日米の新聞や教科書が伝える太平洋戦争にはどんな違いが? 検証本を読む

社会

公開日:2015/8/20

 戦後70年ともなれば、その当時を体験した人はごく少数となっている。まあ1971年に「戦争を知らない子供たち」という歌が流行っているように、戦争の記憶が風化していくことは以前から叫ばれていた。そして現代、広島と長崎に原爆が投下された日を正確に答えられなかった若者が7割以上に上ったという調査結果は、それが杞憂ではなかったことを明確に教えてくれている。

 では今の若者は、戦争をどのように捉えればよいのか。例えば「戦争反対」を唱えるにも、なぜ反対しなければならないのかを理解していなければ、その行動は空虚なものとなってしまう。戦争を体験してその“痛み”を知っている人ならばともかく「戦争を知らない」世代の人々は、どう己の行動に説得力を持たせていけばよいのだろうか。

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 最初にやらなければならないのは、「事実を正確に知る」ことだろう。いかに声高に「戦争反対」を叫んだところで、広島に原爆が落ちた日も知らないのでは甚だお粗末である。別に他者が唱える「戦争反対論」に乗っかって騒ぐのも自由だが、その前に一度は「太平洋戦争」について予断を交えずに学ぶ必要があると思う。

 そういう意味で役に立ちそうなのが『日米の教科書 当時の新聞でくらべる太平洋戦争』(辰巳出版)だ。本書は太平洋戦争について「山川出版社」や「ジ・アメリカンズ」など日米の教科書でどのように記述されているかを示しつつ、「朝日新聞」や「ニューヨークタイムズ」の一面から当時の日米双方の様子を解説している。

 基本的な流れとしては、太平洋戦争において画期となった事象を取り上げ、それに対応する日米の教科書記述と新聞一面を紹介。大きな事象に関してはより詳細な情報を付加して解説している。他に開戦前の日米戦力比較や各国との相関図も掲載。特に開戦前の戦力は、日米でそれほど大きな差がないということが示されている。こういうデータを見れば、短期決戦ならあるいは……と当時の日本の軍部が考えたことも多少は理解できるのではないだろうか。

 教科書での日米の違いは明確で、アメリカは戦勝国の余裕だろうか、各事象に対して割と詳細な記述が多いのに対し、日本は事実だけを記した極めて簡潔な記述が目立つ。特攻隊に関するものなどは、戦後まもなくから直近の教科書の中では2008年の日本史Aの「日本軍は特別攻撃隊(特攻隊)を編成し、飛行機などによる体当たり戦法を採用したが、劣勢を立て直すことはできなかった。」という一文のみであるという。これでは若者が特攻隊のことを知らなくて当たり前だ。戦争と正面から向き合うなら、悲惨な事実であってもしっかり記述して、後世に伝えなければならないのではないだろうか。

 当時の新聞はといえば、もちろん日米ともに起こった事実を記載しているのだが、日本ではそれは序盤まで。ミッドウェー海戦あたりから事実の隠蔽や戦果の誇張が目立つようになる。その原因は「大本営発表」という、日本の軍部が発表した公式の情報がすでに捏造されたものだったからだ。都合の悪い情報を隠蔽する体質は、現代にも通じるところがあると感じることもできるだろう。

 本書では太平洋戦争が終わるまでの期間を、事実だけを客観的に記述している。欲をいえばもっと多くの事象──例えば山本五十六長官が戦死したあたりの新聞がどのようになっていたかなどを、同じような体裁で紹介してあればより資料性は増したと思う。ただ入門書としては問題なく、太平洋戦争で起こった事実を知る上でのガイドラインとして役立ってくれるだろう。ただし、そこで終わってはもったいない。事実を認識した上で、この戦争をいったいどのように考えるかが大事なのだ。個々人が戦争に対する自分自身の意見をしっかり持つこと。それこそが歴史を知った人間が果たすべき責任なのだと思うのである。

文=木谷誠(Office Ti+)