「社会の一員である限り、個性なんてものは邪魔でしかない」ドランクドラゴン・鈴木拓インタビュー後編

芸能

更新日:2015/8/14

クズころがし』(鈴木拓/主婦と生活社)

お笑いコンビ・ドランクドラゴン、鈴木拓。“クズ”“芸能界一の嫌われ者”と呼ばれながらも、バラエティ番組やドラマ、映画に引っ張りだこ。初の著書『クズころがし』で明かした独自の処世術について、前編につづき話を聞いた。

いざとなったらヤッちゃえばいい

――最終的には、「ヤッちゃえばいい」という処世術なんですね(笑)。

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鈴木:まぁ、最低の考えなんですけどね。大御所の方でも、一対一でやったら多分ヤッちゃえるんですよ。3秒で“キュッ”とヤッちゃえます。格闘技を本格的にやってましたから。たとえばMCで失敗してお客さんにウケなかったとしても、「ヤッちまえばいいや」って。

鈴木:そういう風に思うと、少し気が楽になりますよ。「なんであんなことできるんだ?」とか言われるんですけど、だっていざとなったらヤれますから。自分のなかの芯というか自信が一つあれば、そこに立ち戻ればいい。芸人ならネタを書くことでもいいし、ミュージシャンならギターを持たせたらパーッと光る、とかね。それと同じで、僕の場合はいざとなったらヤッちゃえ、ということです。ツッコミとかは自信ないですから。

――自信がない場合はどうしたらよいでしょうか?

鈴木:自信がなくても、人より出来ることってあると思うんです。ただ、「自分はこれをやってきた」という自負がないだけなんです。人より優れたことは絶対にあるはず。普通に親のことを考えればいいんです。手塩にかけて育ててくれた親のことを考えたら、可哀相じゃないですか。自分がなんにも出来なかったら。じゃあやってやろうか、っていう風になると思うんです。

鈴木:自信のない人って、自分ひとりだと思いがちですよね。「どうせわたしなんかダメだ」「俺はひとり寂しく死ぬんだ」と思ってる。でも絶対そんなことないですから。本当に自分のことを考えてくれてる人は、友だちでも誰でも必ずいますから。なのに何も自信がないとか、その人たちに申し訳ないでしょ。悲劇のヒーロー癖があるんですよ、そういう人は。

――自分に酔っていたりするんですかね。

鈴木:そういうところは往々にしてあると思います。そういう人って、まず行動を踏み出さないです。「痩せる」とかでもいいんですよ。簡単にできますから。でも、「だって痩せないし」とか、ずーっと考えて先に進まない人が多い。どうせ無理だとか、やる前に諦めてしまう。まぁ、かと言って「なんにも考えずにやってみろ」と言ったところで、絶対やらないですけどね。やらなきゃいけない状況に自分を追い込まないとダメだと思います。

追い込まれるまで何もしない

――「追い込まれるまで何もしない」と書かれていますが、本当に何もしなくていいんですか?

鈴木:何もしなくていいですよ。それで生きていける状況ということですから。追い込まれて仕方なく動くときってほんとにヤバいときだから、そっちのほうが効率いい場合もあるじゃないですか。夏休みの宿題と同じです。まぁ、追い込まれてもやらない人もいますけどね。うちの息子も「毎日コツコツやるくらいなら、始業式に先生に一回怒られたほうがマシだ!」って、何もやらなかったです。言いましたけどね、「お前怒られたうえに、またそれコツコツやんなきゃいけねえぞ」って。そしたら必死こいてやりました(笑)。

――最後に書かれた処世術、泣けます……。鳥人間コンテストで、「必要とされたら下を見る前に飛ぶ」っていう。

鈴木:ずっとスカしたようなこと言ってますけどね。自分に期待してくれる人とか、いいと思ってくれる人に対しては全力で……って、言いたかないですよ、全力とか。努力するとか。でも僕は自分に向いていることで自分を買ってくれる人がいれば、それに応えるだけのことは絶対にします。

鈴木:テレビでも、僕らのお客様は視聴者じゃないですから。好感度も上げようなんて思ってないです。ほんとに好感度を上げるべき人は、ディレクターさんやメディアの方です。視聴者なんかどうでもいいですから。だからこうやって取材を受けても、お客様ですから全力で出来る限りのことはやります。じゃないと失礼な話ですし。社会人として当然のことですよね。なかには出来ない奴もいますけど。お客様が誰かということに重点を置いて、じゃあどこでどう頑張るか考えるのは大事じゃないでしょうか。

鈴木:それと、ライブとかでお金を払ってくれるお客さんは大事にします。テレビを見てぶつくさ言ってる奴は、所詮タダですからね。タダのくせに、「最近のテレビはつまんなくなった」とかクレーム言って。そりゃそうだよ、お前らがクレーム出すんだから。やれるものもやれなくなったわ、っていう。

――現代社会を生き抜くための、一番の秘訣はどんなことでしょうか?

鈴木:賢く、というのは大前提で、「客観的に自分を見て、自我が出ている部分があれば、消せ」ということです。個性の時代だなんて言ってるでしょ。クソ食らえですよね。社会の一員である限り、個性なんてものは邪魔でしかないです。凡人に限っての話ですけど。10年、20年に一度の天才は、個性をバリバリ出していいと思うんです。ところが最近の若い奴らの教育は「個性を大事に」って言うばかりで、まあみんな個性があると勘違い。才能もないのにスゲェ個性を押し売りしてくるんですよ。ほとんどの奴は個性なんかなくて、ただのワガママなんです。だからそういう風にならないために、まず自分を消して、人にどうやったら好かれるかを考えるわけです。

鈴木:テレビの仕事って、オーディションなんですよ。どこどこで番組入りました、どこどこ行ってください。で、毎回勝ち続けないといけないんです。じゃないとテレビには出られませんから。でも初めての知らない現場で、力なんて発揮できないです。じゃあどうするかと言うと、現場の人と仲良くなります。仲良くなると、友だち感覚です。ダメだったとしても、この人が上手く編集してくれます。友だち同士だから、それはオーディションじゃなくて友だちの番組に出るということになる。そのためには側にいる人に好かれないと。嫌われ者を演じるのはいいんですよ。でもほんとに嫌われたらダメってことです。“芸能界一の嫌われ者”って言われている僕が言っても説得力ないかもしれないですけど(笑)。

「スタッフやマスコミを大事にする」というだけあって、こちらが恐縮するくらい全力で毒を吐いてくださった鈴木拓さん。正直、この取材でそこまでする必要はあまりない。だからこそ嬉しくてたまらず、またぜひ一緒に仕事がしたいと思う。初対面でそう思わせるというのは、やはり相当、処世術に長けている。

 『クズころがし』に収められた処世術をいくつか実践した二週間後、思わぬ新しい仕事が舞い込んできた。なんという魔法のような即効性! これ程までに痛快かつ実用的な自己啓発本は、類をみない。

取材・文・撮影=尾崎ムギ子