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客席の9割超は知人で、大半は他劇団の俳優!? ノルマを内輪で消費し疲弊する、小劇場の俳優たち

 筆者が小劇場に舞台を見に行くとき、友達を誘うと「誰か知り合いでも出てるの?」とよく聞かれる。そのたびに演劇好きとして感じるのは、「芸能人も出ていないような舞台って、関係者に誘われない限り、ふつうは見に行かないものなんだなぁ」という寂しさだ。

 また一方で、小さな劇場で年に数回だけ公演を行う劇団を見ていると、「俳優たちはこれじゃ食べていけないよなぁ」とも思ってしまう。そんな小劇場で活動する俳優たちの実態を、社会学者が10年以上にわたって調査した本が最近発表された。

 その本は『都市の舞台俳優たち アーバニズムの下位文化理論の検証に向かって』(田村公人/ハーベスト社)。主な調査対象となっているのは、都内で10名程度で活動する音速発進(仮名)という劇団の俳優たちだ。そのほかの劇団についても様々なデータが収集されているのだが、本書で調査対象となった劇団の実情はかなり衝撃的だ。

 まず俳優たちがノーギャラなのはごく普通。その上で多くの劇団では、俳優個人に20~70枚ほどのチケットノルマが課されているという。そしてノルマを満たせなかった場合は、不足分のチケット代の負担(数万~10万円超!)が求められる。つまり、お金を稼ぐどころか、「お金を払って舞台に立っている」俳優が実際にいるわけなのだ。また、このようなノルマに頼った結果として、「客席には知り合いとは別種の観客が皆無に等しい」という淋しい状況も起こっているという。

 ここまでの話は「想像の範囲内」という人もいるかもしれないが、その先の本書の調査・分析も面白い。

 まず、そのノルマの消費においては、演劇活動を通じて知り合った俳優同士が「お互いの公演を行き来しつつ客数の確保を図っている」状況が見られるのだという。つまり、知り合いの劇団の公演を見に行って、代わりに自分の公演も見に来てもらう……という等価交換のようなことが行われているのだ。

 ただし、他劇団の公演を見に行く際のチケット代は自腹なので、この等価交換システムで劇団の収支は保たれても、俳優個人はさらに支出がかさむ……というのは何とも酷である。また俳優たちの「実家暮らし」や「結婚」というトピックにも焦点が当てられていて、俳優として自活できない現状について、本人や家族や配偶者の生々しいコメントも多く掲載されている。

 ……と、暗い話ばかりになってしまったので、本書に書かれた希望のある内容も紹介しておこう。

 劇団は集客が増していくに連れて、審査の甘い小劇場→審査の厳しい小劇場→中劇場……とステップアップを遂げていくという。その中劇場まで進出する頃には、俳優個人に課されたノルマも撤廃されることが多いそうだ。

 最後に。この先は本書を離れて、演劇がそこそこ好きな筆者の個人的見解になるのだが、「審査の厳しい小劇場」に出ている劇団になると、やはり内容自体が面白い場合が多い。そして面白い劇団ほど、観客が知人だらけという、いやーな内輪感もヌルさもない。

 友達から誘われて義理で見に行った舞台がつまらなかった……というトラウマがある人(筆者もあった)は、ぜひそのような劇場に訪れてみてほしい。具体名を挙げるなら、日本の演劇界を代表する劇作家・演出家の平田オリザ氏が支配人を務める「こまばアゴラ劇場」などがオススメである。

 義理でイヤイヤ見に行けば観客も疲弊の連鎖に巻き込まれるだけだが、純粋な観客が増えていけば、本書で描かれた俳優たちの窮状も多少は改善されるだろう。少なくとも実力のある俳優・劇団は自活に近づいていくはずだ。

文=古澤誠一郎



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