恋愛が面倒な若者たちに捧ぐ! アラサー童貞・処女の“性春”群像劇に学ぶ、泥臭い恋愛

マンガ

公開日:2015/8/16

 6月に発表された内閣府の意識調査によると、20~30代の未婚男女の約4割が「恋人は欲しくない」と回答したのだとか。その理由として一番多かったのが、「恋愛が面倒」というもの。確かに、恋愛は面倒だ。正解のない問いの連続で、心身ともに疲れきってしまうこともしばしば。それなら一生恋愛なんてしなくていいや。そう思う若者が増えてしまうのも、仕方ないのかもしれない。

 けれど、その一方で、やはり恋愛っていいなぁと思わされるマンガがある。『それでも僕らはヤってない』(村山渉/芳文社)。本作は、アラサー童貞・処女たちの恋愛模様を描いた、“性春”群像劇だ。これまでちゃんとした恋愛をしてこなかった彼らは、いわゆる恋愛ビギナー。それゆえに、恋を手にしようと奮闘する姿は、ひどく滑稽で泥臭い。だけど、それがいいのだ。

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 最初のエピソードで主人公を務めるのは、大手ハウスメーカーに勤務する時田晃介。彼は決して見た目が悪いわけではないのだが、昨今急増している草食系というやつで、恋愛に関しては非常に奥手。上司に連れられたキャバクラでも、「絵に描いたような童貞」「ダサい」とイジられてしまうほどだ。

 そんな時田は、あるとき、高校生時代にひそかに想いを寄せていた藤野陶子と再会を果たす。まさかに偶然に、時田の妄想が暴走。まるであのときから時間が進んでいないみたいで、彼女も処女のままなんじゃ…。けれど、現実は残酷なものというかなんというか、憧れの藤野はバツイチだったというオチに衝撃を受けることに。上司にも「バツイチ女と童貞じゃつり合わないな」と笑われてしまい、人生経験の差に落胆してしまう。

 恋愛において、経験の有無は非常に大きな意味を持つ。最初からスマートに振る舞える人なんていない。失敗を繰り返すたびに成長し、耐性を身につけ、うまくこなせるようになっていくのだ。その点において、時田と藤野のふたりは、ハナから同じステージに立つことはできないのかもしれない。しかも、藤野はバツイチ。人一倍恋愛に臆病になっている。そんな女性を経験不足の童貞がオトすなんて、どんな無理ゲーだろうか。

 けれど、時田の不格好なまでのまっすぐさが、藤野の心を動かす。「(なにがあっても)大丈夫!」と言い切ってしまう、その根拠のなさが、離婚で傷ついた心に染みたのだ。

 世の中には、恋愛を繰り返し、非常にすれてしまった人たちがいる。女なんてこんなもんだ。男っていつもこうよね。恋愛で負った傷がいつしか諦めに変わり、未来に対する期待というものを忘れてしまう。けれど、童貞はその対極にいるのだろう。経験不足からくる臆病さは否めないが、それ以上にピュアでまっすぐ。傷ついた経験値による逃げ道など用意せず、ぎこちないながらも正面からぶつかろうとする。そして、そのひたむきさが、ときに心を打つのだ。

 本作に登場するアラサー童貞・処女たちは、いずれも時田のように不器用で不格好。だけど、打算も計算もなしに相手とぶつかろうとする姿は、非常に美しい。

 恋愛は、やはり面倒なものだ。だけど、それでも誰かを好きになること、そしてまっすぐに思いをぶつけるということは、陳腐な言葉だが、素晴らしい。20~30代のうちに、「とにかく面倒だから、恋愛しない」なんて決めつけてしまうのは、早計なもの。まずは本作を読んで、泥臭い恋愛の良さを知ってみてはどうだろうか。

文=前田レゴ