「快速」と「準急」はどっちが速い?ややこしいけど、クセになる鉄道のオキテ

社会

公開日:2015/8/22

 今年の夏も残りわずか。せっかくだから、この夏を最後まで満喫すべく、電車を利用してどこか旅行に出かけようと考えている人もいるのではないだろうか。だが、慣れない土地での電車の乗り継ぎはそれだけで一苦労。いくらネットで路線検索できるとはいえ、普段利用しない電車を上手く乗りこなすのは難しい。

 交通史・文化研究家の所澤秀樹氏著『「快速」と「準急」はどっちが速い? 鉄道のオキテはややこしい』(光文社)では、「のぞみ」や「はやぶさ」といった“列車名”の歴史や首都圏でよく見られる他社線との“直通運転”など電車のややこしいオキテの数々を紹介している。鉄道オタクはもちろんのこと、電車に乗りながらふと電車について疑問を覚えたことのある者にも、役立つ楽しい鉄道雑学にあふれたディープな1冊だ。

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 たとえば、電車の種別の話は奥が深い。特に、西武鉄道池袋線には、さまざまな種別の電車があることで知られ、「ちちぶ」「むさし」という名の有料の「特急」(乗車に特急券が必要な列車)を筆頭に、「快速急行」「急行」「通勤急行」「快速」「通勤準急」「準急」「各駅停車」という具合に、ズラリと8種類も揃っているのだから驚きだ。とはいえ、過去にはこれに加えて、「通勤快速」「区間準急」も存在していたというのだから、これでもましになった方らしい。だが、乗り慣れている人ならばともかく、旅のよそ者にとっては、この区分は難しい。どれがどの程度速いのか、その種別が分かりにくいのだ。「特急」「急行」「準急」「各駅停車」の4本立てであれば、はじめて利用する旅の者でも序列は分かる。だが、特にクセ者なのが、「通勤◯◯」という電車の種類である。

 西武鉄道池袋線や近隣の東武鉄道東上本線では、「通勤急行」は「急行」より乗車時間がかかるが、西武鉄道でも新宿線では「通勤急行」は「急行」よりも速い。関西では、京阪電気鉄道京阪本線も、「通勤◯◯」のほうが、「◯◯」よりも速い。だが、同じく関西の阪急電鉄では、神戸線、宝塚線、京都線とともに、「通勤◯◯」は「◯◯」よりもゆっくり走るようになっている。また、「快速」というヤツも意外と厄介だ。西武池袋線では「急行」と「準急」の間に位置づけられているが、東武鉄道伊勢崎線(同線のうち浅草・押上〜東武動物公園間は「東武スカイツリーライン」)や日光線、東上線では、「快速」は「急行」よりも早い。さらに伊勢崎線には、「区間快速」という種別がある。これも「急行」よりも早い電車だが、はじめて乗る人には一見すると、わからない。北千住から東武動物公園間で「区間快速」と「急行」の途中停車駅を見比べると、前者が春日部のみなのに対し、後者は西新井、草加、新越谷、越谷、せんげん台、春日部となる。「東武動物公園」にホワイトタイガーでも見に行くときには、要注意。「区間快速」よりも「急行」のが速いだろうという文字通りの印象に惑わされてしまうと、ホワイトタイガーに会えるまで、かなりの時間がかかってしまう。アナタの街の最寄りの電車では、電車種別はどうなっているだろうか。アナタのそばの電車の序列が世の中のスタンダードではないかもしれないことには注意が必要そうだ。

 だが、電車の速さの序列さえ覚えれば良いというわけでもないらしい。西武池袋線を例に挙げれば、石神井公園駅は「快速急行」「急行」「通勤快速」「快速」がとまるのに、なぜかそれよりも遅い「通勤急行」は止まらない。どうしてこうも無秩序なのだろうか。そう思ってしまうが、実は、すべては乗客をうまくさばくための工夫なのだ。列車ごとに停車駅を分散させるやり方は「千鳥式運転」と呼ばれ、最混雑時間帯のダイヤで採用される場合が多い。遅い速いの秩序は少々無視して、列車ごとに停車駅を分けることで、電車の混雑を緩和しているのだ。

 こう見てみると、どうも電車のオキテはややこしい。乗客のためを思ったための工夫が返ってわかりにくさを助長していることもある。だが、どうしてだろう。電車のオキテは、首を捻ってしまうが、なぜか惹かれてしまう。奥深さを感じてしまう。電車のディープな世界、アナタもこの本とともにもっと追求してみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ