作りたいから作った!? ハイクオリティな中国産アニメ「雛蜂 B·E·E」とは?

アニメ

更新日:2015/8/19

 中国オタク事情を連載している百元です。第14回は中国のオタク層をターゲットとして制作された中国国産のアニメ、『雛蜂 B·E·E』に関して紹介させていただきます。

『雛蜂 B·E·E』(以下「雛蜂」と略)は2009年から連載されている中国のウェブ漫画を原作としたアニメで、今年7月から全4話予定で配信が開始されています。この作品の内容は大雑把に言えば近未来を舞台にした、虫をモチーフにしたサイバー兵士(ヒロインも含む)の出てくるSFバトル系の作品といった所ではないかと思いますが、中国オタク事情を追っかけている身としては「中国のオタク向けのアニメ」という部分も見逃せませんし、作品以外の部分で日本のアニメの要素を活用しているのも興味深い所です。

「雛蜂」は昨年の終わり頃からアニメ制作に関する具体的な動きが出始め、本格的なプロモーションも行われていきましたが、PVに日本の声優の花澤香菜さんを起用したことでも話題になりました。それ以前にも中国のアニメの日本語版に日本の声優を起用するといったことはありましたが、プロモーションの段階から日本の声優を起用して、その情報やコメントも取り上げながら……というのはそれまでなかったものですし、花澤香菜さんは現在の中国のオタク界隈で最も知名度の高い女性声優でしたから、当時の中国オタク界隈にも結構な衝撃を与えることとなりました。

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「雛蜂」は現在第1話の中国語版が7月に配信開始され、中国のオタク界隈ではそのクオリティを歓迎する声が上がっているようです。また今後の日本語版の配信も予定されており、現在発表されている日本語版キャストの情報には、ヒロイン役の花澤香菜さんをはじめとして、立花慎之介さんや折笠富美子さんといった日本の声優の名前が並んでいます。それ以外にも秋葉原に看板広告を出すなど、作品の内容に加えて作品の周辺の、中国のアニメではこれまでなかった動きが何かと話題になっている作品ですね。

やりたかったからやった!制作側のスタンス

 日本語版の制作や日本の声優を起用しての広報展開などをなぜあえて行ったのか、関係者の方から教えていただいた話によれば

「原作漫画には海外のファンもいたので、日本のファンにもアニメ版を日本語で楽しんで欲しかった」
「秋葉原に出した看板広告も日本のアニメファンに作品の配信を伝える手段の一つとしてのもの」
「海外展開に関しては今までになかったことをやりたかった。日本語版のアニメもそうだが、日本版やアメリカの実写版などもやりたい」

 とのことで、国内に限らず日本やそれ以外の国のオタク層へのアピールも考えて……ということですし、商業的な理由以外にも制作側が「やりたかったから!」という所があるようです。最近の中国のオタク業界にはオタク出身という方も随分と増えているそうですが、そういった人達が関わる企画の中には妙な熱さを備えて予想もしなかった方向に進むケースもあり、驚かされることも珍しくありません。

求められるクオリティと、中国のオタク向けの内容

 「雛蜂」のように現在中国のwebで配信されるアニメに関しては作品のクオリティや独自性、それに加えて日本のアニメを見て育った中国の若者、日頃から日本のアニメを楽しんでいる層にとって面白い表現やネタなどが求められるようになってきているそうです。

 以前から中国では何かと「自国産」を求める傾向が強くありましたが、アニメに関してもそれは変わりません。そのため、一昔前であれば「オタク向けっぽいビジュアルや内容」、そして「中国国産」であればそれだけでもある程度の評価はされていました。しかし最近では国産あるいは中国資本の主導で作られる作品というだけではダメだという話ですし、内容に関しても中国のオタク層が「自分達のために作られた、自分たちの方を向いている作品」と感じられなければ厳しいようです。

 そして「雛蜂」はその辺りのハードルもクリアして中国のオタク界隈で好評を得ている模様です。「雛蜂」の場合、中国で人気となった原作漫画をアニメ化している上に、アニメ内の描写に関しても背景となる場所、例えばショッピングモールや小道具などがきちんと中国的なものになっています。
またクオリティに関しても、長年中国でオタクをやっている人が
「ついに中国でも、こういう内容でこんなクオリティの作品が出てきたのか……」
と感動したなどという話も聞きます。

 もっともクオリティの維持に関しては苦労しているそうで、スケジュールやコストの管理なども含めて試行錯誤をしながら進めているとのことです。関係者の方の話によれば、「雛蜂」は中国のスタジオだけでなく韓国や北朝鮮のスタジオへの外注も行っており、アニメのクオリティを考えれば比較的安価で作れたということです。しかしそれと同時に
「制作スケジュールの管理がかなり大変で……」
という苦労話も聞こえてきました。

動画サイトを舞台にした、web配信アニメ

 最後に、「雛蜂」が配信されている現在の中国のweb配信アニメと、中国のオタク向け国産アニメ作品の状況について紹介させていただきます。

 日本のアニメが中国の動画サイトで正規配信されているということは以前のコラムでも書きましたが、現在の中国では動画サイトでのアニメ視聴が活発になっており、中国の国産アニメにもテレビ以外にweb配信という活路が生まれています。

 そしてこれは比較的対象年齢の高い作品、オタク向けの作品にとって非常に大きなものとなりました。現在の中国のテレビでアニメを放映する場合、「害や毒のないもの」を要求される面が非常に強く、対象年齢の高い作品、オタク向けの作品を放映するのは極めて難しいとされています。

 しかしweb配信の場合はその辺りの規制管理が比較的緩く、ある程度好き勝手な作品を作って配信できる模様です。「雛蜂」に関しても最初の部分、ショッピングモールになだれ込んだテロリストによる非道の数々といったシーンはテレビならば確実に不可能だったと思われます。もっとも、いくらweb配信でも許されることには限界がありますし、中国特有の事情による制約は相変わらず存在します。また前例があまりないことから作り手側のさじ加減も過激になり易いようで、中にはやり過ぎて問題になってしまう作品もあるとか……

 何はともあれ、「雛蜂」の今後のアニメ展開がどうなるのか、そして中国のオタク界隈にどのような影響を与えていくのかというのが気になりますね。

■公式動画
<「雛蜂」序章上 天使降臨 日本語 日本語字幕>

文=百元籠羊