『セーラームーン世代の社会論』 彼女たちの仕事観、恋愛観とは?

社会

公開日:2015/7/29

『セーラームーン』がもたらした恋愛観とは

――恋愛面はどうでしょう? 今までの流れですと、セーラームーン世代はかなりの肉食な気がしますが……。

稲田 口では恋愛に対しても諦めたくないようなことを言っていますが、実際はお留守になっていることも多い気がします。彼氏がほしいとか結婚したいとか言っていながらも、毎日楽しそうにしていて、男の人が入る余地がないし、男から見れば彼氏を必要としているようにも見えない。自給自足で満足できてしまっている。これって、タキシード仮面の立ち位置から考えると分かりやすいんですが、セーラームーンという作品には、“王子様”が存在しないんです。タキシード仮面は見た目は王子様っぽいですが、実際は全然王子じゃない。血だらけになってバトルしているのはセーラームーンたちで、タキシード仮面はちょっとアシストするだけでセーラームーンに頼りっぱなし。登場するときの口上も変ですし。

――タキシード仮面は、おかしなキャラクターの部分が注目されて、ニコニコ動画などでもしばしばネタにされていますよね。

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稲田 そう。白雪姫でいう王子様のキスのような、最終的に物事を解決するポジションにいないんですよね。それを当たり前のように小さい頃に観てきたら、そりゃあ男性を必要としなくなるよな、と思います。
決してセーラームーン世代が恋愛に興味がないわけではないんですけどね。仕事なら仕事、婚活なら婚活、と何かを犠牲にするスタイルでやっていたそれより上の世代と比べると、セーラームーン世代は、どれもこれも取ろうとしている弊害が恋愛面に表れているような気がします。

――じゃあ、恋愛できたとしたら、セーラームーン世代はどんな恋愛をする傾向にあるのでしょうか?

稲田 貪欲な人たちだから、付き合っていて楽しいのは間違いないです。ただ、束縛したい古風な男性とは合わないでしょうね。自分であちこち飛び回って楽しもうとするから、「自分の手の届く範囲に置いておきたい」という男性とはうまくいきません。

 ちなみに本の中で、セーラーチーム5人の中でどの子が好きだったかで性格診断をする、というコーナーがあるのですが、それを恋愛のスタイルでもやってみるとこうなります。

水野亜美(セーラーマーキュリー)
様子見タイプ。所属はしていたいくせに、一緒になってバカをやるタイプでもない、一歩引いている。そんな亜美ちゃんが好きだった人は、自分からガツガツ仕掛けていくのではなく、空気を読んで最善の判断。自分は汗ひとつかかずに手に入れます、というスタイルの恋愛をするでしょう。

火野レイ(セーラーマーズ)
レイちゃんはセーラーチームの中でひとりだけ私立のお嬢様学校に通っていて、巫女で、そもそもスペックが高いんですよね。それでいて、将来はキャリアウーマンになりたいと一貫して言っていて、学園祭では実行委員をやりつつ、自分でステージに立って歌う、セルフプロデュースも完璧なんです。一番セーラームーン世代的なものが色濃く反映されている欲張りタイプ。だから、レイちゃん推しだった人は、男に媚びたくなくて、恋愛も仕事もすべて勝ち取りたい、と思っているはずです。

木野まこと(セーラージュピター)
まこちゃんは、どちらかというと男性人気が高いんです。身体が大きいことにコンプレックスがあって、だけど料理ができて、本当は女の子らしい。コンプレックスを持っている子って、男性にしてみたら恰好のターゲットですよね。まこちゃんを好きだった人は、そういった彼女の自分に自信がないところや、外からのイメージとのギャップに悩むところに惹かれていたはず。だから、一番普通に乙女ちっくな恋愛を望みがちなんじゃないでしょうか。

愛野美奈子(セーラーヴィーナス)
セーラーチームの中でも、もともとセーラーVとしてひとりで戦っていた過去があり、ひとりだけ経験値が高い。うさぎちゃんと似ておっちょこちょいなところがありながらも、作り物っぽいところがあるんですよ。うさぎちゃんが本当のおっちょこちょいなら、ヴィーナスは“ビジネスおっちょこちょい”。彼女を好きなキャラクターとして選ぶ人は、ヴィーナス同様、経験豊富で目が肥えすぎていて、変わった恋愛に走りそう。同世代の男の子にピンと来なくて不倫に走ったり、早々に結婚してバツイチになったり……。

月野うさぎ(セーラームーン)
主人公のうさぎちゃんのことが一番好きな人は、やっぱり古典的なお姫様願望が強いところはあるはず。セーラーチームの中でひとりだけ彼氏がいて、中心核で、何でも手に入れていますよね。ほかの4人はそれぞれ個性が振り切っていますが、うさぎちゃんは実はこの中では最も尖っていなくて、ベタな存在です。

 実は、本記事の筆者もセーラームーン世代のど真ん中である。『セーラームーン世代の社会論』を最初に読んだとき、ただただ驚いた。著者の稲田氏は、基本的にセーラームーン世代をポジティブに捉えてくれている。そのことに驚いたのである。それだけ「ゆとり世代」という言葉のもたらしたネガティブなインパクトは強かった。そもそも筆者の生まれ年はゆとり世代に入るか入らないか微妙なライン(諸説ある)にいるにも関わらず、少しでもダメな行動をしたら「あなたってゆとり世代だっけ?」とこじつけの憂き目に遭ったことすらある。

 書かれている言説が合っているかどうかで言えば、ピンと来るもの来ないもの、それぞれあるだろう。世代論というのは、「地球全体から見たら日本は晴れです」くらいの傾向を楽しむものだと私は捉えている。合っている間違っているを検証するより、世代論と絡めて語られる作品とともに育ったこと、全体を通してセーラームーン世代をポジティブに捉えてもらっていること、この2つを誇りたい。

取材・文=朝井麻由美