津田大介「日韓関係の今後に対して、半分は悲観的だけど、半分は楽観的」【津田ひろみ×津田大介対談<後編>】

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更新日:2015/10/9

 在日コリアンと日本人の国際恋愛を描くコミック短編集『夜明けのエレジー』(津田ひろみ/双葉社)の発売にあわせて急遽行われた、作者の津田ひろみさんと、ジャーナリストの津田大介氏による対談取材。日本と韓国が歩んできた20年の時の流れをふまえつつ、私たちが今後見つめるべき方向とは…?

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津田大介:皮肉なことに、日韓をつなごうとする津田さんの4作品が全て描かれたあとに、日韓の政治的な状況が急速に悪化していってしまった。津田さんの中では、日韓のこの20年の変化を、どうごらんになりますか。

津田ひろみ:そうですね。あのう…。言っていいのか悪いのか、わかりませんけれども、やはり罪悪感みたいなものが日本にあって。謝罪も込めて、金銭的なものや技術的なものを、ずっと支援してきたわけですよね。それで、李明博(イ・ミョンバク)さんも、「これからは未来志向で行こう」とコメントしていたのに、自分の政権基盤が危うくなると竹島に乗り込んだり、従軍慰安婦問題に対する謝罪を求めてきたわけですよね。で、次の朴槿惠(パク・クネ)さんが、「被害者と加害者は1000年経っても変わらない」みたいな発言をされてしまったところで、一般の日本市民は「ああ、もういいや…」って、疲れちゃったと思うんですよね。

津田大介:とはいえ、政治的にはこれだけケンカをしていても、1対1の人間同士になればつながることができるし、人同士のつながりが大きな流れに変化したときに、世論を受けて日韓政府が変わることもあるかもしれません。日韓正常化50年という節目でありながら安倍首相以降、首脳会談すら開かれていない状況がありますが、日韓関係の未来、津田さんはどうごらんになりますか。

津田ひろみ:韓国の人は情に熱くて、韓国旅行に行けば、時にうっとおしいほどの優しさやあったかい国民性をかいま見ることができます。基本的に人と人とになったら、韓国の人が「日本政府は嫌いだけど、日本人の○○さんは好き」と言うのと一緒で、うまくやれるんじゃないかと思っています。
 そんな日韓のような特殊な関係性の場合は、相手にへつらうことなく、かといって屈服させようとするのでもなく、平行線でもいいからあたたかい視線を投げかけ続けていくことが大切だと、本で読んだことがあります。そして日本人は、韓国の歴史を知りませんよね。やっぱり、相手のことを知ることも大切だと思います。

津田大介:彼らが怒るのは、過去にそれだけの理由があったからで。たとえば彼らからしてみれば、豊臣秀吉の朝鮮出兵から続いている話なんですよね。日本兵が討ち取った2万人近くの朝鮮や明国人の耳や鼻を、戦功の証として切り取り持ち帰って作った京都市の耳塚とか。
 一方で、日本からしたら「いや、そもそも鎌倉中期の蒙古襲来、元寇(げんこう)で向こうから攻めてきたんじゃないか」という話で、どっちもどっちな状況がある。だから、問題を切り分けていくしかないんでしょうけど……。

津田ひろみ:ただ、恨み心があるうちは、晴れないんですよ。それを捨てない限りは、続くと思います。

津田大介:そうですね。一朝一夕に解決できる問題ではないと思うので、少なくとも政治的には距離を置きつつ、文化交流や経済交流を、とにかく進めていく。津田さんも、今後機会があれば、またこのテーマで作品を描かれるご予定はありますか?

津田ひろみ:もう、日本人と韓国人、北朝鮮の人、というシチュエーションではなくて、「人として、どうよ」ってところ、国籍を越えた普遍的なところで、何か描けたらいいな…と思っています。

「まっすぐにその人を見る」大切さ

津田大介:今回、4作品が改めて一冊の単行本として発行されましたが、完成されたものを読み直してみて、新たに気づかれたことはありましたか。

津田ひろみ:台湾籍の少女と、在日韓国人青年の恋愛を描いた「情宜(ジョウギ)」を読み直したとき、解説を書いてくださった紙屋高雪さんが書かれたのと、同じことを感じましたね。「国籍や民族というフィルターで人を見るな」「まっすぐにその人を見よ」。人って、自分のことは棚の上に置いてあれこれ言うものですよね。でも、自分を省みたらたぶん同じような間違いを冒している。だからまず私たち自身が、自分の襟を正すことから始めなければいけないんじゃないかと思います。

――コミックを通じて、先入観なしに「まっすぐにその人を見る」ことは、多様性に富み、共生を求められる現代を生きる世代にとって共通の、難しくも大切な命題だと感じられました。

津田大介:たとえばコミュニケーションって、まず、それぞれの人にそれぞれの事情があることを理解するところから始まると思うんです。しかし、直接的なコミュニケーションはともすれば一方的になりがちで、相手に対する想像力みたいなものがね、どうしても削がれていくという面もあるのが悩ましいところで。

津田ひろみ:人の痛みがわかることがカギですね。釈迦の説“慈護咒(じごしゅ)”に敵対する相手にも慈しみをもって接しなさいとあるんです。それも母親が自分の子を命懸けで守るような慈しみでです。私もけっこう短気なところがあるので、カーッとなることもあるんですけど、心が迷ったとき、何か規範になるものがひとつ身に付いていれば、感情を修正する力にはなると思うんですよね。

津田大介:この作品を読んでいて思ったのは、一言で言えば「人間讃歌」のマンガだなと。ひとりだと乗り越えるのが困難なことでも、ふたりだったり、他者と交流していく中で、乗り越えられる部分がある。実はすごく普遍的なテーマが描かれているなと感じました。

津田ひろみ:「善きかな、善きかな」、っていうのがいいんです(笑)。『夜明けのエレジー』の装丁も、夜明けの砂浜に、海へ向かって点、点と、足跡がついているイメージ写真です。日韓も、明るい未来に向かっていけたらいいですね。

津田大介:僕は日韓関係の今後に対して、半分は悲観的だけど、半分は楽観的です。90年代ぐらいまでは韓国の地上波で流すことを禁じられていたJ-POPが、今はテレビで解禁されている。文化活動こそが政治や人々の意識を変えていく時代だと思うので、『夜明けのエレジー』のような本が出ること自体も、日韓関係を改善させるひとつの要素になると思っているんですよ。
 日本の中には、在日問題だけでなく、アイヌ民族や今の沖縄の問題、部落差別的な問題など、歴史的事象に起因している問題がたくさんある。この『夜明けのエレジー』という作品が、過去の歴史や問題を知ろうとしたり、立ち止まって考えるきっかけになってほしいですね。

津田ひろみ:中島みゆきさんの『ファイト!』って歌の中で、「私の敵は私です」っていうフレーズがあるんですよ。結局、そこが大きいなと思います。大切なのはやはり、津田さんもコメントしてくださった、「他者への想像力」をもつこと。まずは、そこからだなと思っています。

取材・文=タニハタ マユミ 写真=善本喜一郎

 

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夜明けのエレジー』(津田ひろみ/双葉社)

ひっそりと穏やかに生活する在日朝鮮の女性とバンド活動に励む青年との美しく激しい恋愛「夜明けのエレジー」、在日韓国人のサーファーとカナヅチの少女の恋愛「共に生きる」、台湾籍の少女と在日韓国青年の恋愛「情宜」、韓流スターと韓国に留学経験のある少女との恋愛「讃歌」。著者津田ひろみのやさしく鋭い描写が読む者の胸をうつ感動短編集コミック。