大人になると1年が短く感じる理由とは

生活

公開日:2015/8/20

 年を重ねるにつれ“最近”という言葉の期間が長くなっている。

 つい先日も友人との会話で「最近って、いつの話?」と聞かれ、「2~3年前」と答え笑われた覚えがある。2~3年前は大げさにしても、大人になれば昔のことが最近のように感じられることは誰にでもあるはずだ。その理由はやはり大人になると時間が短く感じるからだろう。

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 先日、文庫化された科学者 一川誠氏とジャーナリスト 池上彰氏の対談本『大人になると、なぜ1年が短くなるのか?』(一川誠、池上彰/宝島社)では、時間について認知科学の視点から語られている。本書から大人になって時間が短くなる理由を探り、ゆったりとした時間を過ごす方法について考えてみよう。

 人間の脳には視交叉上核と呼ばれる細胞群がある。この細胞群は、心拍数や血圧、体温などを変動させ代謝に影響を及ぼす。本書によると、この代謝が大人になると時間が短く感じることに大きく関係しているようだ。

 認知科学では、身体が元気で代謝が活発だと実際の時間よりも、心理的な時間が速くなると言われている。これは、実際の時計を思い浮かべてみるとわかりやすい。ひとつは世界標準通り規則的に動いている時計。もう一つは個々の人によって速さが違う心の時計。自分の中の心理的時計が1分経っているのに、時計を見た時に45秒しか経っていなかった場合、人は、まだ45秒しか経っていないと思い時間の流れが緩やかに感じられる。

 しかし、逆だとどうだろう。心理的時計が45秒しか経っていないのに、実際の時計が1分経っていれば、もう1分経ってしまったと思い時間が速く過ぎたように感じられる。

 体調が悪かったり、疲れが溜まっていたりする週末など、ぼーっとしているとあっという間に時間が経過していたということはないだろうか。これは、体調の悪さが代謝の悪化につながっているためだ。しかし、同じ体調が悪くても熱がある場合は別だ。熱でうなされた深夜に寝付けず、いつまでも朝が来ない感覚に陥った経験はないだろうか。それは、熱が上がっている時は代謝も良くなり時間が経つのも遅く感じられるからだ。

 また、この代謝は時間帯によっても違う。起きてすぐの朝の時間帯は代謝が悪いため時間が速く感じられる。着替えて、食事をして、メールチェックなどをしているとあっという間に時間が経っていた。ということは誰にでもあるだろう。一番、代謝が良くなる時間は起きてから6時間後。午前中よりも午後の時間のほうが長く感じるのも代謝の影響だ。

 このような話を踏まえると、子どもの時間が大人に比べて長いのは、子どもの代謝が大人よりも良いことが大きく関係しているのも納得できる。

 その他、学校行事の充実も子どもの時間が長いと感じる理由の一つだ。小学校や中学校では、運動会や文化祭に遠足、修学旅行など一年を通してさまざまなイベントがあった。しかし、大人になると学校行事のようなわくわくするようなイベントは少ない。

 一川氏は「日常生活以外の特別な出来事が多いと、時間は長く感じられるのです」と言う。10分ほどのうたた寝でも、たくさんの夢を見ると1時間ぐらい眠っていたように感じることはないだろうか。これは短い時間にたくさんの出来事が起こるからといえる。

 また、人間は空間が広いほうが時間がゆっくり流れているように感じる。そのため、体が小さい子どもは空間が広く、時間を長く感じる傾向にあるという。

 大人になって時間が短くなったと嘆いている人は筆者だけではないはずだ。そういう人はふと周りを見渡してほしい。狭いオフィスで仕事をし、いつも疲れながら、会社と家の往復で終わる単調な日々を過ごしているのではないだろうか。

 時間がないと嘆くよりも、まずは自分の周りの環境を変えてみることからはじめてみることが、ゆったりとした時間を過ごすのに一番必要なことなのかもしれない。

文=舟崎泉美