“官能的な夢”がオンナの本能を呼び起こす? 多くの女性から支持を得るLily最新作『眠りの部屋』

文芸・カルチャー

2015/7/29

 怖い夢、幸せな夢、官能的な夢……、“夢の世界”は眠りの数だけ存在する。その一方で、現実にまで影響を与えるほどの夢を見た経験はあるだろうか? 7月25日に発売された『眠りの部屋』(LiLy)では、夢と眠りに魅せられた男と女の数奇な運命が描かれる。

 表参道にオープンしたスリープサロン「Sleep Therapy」。そこは、真っ白な絨毯と、ふわふわのベッド、心地よいアロマが香る別世界だった。サロンの主は、美しい容姿と色気を兼ねそなえた青年・青凪童夢。幼い頃から夢の世界に没頭し、研究を重ねてきた彼は、スリープセラピストとしてサロンを訪れる人々の夢にセラピーを施していく。彼のセラピーは、夢の中で寝るという眠りの二重構造を利用した、独特なもの。その不思議な感覚は経験した者にしかわからないという。

 サロンの従業員・紺野花も、かつて童夢のセラピーを受けていたひとり。花は出産後間もなく夫を亡くし、不眠症に悩みながら育児と仕事の両立に疲れ果て、次第に「死にたい」と思うようになっていた。そんな彼女を救ったのが、大学院生時代の童夢なのだ。以来、童夢と花は、娘のスミレとともに家族とも恋人とも違う関係を築いていく。

 彼らが営むサロンに最初に訪れたのは、条件のいい結婚にこだわり、そのためだけに一生を捧げ、婚約までこぎつけた女・佐々木千夏。しかし、結婚を反対する彼の母親にハメられ婚約解消の危機を迎えていた。そんな彼女がセラピーで見たのは、長年確執のあった母親や、夢に現れた男性・“俊ちゃん”と過ごすとてもあたたかい夢。

あの夢の続きみたいな、自分の家族っていうのかな、出会える気が、根拠なんかないのに、すごくしていて

 夢が現実のものになるか否かわからぬまま恋人と別れた千夏は、新しい一歩を踏み出す。

 その後、口コミから女性客が押し寄せ大盛況となったSleep Therapy。重沼愛美もまた、そんな女性客の一人。実は彼女、佐々木千夏の婚約者・拓也の母親。息子の拓也に執着するあまり、千夏と拓也の関係の破綻を画策していた愛美は、彼女の身辺を調査していくうちに童夢のサロンに辿り着いたのだ。

 見事、千夏と拓也を破局へと追い込んだものの、卑猥な動画に千夏の顔を合成する、という愛美の所業が拓也にバレてしまい、最愛の息子の愛を失ってしまう。傷心の愛美はサロンに通いながら夢の中で童夢と官能的な夢を過ごし、“オンナ”としての本能を呼び起こしてしまう……。

さっきまでは男だった童夢が、急にまだ幼い男の子のように思えた。自分の手で、彼を守り抜くことを、愛美は心に誓っていた。それこそが、このセックスを生き延びてしまった自分の定めのように思えたのだ

 やがて愛美は夢と現実の境界線を失い、彼女の嫉妬と狂気が童夢と花を襲うこととなる。息子や童夢への愛情が暴走していく愛美の姿は滑稽でありながら、彼女を中心に描かれる嫉妬や情念のそれは、誰もが持つ感情。愛美を通して自分の中の、ドロドロした何かに触れた瞬間、ゾッとしてしまう。

 思い通りにいかない現実から、夢によって救われる者もあれば、破滅の道を進む者もいる。サロンの真っ白なベッドの横で

僕を、信じて 目を、閉じて

 と、耳元で囁く童夢が見せるのは、吉夢か悪夢か。思わず背筋が凍る、ラスト1ページまで目が離せない。

文=不動明子(清談社)