渋滞はこれで解決? 渋滞学が解き明かす嫌な混雑のメカニズム

科学

更新日:2015/8/14

 お盆シーズンに突入で、渋滞に巻き込まれて早速イライラしてしまったという人も多いのではないだろうか。多少の渋滞ならば同乗者と会話したり、音楽を聞いたりしながら気を紛らわすこともできるが、長時間に渡り巻き込まれるとイライラだけでなく、体の疲れもでてきてしまい、目的地に着いても何もやる気が起きないということもあるだろう。そんな長期休みの敵である渋滞について研究した『渋滞学』(西成活裕/新潮社)という本がある。本書から渋滞のメカニズムを探ってみよう。

 本書によると高速道路の渋滞が起こる箇所1位は「サグ部・上り坂」となっている。サグとは英語でsagと書き、たわみを意味する。具体的には100m進むと1m上昇または下降するぐらいの坂だ。サグは傾斜が非常に緩やかなため上り坂だと気付かず、アクセルそのままで走ろうとしてしまうので自然とスピードが落ちることが多い。

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 ようやく坂だと気付いてアクセルペダルを踏み込んだ時にはもう遅い。すでに後ろの車との車間距離は縮まり、その後ろの車間距離も縮まりと連鎖していき、やがてブレーキを踏んでしまう。すると、今度はそのブレーキが、どんどん後ろへと連鎖し渋滞がおこる。車間距離40mまではギリギリ走行を保てるがそれ以下だと車は止まってしまう。これは自由走行している車が急ブレーキを踏んでギリギリ止まれる距離に等しい。1kmあたり約25台ほどだ。

 車間距離が40m以下でも時速80km程度で車が走れている状態を“メタ安定”という。これは、いつ渋滞になってもおかしくない車の密度なのに、渋滞せずに自由走行と変わらないスピードで走っている不安定な状態だ。このメタ安定は長くは続かず、5分から10分ほどで渋滞になってしまう。メタ安定から渋滞を回避することは、現状不可能。しかし、メタ安定が起こりやすい場所を知り、そこを避けて運転することで渋滞を回避することは可能だ。

 メタ安定状態が起こるのは、サグ部、カーブやトンネル、合流分岐部などがあげられる。毎年、混雑する中央自動車道の小仏トンネル付近は、峠に作られた坂道でありサグとトンネルというメタ安定を作りやすいポイントが重なっているため渋滞しやすい。

 しかし、高速道路の場合は一般道に降りてというのもなかなか難しい。いざ、渋滞に巻き込まれてしまった場合はどうすればよいのだろう。

 2車線の場合は追い越し車線ではなく、走行車線を走るほうが早い。自由走行の場合は追い越し車線が速いが、混雑している場合は走行車線のほうが少しの差であるが速く走れる。これは車間距離が200mより短くなった時に人間が追い越し車線のほうが速いと判断し車線変更するからだ。3車線の場合も同じく、一番左の走行車線を走るのが良い。一番の右の追い越し車線から順に車の走行量が増えるという。
 しかし、著者の西成さんは「この(調査)結果を皆が知ってそのように振る舞ってしまえば意味がないため、本音を言えば、この結果は本書に書きたくなかった」と本書で書いている。この知識、皆が知って混雑時に走行車線を走るようになると意味がないため難しいところである。

 渋滞学では車の渋滞だけではなく、人間やアリ、インターネットなどさまざまな渋滞を研究している。車の渋滞に関しては人間が運転する限り確実に避ける方法はなさそうだ。長距離トラック運転手のように長年にわたって知識と勘を蓄えるほうが、よっぽど渋滞を避けるには確実なのかもしれない。

文=舟崎泉美