元ジャーナリストの全米ベストセラー作家が描く『亡者のゲーム』がミステリーファンの間で話題

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/19

7月22日、ハーパーコリンズ・ジャパンは海外ミステリ、エンターテインメント小説を紹介する新たなレーベル「ハーパーBOOKS」を創刊した。創刊ラインナップでもある『亡者のゲーム』(ダニエル・シルヴァ著、山本やよい:訳)がいま、ミステリーファンの間で話題になっている。

ダニエル・シルヴァの名前に「おっ!」と反応した海外ミステリファンも多いはずだ。そう、ノルマンディー作戦を扱ったデビュー作『マルベリー作戦』(早川書房)で注目を集め、『報復という名の芸術』(論創社)に始まるイスラエルの伝説的工作員にして一流の美術修復師、ガブリエル・アロンを主人公にしたシリーズで人気作家となった、あのダニエル・シルヴァである。

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亡者のゲーム』は2006年に論創社より発売された『告解』以来、実に9年ぶりのシルヴァ作品の邦訳であり、〈ガブリエル・アロン〉シリーズの第14作目に当たる作品だ。本国アメリカでは2014年に刊行し、全米ベストセラー1位を獲得した。

イタリア北西部にあるコモ湖のヴィラで、自称コンサルタントのイギリス人、ウィリアム・ブラッドショーが死体となって発見される。ブラッドショーは英国秘密情報部MI6にかつて務めていたが、情報部を辞めて美術品の違法売買に関わっているという噂のある人物だった。イタリア国家治安警察隊の美術遺産保護部隊のフェラーリ将軍から依頼を受け事件の調査に乗り出したガブリエル・アロンは、事件の背後に隠れている黒幕をおびき出すため、ある計画を実行する。

〈ガブリエル・アロン〉シリーズの特徴は、主人公のアロンの持つ二面性にある。アロンは殺しと謀略のプロであると同時に、美術修復師という文化人としての顔を持っており、それが事件捜査に毎回大きく絡んでくるのだ。本作でもアロンは美術の造詣を活かした作戦を繰り広げるのだが、これがまたとんでもないプランなのである。余りにも荒唐無稽な着想にあいた口が塞がらない読者も多いだろうが、この大胆なアイディアのおかげで本作は途方もないスケールを持った“コンゲーム小説”に成り得ているのだ。

だが本作を支えているのは騙し合い小説としての面白さだけではない。物語は後半になるにつれ、現代の中東諸国の惨状が明らかになっていく。シルヴァはもとより現代史、特に中東およびユダヤの歴史を小説に織り込む傾向があったが本作も例に漏れず、最新の中東事情を怒りの感情とともに伝えている。『亡者のゲーム』は、世界の裏側で起こっている悲劇を見届ける小説でもあるのだ。

なお、本国では第15作目『English Spy』がすでに刊行されており、全米ベストセラーリスト初登場1位を獲得。引き続き「ハーパーBOOKS」でも紹介される予定だという。日本におけるダニエル・シルヴァの再評価がはじまる気配がする。

文=若林踏

【第1弾ラインナップ】
●『亡者のゲーム』(ダニエル・シルヴァ:著、山本やよい:訳)
●『毒見師イレーナ』(マリア・V・スナイダー:著、渡辺由佳里:訳)
●『よみがえり~レザレクション~』(ジェイソン・モット:著、新井ひろみ:訳)