抱えた人が吸い寄せられる… 不思議な魔法のコンビニ「たそがれ堂」で起こる奇跡とは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/19

 駅前商店街のはずれ、赤い鳥居が並んでいるあたりに、夕暮れになるとあらわれる不思議なコンビニ「たそがれ堂」を舞台にした『コンビニたそがれ堂 セレクション』(村山早紀/ポプラ社)が今年の3月に発売された。

 『コンビニたそがれ堂 セレクション』は、大人気の「コンビニたそがれ堂」シリーズ(ポプラ文庫ピュアフル/現在4巻まで発売中)からセレクトされた「あんず」「人魚姫」「星に願いを」「花明かりの夜に」の他に、書き下ろし「天使の絵本」と、著者による詳細な「創作メモ」がついた、ファン待望の愛蔵版である。もちろん、シリーズを未読の方も、本書から読み始めても全く問題なく、十分に楽しめる。

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「たそがれ堂」は、風早の街にある、この世で売っている全てのものが並んでいて、この世には売っていないはずのものまでがあるコンビニだ。誰もが入れるわけではないが、大事な探しものがある人は、必ずここで見つけられるという。

 ドアをあけて中に入ると、ぐつぐつ煮えているおでんと、作りたてのお稲荷さんなど、いつも美味しいものの匂いがしていて、レジの中では長い銀色の髪に、金の瞳のお兄さんがにっこりと笑って出迎えてくれる。

 「たそがれ堂」にいつの間にか吸い寄せられるようにたどり着く人々は、失くしても「ま、いいか~」で済ませられない、痛みや切ない思いを抱えた人ばかりだ。

 例えば「あんず」というお話では、重い病気を抱えた白い猫が、一緒に暮らしてきた家族と最後に一度きり、人間の言葉でお話したいと“人間になれるキャンディ”を求めて「たそがれ堂」にやって来る。

 また、書き下ろしの「天使の絵本」では、戦後の厳しい時代を、両親を亡くし、幼い頃 に一人きりで生き抜いた経験を持つおじいさんが、この世界には存在しないはずの絵本を探し求めて、たそがれ堂にたどりついた。その日その日を生きるのがやっとだった時代の、クリスマスイブの夜、目の見えないひとりの天使のような女の子に読んであげた「架空の絵本」を、おじいさんは探していたのだ。

 たそがれ堂で、これまで一人で抱え込んでいた悲しい記憶を、不思議なコンビニのお兄さんに優しく包みなおしてもらい、再び顔を上げて、力強く新たな一歩を踏み出す 登場人物たち。彼らを見ていると、切ない気持ちにさせられることもあるのだが、不思議と、心がポカポカと温かくもなってくる。

 白い猫の「あんず」のことをとても大切に可愛がっていた少年が、たそがれ堂のお兄さんから「誰の魂も、どんな想いも、見えなくなっても、会えなくなっても、きっと『どこか』には、ちゃんといる。消えてしまうわけじゃない」というメッセージを受け取ったように。

 何かとあわただしく、悲しい事件が多い世の中だ。自分の無力さを痛感し、泣き叫ぶしかできないようなことも、たくさんある。でもそんな時、よかったら「たそがれ堂」の本を読んでみてほしい。誰もが経験する、悲しみや痛み・切なさを優しく包み、希望へと変えてくれるこの場所は、いつだって私たちの心を明るく灯してくれる。

文=さゆ