ボールペンのインクが減ったら、カッターで切って捨てる… 『じみへん』作者の究極の断捨離生活

生活

2015/7/31

 断捨離ブームが定着し、“捨てる”ことが善とされる時代である。物を最小限しか持たないシンプルな暮らしをする人を「ミニマリスト」と言い、断捨離とセットで捉えられることが多い。なぜ断捨離をするのか、なぜ物を持たないのかというと、「余分なものをなくすと本質が見えてくる」ということらしい。情報や人間関係でも同じことが言えるため、断捨離をすると人間関係までスッキリ……しすぎて、それがまた問題になったりもしている。とかく私たちは、“持つ”持たない”に振り回されている。

 究極の“持たない”人がいる。人気漫画『じみへん』作者の中崎タツヤ氏だ。著書『もたない男』(飛鳥新社)に驚愕の“持たない”生活が綴られている。「デスクと椅子とカレンダーのみ」という漫画家らしからぬ仕事場が話題となり、ブログに部屋の写真を載せるようになった中崎氏。机周りのライトが捨てられ、カレンダーが捨てられ、更新が途絶えた。……パソコンを捨てたからだ。

 必要のない物はすべて捨てる。ボールペンのキャップに付いているクリップは必要ないので捨てる。インクが減ってくると、減った分だけ長いのが無駄なので本体をカッターで短く削る。電化製品の保証書も捨てる。TSUTAYAのカードも捨てる。レンタルするときにその都度会員になり、返却したら捨てる。本を読みながら、読み終わったページを破って捨てる。書店ではブックカバーも袋も貰わない。レシートはその場で捨てる。ゆえに万引きGメンに腕を掴まれたこともある。

 捨てることへ一切の迷いがないように見える中崎氏だが、捨てて後悔したものもあるという。

「ある日、オートバイをみていたら、フロントフェンダーとリアフェンダーが無駄なように思えてきました。私の場合、一度そう思うと捨てたくてたまりません」

 いざ捨ててみると何の支障もなく、車体が軽くなった分、燃費がよくなったような気さえして気分が爽快になったという。しかし雨の日に乗ったら、前輪、後輪が泥水を跳ね上げまくり、全身びしょ濡れに……。フェンダーは「泥除け」なので、無駄な物では決してなかったのだ。しかし、懲りない男、中崎タツヤ。

「雨の日はオートバイに乗らなければいいわけです。さらに、雨の日はびしょびしょになる覚悟をもっていれば、やはりフェンダーは無駄ともいえます。(中略)死ぬ危険もなさそうですから、フェンダーを捨てることができるのなら、濡れるぐらいたいした問題ではありません」

「もはや病気なのでは……?」という気がしなくもないが、何をもって病気とするかは曖昧なところである。トイレットペーパーを1パック買えば間に合うのに、つい不安で2つも3つも買ってしまう人は病気ではないのだろうか。「10パック常備していないと落ち着かない」というタレントはバラエティ番組で病気だと言われていたが、それもどうなのだろうか。

「捨てるも捨てないも、もつももたないも、どちらも強迫観念ですから表裏の関係で同じことです」

 中崎氏は、「強迫観念は思考。病気ではない」とし、次のような見解を述べている。

「いじめられっ子がプロレスラーになりたいと考えるのは、プロレスラーになって強くなってみんなを見返さなければ自分の人生はかえられないと信じ込んでいるからだと思います。私がものを捨てるのも、ものから広がる強迫観念が関係していると思います」

「断捨離すれば本質が見えてくる」という風潮。断捨離して人間関係まで捨てるようになる人々。必要のない物を捨てずにはいられない中崎氏。なぜ私たちはこうも物に縛られるのか。ただ、より穏やかに暮らしたいだけなのに。

文=尾崎ムギ子