「スクープ」シリーズ最新作! 独自の嗅覚で事件を追う刑事と記者の絆

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/19

その人だからこそ持ち得た武器で、高度な仕事を成し遂げるものを人はプロフェッショナルと呼ぶのだろう。執念というべきか。矜持というべきか。他の人には真似できないメソッド。良い仕事を成し遂げるための、戦い方は人それぞれだ。

そんなプロフェッショナルな仕事をこなすものたちが登場する物語がある。今野敏氏の『クローズ・アップ』(集英社)は、警視庁本部捜査1課・特命捜査対策室の黒田祐介を主人公とする「スクープ」シリーズの最新作。今野氏といえば、ドラマ化もされた「隠蔽捜査』シリーズなどの警察小説が有名だが、本小説は警察とマスコミ、2つの立場からある事件を捉える。真摯に真実を追う両者の姿は、「スクープ」シリーズ前2作を読んでいなくとも、惹き付けられること間違いない。

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物語の中心となるのは、赤坂の檜町公園で週刊誌のライターが殺された事件。黒田は担当事案ではないのに、どうしてもこの事件が気になり、新人刑事・谷口勲とともにこの事件の捜査に乗り出す。警察の間では、被害者が極道記事を専門に書いていたことから暴力団の関与を考えて捜査が進められるが、その一方で、TBNの夜のニュース番組『ニュースイレブン』の記者・布施京一は、この事件と大物政治家へのネガティブキャンペーンの関わりに気がつき、興味を持ち始めていた。立場は違えど、同じ事件を追うことになった、警察とマスコミ。両者はどのようにして真実に辿りつこうとするのだろうか。

警察と記者を対立項として描かれる物語が多い中で、本小説の刑事・黒田と記者・布施は互いに強い信頼関係で結ばれている。「夜討ち朝駆け」といわれるように、記者は警察からあらゆる情報を仕入れて、スクープを得ようとする。しかし、そんな中で、布施は、スクープを多く手にしながらも、「スクープを狙って行動しているわけではない」と飄々と語る敏腕記者。マイペースに、彼だからこそできる方法で、真実に辿り着こうとする。そんな布施の姿に、刑事・黒田は興味を持つとともに、その能力を認めている。滅多に報道関係者に弱みを見せない黒田だが、この事件では、布施に協力をすら求めるのだ。

布施とは立場は違うが、黒田も刑事として、真実に辿り着くための独自の嗅覚を持っている。彼が所属する特命捜査対策室は、捜査1課とはいえ、重大な事件の発生と同時に現場に駆けつける役割はない。未解決事件を解決すべく、資料を読み込むことが日常業務だ。しかし、今回の事件に、黒田は強く惹き付けられる。新人刑事・谷口は、黒田がなぜこの事件にこだわるのか理解ができないが、次第に過去の未解決事件とのつながりが明らかになるにつれて、黒田の刑事としての「第六感」に驚かされる。

もちろん、両者は立場が違うからこそ、微妙な駆け引きをすることもある。だが、互いに情報を共有し合いつつ、事件解決に進んで行くプロセスが描かれていくさまは圧巻。各々の立場から多角的に捉えられた事件は、次第にひとつの像として統合されていく。

「やめといたほうがいいですよ。何に戦いを挑むつもりかわかっているんですか?」
「俺、記者と刑事だなんて、あまり考えたことないんですよ。ただの友達です。」

寡黙な黒田ととらえどろのない布施。独自の嗅覚を持つ2人だからこそ、惹かれ合うところがあるのだろう。刑事の捜査の秘密、ニュース報道の舞台裏に踏み込んでいるのが面白い。普段なかなか小説では描かれない、刑事と記者の強い絆が描かれたこの物語に、プロフェッショナルという言葉を思い起こさせられる。淡々と描かれているからこそ、緊張感が伝わってくる。真実に辿り着く道はひとつではないということに気づかされる、圧巻の1冊。

文=アサトーミナミ