地元愛が騒ぎ出す!『東京23話』、『名古屋16話』を読む 

文芸・カルチャー

2015/8/22

 物語の舞台が地元だったり訪れたことのある場所だと、ちょっと嬉しい。情景が目に浮かぶし、実在するお店や道だったりすると行ってみたくなる。こんな風に、街に対する「親近感」や「愛着」をテーマにした2冊の本が話題になっている。

 短編集『東京23話』(山内マリコ/ポプラ社)は“街”そのものが喋りだすユニークな小説。千代田区、港区、渋谷区などの東京23区が実際に喋ったらこんな感じ? というのを、うまいこと表現してくれているのだ。

 筆者がまず読んだのは、「シブヤからの恋文(渋谷区)」。若者口調の“渋谷区”が、自分自身のことを紹介してくれる。やたらハイテンションだが、渋谷にまつわる歴史をアレコレ教えてくれるから、読んでて結構タメになる。実際、渋谷にはそれこそ数えきれないほど足を運んでるけど、「恋文横丁」の存在は知らなかった。戦後間もない昭和25年当時の渋谷には、そういう名前の横丁があったんだとか(現在も碑が立ってる)。柳原可奈子を彷彿とさせる喋り方の“渋谷区”が「キャハハ!」と笑いながら、そんな在りし日の街の様子を教えてくれるのが楽しい。

 次は自分自身、最も多く訪れる「ウワサのあいつ(新宿区)」を読んでみる。ナビゲートしてくれるのは新宿西エリアにある京王プラザホテル。再開発で変わっていった新宿の町並みを、ホテルらしく、物腰柔らかい口調で振り返ってくれる。京王プラザホテルが建ってしばらくしてから、新宿住友ビルディングが建って、その半年後に新宿三井ビルディングが建って…って、この前半読んだだけで、なんとなくオチが想像できた。多分最後にくるのはアイツだ。で、案の定、当たってる。どのビルなのかは、読んで確認してみてほしい。

 さて、上記は東京に縁のある人向けだが、もう一冊は中部地方に住む人向け。『名古屋16話』(吉川トリコ/ポプラ社)だ。中区、北区など、名古屋にある16区それぞれを舞台にした、短編集になっている。名駅、ナゴヤドーム、ボンボン、モリコロパークといった、名古屋を象徴するスポットが話の随所に散りばめられており、名古屋住民なら「ここ近いー!」なんて言っちゃいそうだ。名古屋マップなるものがついているので照らしあわせてみるのも面白い。

 賑やかで派手好きというイメージの強い名古屋だから、物語のテンションもさぞ高いのだろうと読んでみたらそんなことはなかった。この本の短編集はどれもちょっぴり切ない。離れ離れになる父と娘や、むくわれることなく終わった夫婦生活を振り返る女性など、ワケありな登場人物たちが主人公だ。派手好き、派手婚、金銭面でケチ、小倉トースト、あんかけスパ…といった、いつもの名古屋とはまったく逆の空気が漂っている。名古屋の新たな側面が見えた気がした。

 普段はあまり考えないが、こういう本を通して、地域愛みたいなものが自分にもあるんだなと感じる。筆者は千葉出身なので、『千葉●話』なんていうのがもし出たら、まっさきに手に入れたい。

文=中村未来