『村上さんのところ』を一気読み! 「旦那さんとの夜の営みの件」で相談してきた大ファンに村上春樹はどう答えたか

文芸・カルチャー

2015/8/4

『村上さんのところ』(村上春樹:答えるひと、フジモトマサル:絵/新潮社)

 

 読者から寄せられた質問に対する村上春樹の回答が、身も蓋もなさすぎるらしい――今年のはじめ、インターネットの一部で話題になった。2015年1月15日から、期間限定でオープンしたサイト『村上さんのところ』は、村上春樹ファンのみならず、多くのネット民を釘付けにしたのだ。最初に注目されたQ&Aは、これだったと記憶している。レポートや教授へのメールやらで文章を書くのに追われる大学院生が、文章の書き方のコツを村上春樹に尋ねたところ……、

村上春樹「文章を書くというのは、女の人を口説くのと一緒で、ある程度は練習でうまくなりますが、基本的にはもって生まれたもので決まります。(中略)まあ、とにかくがんばってください」

 このように、それはそれはあっさりしていたのだった。パスタを茹でながら、やれやれと言っているまわりくどい村上春樹はどこへ行ったのか。

 また別の読者に、毎年「ノーベル賞がどうの」と騒がれることについてどう考えているかを問われると、

村上春樹「正直なところ、わりに迷惑です」

 とこの有様だ。

 これらのQ&Aを1冊にまとめた新刊『村上さんのところ』(新潮社)で一気読みしてみると、実に質問者も負けていない。「“完璧な勃起”とはどういう状態のことですか?」と大真面目に問う31歳の女性がいたかと思えば、出産直前に突然「僕の幸せはここにはない」と家を出て行ってしまった夫について、といった重めの相談をする女性もいた(この質問には村上氏もさすがに真面目に答えている)。さらには、本気なのか冗談なのか、「春樹さんの好みは、ばっちし把握してますので、大丈夫です。どうぞご検討のほうよろしくお願い致します!」と村上春樹を合コンに誘う輩までいた。もはや質問ですらない。

 また、1冊を通して読んでいると、傾向として、質問者は村上春樹に性的な相談を持ちかけたがるが、当の村上春樹は他人の性にからっきし興味がないというのがよく分かる。小説に関する質問や猫に関する質問、野球の話に、ドーナツの話、とほかにもさまざまな質問が寄せられており、村上氏もそれなりに楽しそうに答えているのだが、それらと比べて、性的な質問への回答が際立って雑なのである。

 例えば、セクシーランジェリーを身に付けたとしても、暗い場所でよく見えず、すぐに脱いでしまうから、その存在意義がわからない、と約25行に渡って述べ、「セクシーランジェリーの正しい活用方法を教えてほしいのです」と相談する35歳の女性に対して、

村上春樹「“セクシーランジェリーの正しい活用法”、そんなの僕にわかるわけないじゃないですか。もう大人なんだから自分で考えてみてください」

 また、マネキンを道で拾ってきて、キャロラインと名付けて同居生活を楽しんでいたものの、現実の恋人ができたので、そろそろマネキン(キャロライン)と別れたい、とのたまう25歳の会社員男性に対しては、

村上春樹「そんなこと相談されても困ります。あなたとキャロラインさんとで相談して決めてください。(中略)だいたいマネキンなんて拾ってくるあなたに責任があるんです」

 さらに別の読者からの、「高校生の頃から大ファンです。折り入って相談したいことですが、旦那さんとの夜の営みの件です」という相談に対しては、こうである。

「すみませんが、他のひとの性欲の事情まで僕にはわかりません。自分のだってろくにわからないというのに。申し訳ないけど、ご自分で考えて解決してください」

 “大ファンです”と鼻息荒く相談を持ちかけてこられようとお構いなし。退かぬ、媚びぬ、省みぬの村上春樹なのであった。

 4カ月間、3万7465通のメールを読み、その中から3716通を選んで回答を書き続け、ほかの仕事がまったくできなかったという村上氏。そんななか、よその家の性の話を逐一聞かされていては、回答がいささか冷ややかになるのも仕方ないのかもしれない。やれやれ。

取材・文=朝井麻由美