いつの時代も「ダメ男」本はおもしろい! 本好きに究極の選択をせまる、翻訳家・金原瑞人氏とっておきの「未翻訳本」が目白押し!

文芸・カルチャー

2015/8/17

 英文学翻訳家と聞いて、どんな人を思い浮かべるだろう? バイリンガルもしくは、それ並みの英語力を持ち、当然英語ペラペラ、英語も日本語も自在に駆使できる人、というのが月並みだが、まず頭に浮かぶイメージだ。恐れ入ってしまうのは私だけではないだろう。

 エッセイ集『サリンジャーに、マティーニを教わった』(潮出版社)の著者・金原瑞人氏は、30年以上のキャリアを持ち、手がけた本はゆうに450冊を越えるという、超ベテラン翻訳家だ。『蛇とピアス』(集英社)で芥川賞を受賞した金原ひとみさんの実父でもある。これはもう、すごいインテリエッセイに違いない…とおそるおそる本を開いたら、冒頭のエピソードは「昔も今も洋の東西を問わずダメ男を書いた本がなぜかおもしろい」。海外のヤングアダルト作品から近松まで、ダメ男が次々に登場する、なんとも思いがけないオープニングなのだ。最後には未翻訳本からとっておきのダメ男、ダメ人間が紹介される。これはずるい、読んでみたくなったって、翻訳されていないのだ。

 できることなら今すぐ読みたい、選りすぐりの未翻訳本の数々の紹介。その合間に「だれにどう思われようが書きたいことを書く。それが作家」や「世界のコミュニケーションは“話す、聞く”の時代から“書く、読む”の時代にシフトしてしまい…」など、金原氏の言葉に思わずはっとさせられる。同時に、「翻訳家というと、耳も口も達者だと思われることが多いが、これは大間違いであって、会話がこなせて翻訳のうまい人なんて、ほんの一握り」、「翻訳家というのは職人だよな」などという、ちょっと自虐的な、けれども親近感の増す独り言もちらほら。

 古今東西の豊富な話題、心そそられる未翻訳本、ぽろりとこぼれる本音…。このバランスがとても心地よくて、するすると読めてしまう。そう、まるで金原氏のおしゃべりに耳を傾けているように。

 翻訳家として新しい言葉、使える言葉がないか、いつもアンテナを張り巡らしつつ、仕事には使えない昔の言葉(歌舞伎とか文楽など)にほっとする姿、会いたいといってくれる作家の言葉はうれしいけれど、「英会話は苦手だ」、と言い切る姿は、なんだかイメージしていた翻訳家の姿とはだいぶ違う。英語が好き、英語が得意だから翻訳家、なのではなく、文学、そして何より言葉に対する深い愛情があるからこその翻訳家であり、言語の違いを越えた普遍的な感動と異文化の魅力、これを同時に伝える、まさに文化のキュレーションこそが、翻訳の真の役割だったのだ。翻訳物は読みにくいと決めつけて敬遠していたが、まさに「翻訳家の気も知らないで…」な態度だったと、なんだか申し訳なくなった。

 紹介される未翻訳本だが、例えば、「男の作家が書いた、男の子のための本」は、いったいどんな内容なんだろう。編者が『三びきのコブタのほんとうの話』の作者・ジョン・シェスカとなれば、これはものすごく気になる。翻訳本を出してくれる出版社が現れるのを待つか、原書を探してチャレンジするか…。まさに究極の選択。翻訳に興味がある人はもちろん、この焦燥感を共有してくれるすべての本好き、そして心ある出版関係者にぜひ読んでほしい1冊だ。(願わくは紹介された未翻訳本を1冊でも出版してくれますように!)

文=yuyakana