飛んで撮る、だけじゃない ドローンに秘められた可能性とは?

ビジネス

公開日:2015/8/13

Drone and Moon By Don McCullough

 「ドローン」という言葉はすっかり一般的になった。それも残念なことにどちらかというと、怪しいとか、怖い、というイメージで、だ。首相官邸への飛来、善光寺への落下、海外では拳銃を搭載したドローンの映像が投稿されるなど、マイナスイメージばかりがテレビでは報じられているからだ。筆者も、電車でドローンを見える状態で運んでいたところ、乗客に怪訝な顔で見つめられたことがある。

 しかし、そんな先入観だけでドローンを捉えていると、それがもたらす大きな変化の本質を見誤ることになる。ビジネスの観点からドローンを巡る現状と近未来の姿をつぶさに描いた『ドローン・ビジネスの衝撃 小型無人飛行機が切り開く新たなマーケット』を 一読すると、それがよく分かるはずだ。

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 この書籍では、ドローンに対する「空飛ぶスマートフォン」という喩えを紹介している。スマートフォンに搭載されている、カメラ、センサー、通信チップ、バッテリーといった技術の進化が、それらの小型軽量化・低価格化を促し、ドローンの急速な普及にも繋がったという訳だ。

 本書の著者(以前紹介した「3Dプリンターが創る未来」の監修者でもある小林啓倫氏)が注目するのは、ドローンの「自律性」だ。ドローンといえば、ラジコンヘリのように人間が操縦するイメージが強いが、「空飛ぶスマホ」であるドローンは、常時インターネットに繋がり、クラウド上のデータを自ら参照しながら、自動的に飛行できる――その点こそがドローンの活用の鍵を握る、という。

 有名なところでは、米アマゾンが発表したドローンによる配送だろう。人が操縦するのではなく、アマゾンの注文情報に基づいてドローンが自動的に倉庫から荷物を持ち出し、発注から30分以内を目標に配送先に直接それを届ける映像は、強い衝撃を関係者に与えた。Eコマースのボトルネックの1つであった、物流の考え方を大きく転換するものだったからだ。


ドローンを用いた新たな配送サービス「アマゾン・プライムエア」

「重たいものは運べないのでは?」「雨の日や、いたずら対策はどうなっているのか?」といった疑問の声も当然上がる。しかし、アマゾンによると「配送の86%は2.3キロ以下」だという。この重さであれば、大型のドローンであれば運搬が可能だ。また、防水対策も(それこそ防水スマホのように)改良が進んでおり、いたずらに対しては、人感センサーの活用や回避のアルゴリズムが防犯分野での研究が進んでいる。関連する規制が緩和され、ルールが整備されれば、数年以内に実用化されている可能性が高い。

 物流だけでなく、検査や災害対策の有効な道具としてもドローンは注目されている。日本でも老朽化したトンネルの崩落など、インフラの検査の重要性が叫ばれている。しかし、それを人の目で1つ1つ確認していくと、膨大な時間と費用が掛かる。ドローンで自動的に検査が行われるようになれば、私たちの暮らしの安心・安全の度合いも高まるはずなのだ。「人間の仕事を奪うのではないか?」という指摘には、本書ではデータを示しながら、メンテナンスやシステム構築・保守などの新たな雇用が生まれることも指摘されている。


ドローンで撮影されたタイ反政府デモの模様。「ドローン・ジャーナリズム」の研究も進んでいる

 ドローンは決して怪しい・怖いものではなく、私たちに役立ち、引いては多くのビジネスの可能性も秘めた存在だ。そして、技術の面ではハードルが1つ1つクリアされていっていることが分かる。残る大きな障害は、規制やルール作りなのだ。本書では、1865年にイギリスで導入された「赤旗法」を例に行きすぎた規制に警鐘を慣らしている。当時発明された蒸気で走る自動車を、馬車業界からの働きかけで、必要以上に規制し、その普及を妨げてしまった、というものだ。最高速度をとても低く(市内で3.2キロ)また安全のために、としてその前を赤い旗を持った人間が先導しなければならない、としたこの規制は、蒸気自動車の可能性をすっかり奪ってしまった。

 いま、日本でも首相官邸などの重要施設上空(敷地から300メートル以内)でのドローンの飛行を禁止する法案が衆議院を通過したり、地方自治体でも公園での飛行を禁止する条例が次々と生まれている。これらは、ドローンによる例えばデモの報道に制約を与えないだろうか? あるいは、ドローンの操縦や開発のための機会を必要以上に奪うことになっていないだろうか? 安全への配慮はもちろん大切だが、その進化や普及の足を引っ張る内容になっていないかが気になるところだ。

 国内外のドローンを巡る状況と未来を、網羅的にリポート・考察する本書はドローンに関心を持つ人にとっては必携の書と言える。夏休みにドローンに挑戦してみたいという人にも「単に飛ばして撮る」だけではない、その可能性を本書を通じて感じ取って欲しい。

文=まつもとあつし