる4群(一人暮らし男性・夫婦世帯男性・一人暮らし女性・夫婦世帯女性)に分けて分析したもの。

 4群のうち、幸福感が最も高かったのは夫婦で暮らす女性群であり、幸福感が最も低かったのは、一人暮らしの男性群。4群それぞれの幸福感を高める要因は、夫婦で暮らす女性群=健康と余暇、一人暮らし女性群=地域活動、夫婦で暮らす男性群=健康、一人暮らし男性群=〈健康、余暇、個人的なこだわり、地域とのかかわり、すべてが満たされることで幸福感につながる〉と、これまた興味深い結果がみられた。

『高齢者のライフスタイルに関する研究(3)―世帯状況×性別からみた高齢者の幸福感との関連―』
小野寺敦子¹・河野理恵¹・渋谷昌三²・西川千登世³
(¹目白大学人間学部・²目白大学社会学部・³目白大学大学院心理理学研究科)

 共同研究を手がけた目白大学の小野寺敦子教授はこう語る。

「今、心理学では“生涯発達”という概念の研究が進んでおり、人は何歳になっても自分を変えられる、または変化していこうと思えるという視点で捉えられています。高齢者層が増加し、男性の平均寿命も80代に突入。70代あたりだと“人生まだまだ、これから”と考える方も多いのではないでしょうか。

 かつて、高齢者の心理を読み解く理論は“離脱理論”と“活動理論”に二分されてきました。離脱理論とは、老化に伴う社会からの離脱を受容することが良い適応であるとする考え方。定年を迎えたらあとは余生を過ごすだけというイメージです。一方、活動理論は、老齢期においても社会活動を行うことが老化への良い適応であるという論。生涯を通じて何らかの活動をし続けようという考え方です。さらに現在は、老年期になっても可能な限りこれまでのライフスタイルを維持する“継続理論”が注目されています。心理学の観点から見ても、現代の高齢者の人生にはさまざまな価値観があり、多様性に富んでいると考えられます」

 実際、62歳から95歳までのおしゃれなN.Y.の女性たちを追ったドキュメンタリー映画『アドバンスト・スタイル そのファッションが、人生』(アルバトロス・フィルム)が大ヒット。好評につき、現在は地方で順次公開中だ。そして日本で今、最も経済力があり、一大消費層とみられているのがやはり、70歳以上の女性だという。旺盛な消費意欲をもち、おしゃれに敏感、他者とのつながりも忘れないアクティブな70代レディたちの消費に迫った書籍、『L70を狙え! 70歳以上の女性が消費の主役になる』(吉本佳生/日本経済新聞出版社)。こちらは人気エコノミストである、吉本佳生氏によるマーケティング分析的な一冊だ。

今、最もリア充なのはL70って本当!?

 本書は基本的に政府公表の「年齢層別消費生活データ」をもとに展開され、70歳以上の女性は他世代よりも“モノやサービスを高く買う人が多い”ことがデータからひもとかれている。調査対象の高齢者層は経済的に比較的余力があり、住宅・教育費負担から解放されている世代ともいえる。では、興味深いデータを具体的に抽出してみよう。

●L70が主導権を握る世帯のエンゲル係数は全世代で最も高い !

 総務省『家計調査』(2013年)によれば、世帯主70歳以上の家庭のエンゲル係数は26%。さらに『「肉類」消費の世帯主年齢別の平均価格比較』で、最も高価な肉を購入しているのも、この層だという。夫婦においてL70妻の主導権が高いであろうこの世帯の食料消費は、上質な食生活に基づいていると吉本氏。ちなみに29歳以下と若い世帯主の一家のエンゲル係数は、20%にとどまっているのが切ない。

●L70妻の衣服は高いが、夫の衣服はプリティプライス

 同じく総務省『家計調査』(2013年)の『「被服及び履物」消費の世帯主年齢別の平均価格比較』によれば、いちばん高価なものを買う品目が「スカート、婦人用スラックス、婦人用コート、婦人靴」であるのは、世帯主70歳以上の家庭だとか。逆にこの世帯がどの年齢層よりも安いものを買う品目として上がっているのが「男子用ズボン、男子靴」だという。果たして夫は、この事実に気づいているのだろうか。

●健康維持のためのジム通いも欠かせない

 総務省『社会生活基本調査』をもとに、吉本氏がL70を中心に『器具を使ったトレーニングの行動者率』を整理した表によれば、2011年には75歳以上・女性の4%、70代前半・女性の7%が器具を使ったトレーニングを行っている。また年齢が上がるほど行動日数が増える傾向にあり、70代前半・女性は年に平均115日、75歳以上・女性は年平均126日行っているという。70代女性が、3日に一度は自主的にジムでトレーニングを継続している。まさに、サクセスフル・エイジング(幸福な老い)な光景といえよう。

 このように、本書はさまざまな公的消費者データをもとにL70の消費動向を分析、彼女たちが消費者層として有望であることをあの手この手で検証、推論を展開してみせる。ことこまかに集められたデータを見るだけでも興味深く、ひとつの世代の消費動向をデータから分析・考察するためのひな型本として読んでも興味深い。

 しかし、現実的にはデータから個人の状況や背景までつぶさに見ることは難しい。貧困高齢者の増加を懸念する声もある日本の現状や今後を、どう捉えればよいのだろうか。

「統計的には今“一人暮らし高齢者”が増加しています。1980年の時点で65歳以上の一人暮らしの高齢者男性は約19万人、女性は約69万人。2010年になると一人暮らしの高齢者は男性約139万人、女性約341万人と激増しており(内閣府『平成26年版高齢社会白書』)、心理学者としては今後そこに焦点を当てたいと考えています。

 今回、私たちの共同研究で一人暮らしの男性群は、最も幸福感が低い群であると示されました。しかし当然ながら一概に不幸な群というわけではなく、健康に気を遣って余暇活動を行い、食やファッションなどその人の興味関心のある分野でのこだわりを大切にしていたり、地域社会との交流をもつ方の幸福感は高く、活き活きとした生活を送っている様子が見受けられました。

 アメリカの発達心理学者・エリクソンは、老年期は英知が得られる時期だと説いています。高齢者には若い頃にはなかった、人生を生きぬく智恵や方策が備わっている。高年齢者雇用安定法も改正された今、高齢者の英知はもっと重用され社会に還元されてゆくべきでは。高齢者に対する認識を変えてゆくことが、今後日本の活性化につながるのではないだろうかと思っています」(小野寺教授)

取材・文=タニハタマユミ